無期限休養すると歌い方が分からなくなった...藍井エイルが語る葛藤、新曲、そしてLiSA

    「それまで感覚でずっと歌って来たから理屈を知らない。体のどこが使えていないから歌えないのか、それが分からない。過去にできたことができないことはこんなに辛いんだと知りました」

    日本武道館のステージから見た観客席は、649日前と同じ青いサイリウムで包まれていた。ただあの日と違い、喜びの光に見えた。

    Hajime

    藍井エイルは8月16日、約1年9か月ぶりのライブを行った。ファンの前に立つのは2016年11月、無期限休養に入る前の武道館でのライブ以来だった。

    「3曲目くらいまでは緊張しすぎて、手とかガタガタ震えて。ライブの翌日に映像を見たんですけど、実際にライブをしていた時の方が時間がゆっくり感じて。ゆったりすぎたからあたふたしたんです。映像を最初見た時に笑っちゃって。でも楽しかったです」

    藍井は2016年10月に体調不良を理由に無期限休養に入ることを発表。11月5日の日本武道館ライブを最後に、長い休養に入った。





    「休養中はギターを習いに行ったり、ボイトレに行ったり、ジムやヨガで体幹を鍛えたりとアクティブでした。お休みしているからと外に出るのは良くないなと思っていたので。太陽の光を浴びて、犬の散歩をして。でも人見知りなんで、挨拶されても伏し目がちになったり(笑)」

    Hajime

    休養中に覚えたギターは復帰ライブでも披露した

    休養中について笑顔で振り返った藍井。けれどエンターテイメント界の流れは速い。終わりが見えない休養の中、忘れられていくのではという不安もあった。

    「また歌いたいという思いはあったんですが、体調との相談だったので…。とにかく焦らないようにと自分に言い聞かせて、それでも焦っちゃう。そこばかり考えると何もなくなっちゃうので、この休める時間を大事にしようと思いました。けれど、最初は切り替えが難しくて。格闘していましたね」

    葛藤する日々は、自分自身と向き合う機会ともなった。

    「自分ができないことをできない、わからないことをわからないと言えない。カッコつけたがりなところとか、それまでの自分は強がりだったんだなということに気づきました」

    「休養中、映画やドラマを見る集中力がなかったこともわかりました。同じ映画を7回見たりしてたんですけど、内容が入ってこない。だから日本語のアニメ、ドラマでも字幕をつける。そうしないと理解が追いつかない。そんな変な部分にも気づかされる、大事な、有意義な時間でした」

    長いブランクによる変化があった。以前のように歌えなくなっていたのだ。

    休養中もボイストレーニングや、個人的に歌をレコーディングをするなどマイクを握る機会はあった。だが他人からの意見を聞けない環境で、本来の声は失われていた。

    「親と一緒にカラオケに行ったんですが、人前で歌うことにすごく緊張して。自分の曲を入れて歌うんだけど、歌いきれない。そんなことあるって衝撃で、家に帰って泣きました」

    「それまで感覚でずっと歌って来たから理屈を知らない。体のどこが使えていないから歌えないのか、それが分からない。過去にできたことができないことはこんなに辛いんだと知りました」

    ボイトレで基礎からの体の使い方を覚え、学んだことをカラオケで実践する。そこで録音した声を指導者に聞いてもらう。

    「何ができていて、何ができていないかも分からない。迷路の中で迷っている感じ。でもそこから少しずつ迷路の出口がわかってきて、地道にずっとやっていきました」

    久々に挑んだデモのレコーディング。自分の声が明らかに以前と違っていることが突きつけられた。できないもどかしさでレコーディング中に泣いた。

    「今までの歌い方とは違う。過去の自分とどうしても戦ってしまって打ちのめされたんですけど、友達から『新しい藍井エイルを作ればいいんじゃない』と言われて。今までの藍井エイルを再開するのではなく、これまでとは違った藍井エイルを育てていく。そういうイメージでやっています」

    藍井は10月24日に新曲『アイリス』をリリースした。ラテン感のある四つ打ち曲は、藍井と縁の深いアニメ『ソードアート・オンライン』のエンディングテーマに起用された。

