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優勝チームに元競輪選手 ヨットのアメリカ杯「足こぎ式」は今後増加するのか

当初は懐疑的に見られた、ニュージーランドチームの革新技術

海のF1と言われる世界最高峰のヨットレース「アメリカズカップ」が6月26日、英領バミューダで開催され、挑戦艇エミレーツ・チーム・ニュージーランド(ニュージランドチーム)が3連覇を狙ったアメリカの防衛艇オラクルを通算8勝1敗で破り、2000年以来5大会ぶりの優勝を飾った。

Clive Mason / Getty Images

日本では、ニュージーランドチームの優勝要因を書いた朝日新聞の「常識覆す『足こぎ』、手こぎに圧勝 ヨットのアメリカ杯」との記事が注目を浴びた。

見出しだけで、スワンボートのような足こぎを動力とするヨットが勝利したと早合点した人もいた。

だが、アメリカズカップで使用される船に、風のみで動き、動力源は積まれていないため、これは間違い。

ヨットには、セイルなどさまざまな装置を稼働するために油圧を用いる。

この油圧を発生される装置をグラインダーといい、これをクルーが人力で動かしている。

オラクルは手こぎ式

Mike Segar / Reuters

足こぎ式を取り入れたニュージーランドチーム

Mike Segar / Reuters

手で回す「手こぎ式」が主流の中、今回のニュージーランドチームは自転車のように足で回す「足こぎ式」を採用したことは、各国に懐疑的な目を向けられていた。

「20〜25分ほどのレース中、船の左右に置かれたグラインダーを回すために船員は船上をダッシュで往復します。船の上は揺れますし、足こぎ式では力が入る姿勢は限定される。確かに手より足の方が力は大きいが、従来通りの手こぎ式を使った方が効率的というのが他国の考えでした」(ヨットに詳しいライター)

ニュージーランドチームはこの固定概念を払拭したわけだ。

本当に勝因は「足こぎ式」?

とはいえ、前述のライターは「勝因にはさまざまな要素がある」と足こぎ式ばかりが注目されることには少し違和感があるという。

現在のアメリカズカップのヨットは、「フォイリング」といい、水面の上を宙に浮かび、滑走している。

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ヨットのスピードは10年ほど前まで8ノット(時速約14キロ)だったものが、現在では50ノット(時速約90キロ)にも達することが可能になるなどスピードは段違い。

ニュージーランドチームはフォイリングを決めるフォイル(水中翼)のデザインも優れていた。

またニュージーランドはもともとヨットが盛んな国で、セイラーのレベルが非常に高い。

今回のスキッパーであるピーター・バーリングは26歳ながらリオ五輪では金、ロンドン五輪では銀メダルを獲得した実力者だった。

さまざまな技術革新、さらにクルーの技量と総合力の高さが勝因といえる。

Ezra Shaw / Getty Images

他国は「足こぎ式」に追随する?

今回の大会で成果を挙げた「足こぎ式」。

アメリカズカップに参加する各チームが今後追随するかといえば、現時点では何とも言い切れないという。

「クルーの問題があります。彼らはプロとして世界のレースを渡り歩いて、グラインダーのポジションの選手は上半身のトレーニングをしている。それが急に足を鍛えろとなると、柔軟な選手がいる一方、反発する選手も出てくると思います」(前述のライター)

ニュージーランドチームにはかつて日本の競輪に参加したこともある、ロンドン五輪のケイリン銅メダリスト、サイモン・バンベルトホーベンがクルーの一人としてチームに参加し、船上でペダルを漕いでいた。

こうした人材が獲得、育成できなければ「足こぎ式」にしても意味はない。

「今回のニュージランドチームの分析が進む、足こぎ式が有利となれば、採用するチームが出てくる可能性はあります。技術革新をするためのデザイナーや機構の開発者はいますので、足こぎ式を導入するのはそれほど難しいことではないと思います」

ここ10年で、空を滑空する時代に入ったヨットの世界。「足こぎ式」だけでなく、さらなる技術革新で人々に驚きを与えてくれそうだ。