親善試合はあくまでテスト 日本サッカー協会に感じた世界との距離

    なぜ解任は正しくなかったのか

    ロシアW杯本番を間近に控える4月9日、日本サッカー協会はハリルホジッチ監督の解任と西野朗技術委員長を新監督とする人事を発表した。

    昨年の欧州遠征からの親善試合では結果は振るわず、サポーター、さらには一部メディアから批判を浴びていたのは確か。しかし、果たしてこの解任は正しかったのか。

    BuzzFeed Newsでは、サッカーの現状に詳しく、4月12日発売の最新号で「日本の敵の正体」との特集を組むサッカー専門誌「footballista」の浅野賀一編集長に、突然のハリル解任について話を聞いた。


    ーーロシアW杯本番を約2か月後に控える中でのハリルホジッチ監督の解任劇。浅野さんは率直にどう思われましたか?

    なぜ、準備期間がほとんどない今なのか。サッカーの常識ではあり得ない判断なので、それ以外の論理が働いたのかなと思いました。

    ーーこの時期の解任となるとアフリカや中東諸国くらいで、他の国ではほぼ見ません。過去5大会を振り返ると、W杯直前の監督交代が好成績につながったケースはありません。

    アフリカや中東諸国など組織のオーガナイズがない国が一時期の感情に任せてやってしまうパターンですね。

    なぜ、このようなパターンに成功ケースがないかというと、代表のチーム作りというのは常に安定したパフォーマンスを出さなければならないクラブチームのそれとは違って「予選突破」と「本大会の成績」以外に結果を評価できないんですね。

    だから予選が終わった段階で「これでは無理」と思えば監督を代えますし、「本番はこの体制で行く」と判断したならば、それ以降で代える理由はないんです。親善試合は「本番へのテスト」であって、そこでのパフォーマンスに意味はないからです。

    情報化時代でアナリストの分析力が上がり、今後のW杯は「情報戦」になると思います。なので、情報はできるだけ隠した方がいい。中堅・弱小国ならなおさらです。それをクラブチームと同じく目の前の試合で評価すると、大変な間違いを犯すことになってしまいます。

    あくまでテストだった3月の親善試合

    ーー浅野さんはW杯本大会進出を決めた後の、日本代表の戦い方をどう見ていましたか?

    例えば、3月のマリ戦は大島僚太、森岡亮太、宇佐美貴史を同時起用した「攻撃型」で前からプレスをかける形でしたが、これはリードされて点を取りに行く形のテストだと思います。

    本大会でのセネガル戦でスタートからこの形は考えにくい。いろんなシチュエーションを想定してサンプルを取っていたのでしょうし、それでまったく問題ないと思います。

    昌子源、植田直通の鹿島のCBコンビや小林悠、大島の川崎コンビなど同じクラブ同士の連係を使わなかったのも、素の状態でハリルのサッカーにどうハマるのかを見たかったのだと思います。要は勝ち負けを完全に度外視したテストだったんですね。

    ーー9日に開かれた緊急会見で、日本サッカー協会の田嶋幸三会長は親善試合の勝ち負けではなく、選手との信頼関係の崩壊が解任の理由だと強調しました。この点はどう考えていますか?

    監督と選手の齟齬はあったでしょうね。ただ、それはサッカーチームなら大なり小なりどこもあります。

    選手にとって良い監督は「自分を使ってくれる監督」ですしね。
    ハリルは日本に気を使うような政治的な発言を全くしないですし、記者会見でも選手を守る発言をする「いい上司」タイプではない。

    ただ、日本代表に選ばれたからにはどの選手も全力で戦ってくれると信じているので、「この監督の下では選手のやる気が出ない」を理由に解任するのはナンセンスです。

    後退する日本サッカー

    ーー後任監督には西野朗技術委員長が就くことが発表されました。残り2か月となった中で切るカードがなかったこともありますが、この点はどう見ますか?

    W杯の予備登録メンバー35人の締め切り(5月14日)まで準備試合が1試合もないので内部から選ぶしかなかったと思います。選択肢がないのはポジティブではないですね。

    解任を決断するなら「W杯予選終了後」にすべきでしたし、それ以外はすべて遅すぎる。

    現実的に西野監督は、相手によってカメレオンのように戦い方を変えるハリルホジッチの路線を継続するしかないでしょう。ただ、その戦い方のスペシャリストが前回アルジェリアをベスト16に導いたハリルホジッチです。

    ーー今回のハリル解任により、親善試合の意味合いなど日本サッカーを変えるチャンスを逃してしまった印象です。

    ジーコやザッケローニのチームはメンバー固定で目の前の1試合1試合を全力で戦うクラブチーム的なやり方で、本番では相手チームに研究され、丸裸にされて敗れました。

    一方、岡田武史監督が率いた2010年のチームは、狙ったことではありませんが直前で180度やり方を変えたのが奏功したという見方もできます。

    代表チームでの経験が豊富なアギーレはアジアカップ直前のブラジル戦までテストに使いましたし、W杯を知るハリルホジッチも代表チームらしいやり方をしていました。それが本番前にこのような形で終わりを迎えて残念です。

    これで日本サッカーは後退したと思います。

    <浅野賀一>1980年生まれ。 北海道釧路市出身。3年半のサラリーマン生活を経て、2005年からフリーランスとして活動し、『エル・ゴラッソ』、『サッカー批評』などに寄稿。2006年10月から海外サッカー専門誌『footballista』の創刊メンバーとして加わり、2015年8月から編集長を務める。西部謙司氏との共著に『戦術に関してはこの本が最高峰』(東邦出版)がある。

    BuzzFeed JapanNews