    ソニーミュージック提供

    アイリスとはアヤメの花で、花言葉は希望。

    手がけた歌詞について「尊敬する人、大切な人が希望をくれたように、自分も大切な人に希望を与えられたらいいな」と込めた思いを明かす。

    歌詞では、アニメに登場する主人公キリトを尊敬するキャラ「ユージオ」、そして自身を重ねて書いた。

    「尊敬する大切な人、キリトを太陽に。ユージオはイメージカラーが青なので青い花に例えています。太陽に向かって、青い花であるユージオがどんどん芽を出していく。尊敬する人のまぶしさを背中越しじゃなく、いつか隣で感じられたらとの思いを込めて歌詞を書いています」

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    ユージオにとってのキリトのように、藍井自身が尊敬する人物はいるのか。そう聞くと同じアニソンの世界で活躍する歌手のLiSAの名前を挙げた。

    「LiSAちゃんとは凄く仲が良いんですけど、私にいつも希望をくれます。本当に太陽みたいにいつもニコニコ笑っている人。LiSAちゃんがいたから、たくさんの希望を持てたし、勇気をもらった。私がリスペクトする人なので、LiSAちゃんを思い浮かべて、自分のその気持ちとユージオの気持ちを重ねて、尊敬の意味で歌詞を書いています」

    LiSAとは定期的に連絡を取っていた。

    「私は不安を感じやすい人間なので。この先どうやって歌っていこうと不安を感じた時、その気持ちを伝えていなくても、LiSAちゃんは汲み取ってくれる。勇気付けてくれる言葉をさらっと言ってくれるんです。その言葉に気も楽になるし、その度に本当に素敵な人だなと思います」

    『ソードアート・オンライン』ではそんなLiSAがオープニング曲を歌い、エンディング曲を藍井が歌う。歌詞で描いたキリトとユージオの関係が、2人に重なる。


    背中越しの景色じゃなくて 君のその眩しさを いつか隣で感じられたら



    隠していた その傷を 少しでも癒せたならいいな(『アイリス』より)

    休養は歌詞についての考えも変えた。それまでは「私対みんな」と壮大な視点からのものが多かったが、「1対1」の関係性、聞いている人とより近い距離感を大事にしたいと考えるようになった。

    新曲についても「自分が希望になれたらというより、聞いている人の気持ちに重ねてもらえればいい」と話す。聞いている人との二人三脚が今のイメージだ。

    Hajime

    日本武道館のライブで復帰したあの日、世界は違って見えた。

    「お休み中は、全然人と会っていなかった中からいきなり1万人の武道館だったので。ああ、ずっとこういうところで私は歌ってきたのか。そして待っている人がこんなにいるんだって」

    ごめんなさい。そう感じていた2016年の武道館とは違う。ただいま。素直にそう思えたし、嬉しかった。

    Hajime

    今ライブでは、ファンとの一体感をより大事にし、全体で楽しみたいという意識が強くなった。

    「ただいまと言って見た武道館の景色は、青い光でたくさんで埋め尽くされていて。忘れ去られてしまうかもしれないという不安が全部吹き飛ぶくらい、嬉しい気持ちでいっぱいになって。ありがとうみんなと、もっともっと楽しいライブを作れたらと思ってます」

    復帰ライブの一曲目で歌った『約束』。心からの感謝の気持ちを込めて歌った曲には次のようにある。

    誰より近くで 見ていてくれた 君が側にいるから



    もう一度 立ち上がって 新しい季節を探しに行ける



    何度も重ね合った想いは 確かにそこにあるから



    一人では描けないストーリー



    愛を伝えて あの日交わした約束を守りにいく



    (『約束』)

    ファンへのただいまの挨拶は終えた。藍井エイルは第二章を一人ではなく、ファンと共に描いていく。

    2011年10月19日にデビューして以来、気が付けばたくさんの思い出ができていました。 いつも本当にありがとうございます。 皆さんが届けてくれた愛を受け取って、私からも届けていきます。 ここから先、皆さんと一緒に見る景色が楽しみです。 エイル https://t.co/XaHgpLcDZm

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