亡くなった「エビ中」松野莉奈さんのためファンが卒業展 ご両親からのコメントも

    京都造形芸術大学の卒業展で、2017年に亡くなった「私立恵比寿中学」松野莉奈さんをテーマにした服のコレクションが飾られ、ファンの間で評判になった。

    京都・瓜生山にある京都造形芸術大学で2月9日から17日まで開催された卒業展。その一角にアイドルの名前をつけた展示があった。

    「松野莉奈」

    アイドルグループ「私立恵比寿中学」、通称エビ中の出席番号9番。愛称は"りななん"。

    黒髪のロングヘアが印象的で、ファッションモデルでもあった。

    そして2017年2月8日、致死性不整脈のために18歳の若さで亡くなっている。

    展示を決めた影山竣さん(@ebiflying08)は、松野さんのファン。

    トップス10点、アウター7点、ボトムス8点、ワンピース2点の合計27点。すべて松野さんのイメージに合わせて作られた、2019年の春夏コレクションだ。

    影山さんは2013年からエビ中のファンだ。

    当時はまだ高校生で、金銭的にライブやイベントには行けず、本格的にライブへと足を向けるようになったのは2016年からだったという。

    「最初は安本彩花さん推しだったのですが、ファッション誌『装苑』に松野莉奈さんが出るようになってから、松野さん推しになりました」

    装苑、発売されました! 莉奈が大森伃佑子さんの素敵な着物を着させていだだきました! 是非是非ご覧くださいー( *´◡`* ) #ebichu #装苑 #松野莉奈

    影山さんが服飾を学ぶきっかけもアイドルだった。

    2014年、エビ中のお姉さん分にあたるアイドルグループ『ももいろクローバーZ』の国立競技場でのライブ。ある感情が湧いた。

    「消費者としてアイドルと関わるのに嫌気がさし、服飾を通してアイドルと関わっていきたいと思いました。後々、松野莉奈さんと仕事したいという夢もありました」

    それだけに2017年の松野さんの突然の訃報は、影山さんに大きな衝撃と痛みを与えた。

    「最初に訃報を知った時は『死』という単語があまりにも想像だにしなかったためドッキリだと思いました。なぜ、りななんじゃなければいけなかったのか。考えてしまうと結論がすべて『りななんと同じ時間を共有できていないんだ。今』という答えに辿り着いてしまうので、現実からなるべく逃げていました」

    「このままなら、エビ中もアイドルも好きでいられないのではないか。なら、なんでファッションやっているんだろう、と色々絶望感でいっぱいでした」

    実は今回の卒業展の1年前にも、エビ中をテーマにしたファッションショーを京都府庁で行っており、松野さんに関する展示は2年連続だ。

    喪失感など松野さんへの様々な思いを抽出し、可視化させることで向き合う。

    影山さんの言葉を借りれば、そこには「未練からの離脱」という思いがあった。

    「1年前のエビ中をコンセプトにした時は『8人のエビ中が見たい』という未練からの離脱。そして今年、松野莉奈さんをコンセプトにしたのは『もう一度彼女に会いたい』というからの離脱です」

    昨年のコレクションには、「エビ中=亡くなった子がいる」ではなく、アイドルグループとしての良さを、服を通して伝えたいという思いがあった。

    そして今年のコレクションには松野さんの愛おしさを反映させた。

    松野さんのエビ中でのキャッチフレーズだった「見た目は大人、中身は子供」。影山さんが一番の魅力と考える部分が伝わる服にした。

    その一方、服のデザインであることにもこだわった。

    「過度なデザインにすると本人のイメージに合わない。また販売はしてはいないのですが、お客様の普段持っているアイテムにも合いやすく、松野莉奈の愛くるしさを共有できるように、細かな調整をしてきました」

    影山さんのこだわりは随所に見られる。例えば、このタイトスカート。

    「普通に直立している状態の綺麗なストレートと脚の可動域を広げたことによって、無邪気な動きも可能にしている部分など、素材とシルエットで彼女の魅力を表現しています」

    展示自体にも趣向を凝らした。

    京都造形大学の卒展〝松野莉奈〟見てきました︎︎☺︎ ファッションコースの方々の作品どれも素敵だったけどやっぱりこの作品がほんとに…どんな気持ちで作りはったんやろうこんな素敵な服達…絶対りななんに似合う

    「当時、りななんと話す機会があった『2shot会』というイベントの時と似た導線と空間を作り上げました。そのイベントが最初で最期のりななんとの会話だったので、当時の空間を再現したかったんです」

    「何かを好きになるのって"偶然性"が大きいと思っているので、そうした要素は必要だと思い、センターに机を置いて、エビ中関連の情報を散りばめました。全部の情報を見たら、今回の展示の意図を理解できないようにしています。押し付けがましい説明文で見せるのは、"偶然性"とは程遠いと思い、このような形で展示しました」

    エビ中の関係者には昨年訪れたイベントで口頭で展示について伝え、許可を得たという。

    SNSの投稿にも気をつけた。

    「モデルもなるべく"りななん"に近しい人を選んだり、写真のビジュアル、スタイリング、ルックの数、投稿タイミング、投稿頻度など隅々まで気を使いました」

    影山さんのこだわりが詰まった展示だが、誰も傷つけない表現というものはない。気にしたのは、自分と同じエビ中のファンが、どう感じるかだった。

    「無反応の恐怖、過度な否定的な反応が返ってこないか不安でした」

    展示が始まるとエビ中のファンから予想を超える反響があった。

    「SNSではありがたい反応がたくさんあり、中には服を通してりななんを表現したことに対しての感謝の言葉もあり、嬉しい限りです。展示会場に来てくれた方の多くはエビ中を知らないのですが、アイテムに興味を持ってもらったことによって、エビ中自体を知ってもらえる機会がたくさんありました」

    京都造形芸術大の卒展にて、松野莉奈さんをコンセプトにした作品を見てきました。モデルの選出にも気を使われているようで、特に正面やや俯いた写真が"りななん"にしか見えず…美しい襟のカッティング、裾のドレープ。その全てが、りななんのためにあるのだと思えました。よく似合う。(@ebiflying08)

    京都造形大学の卒展〝松野莉奈〟見てきました︎︎☺︎ ファッションコースの方々の作品どれも素敵だったけどやっぱりこの作品がほんとに…どんな気持ちで作りはったんやろうこんな素敵な服達…絶対りななんに似合う

    インスタグラムには松野さんのご両親から言葉も寄せられており「込み上げてくるものがありました」と影山さん。

    実は卒業展の前、進路先から立て続けに連絡が途絶え、影山さんは「自分はファッション業界には需要のない人間」だと感じた。

    しかし松野さんのためのコレクションができたこと、そして大きな反響を得た。

    さらに影山さんの展示はD&DEPARTMENT PROJECTのディレクター、ナガオカケンメイさんが選ぶ賞にも選ばれた。

    「需要がないと腐りかけていた中で、ナガオカケンメイさんから『可能性を感じた』と言われた時は心が潤いました。
    賞を特別意識していた訳ではないのですが、りななんに手向けとして賞を添えれたらなと思っていたこと、その中でも"ナガオカケンメイ賞"を頂けたらなと思っていたので本当に良かったです」

    進路先はまだ明確に決まっていない。しかし展示を見た上で、衣装の仕事のオファーもきた。今後はアルバイトをしながら、フリーランスとして服に関わって行くつもりだ。

    そして今もアイドルと仕事をしたいという気持ちは変わっていない。

    「自分の中で、アイドルは服飾をやろうと思ったきっかけなのでこの気持ちは大事にしていきたい。加えて、"松野莉奈"に関しては、これからも服を作り続ける限り、いろんな視点からと関わっていきたいなと考えています。ブランドという形で続けるかはわかりませんが、服は作り続けていきたいです」

    未練からの卒業はできた。けれど影山さんの中で、松野莉奈さんへの思いは生き続けるだろう。アイドルとして、ずっと。