「きわどい写真」を街中に貼られて妻が自殺:成人のいじめ禁止法を求める夫

    ウェストバージニア州にある田舎町のあちこちに、デニース・ファーナットのきわどい写真を30枚以上も貼り出したのは、地元のモーターサイクル・クラブに所属するメンバーたちだった。

    日曜学校の教師を務めるデニース・ファーナットは2017年7月31日、ウェストバージニア州カナー郡にある教会へ車で向かおうと自宅を出た。そして、家の門の外に、肌もあらわな下着姿の自分が写った写真が貼られているのを見つけた。

    デニースはその後、車で教会に向かったが、同じ写真が「止まれ」の標識に貼りつけてあるのを目にした、と捜査報告書には書かれている。彼女はあまりにも動揺し、教会に行くことができなかった。

    自宅に戻る途中、彼女は消防署の外に立っている標識にも、その写真が貼ってあるのを見つけた。

    2017年8月4日には、仕事もクビになった。上司のところにも同じ写真が送りつけられていたのだ。

    その翌日、デニースは自ら命を絶った。

    デニースの夫ロイ・ファーナットは、妻が自殺に追い込まれたのは、かつて夫婦が一緒に所属していたモーターサイクル・クラブのメンバーとほかの地元住民によるいじめが原因だと考えている。

    ロイは2019年7月29日に、カナー郡の裁判所に訴状を提出した。訴状で彼は、ファイヤー・アンド・アイアン・モーターサイクル・クラブ(Fire and Iron Motorcycle Club)のメンバーたちが、妻デニースのきわどい写真を少なくとも30枚、グラスゴーの町のあちこちに貼り出して、彼女をいじめたと申し立てた。グラスゴーは小さな町で、人口は1000人に満たない。いじめを行なったメンバーには、地元のボランティア消防団長も含まれていた。

    彼らの行為は、デニースに恥をかかせて屈辱を与え、「彼女を自殺に追い込むという具体的な意図」をもっていたと、訴状には書かれている。

    ロイの弁護士マイケル・クリフォードとともに調査を行っている市民活動家ワンダ・カーニーは8月9日、BuzzFeed Newsに対して「彼らがデニースを死なせたのです」と語った。「デニースは明らかに標的にされました。彼らは(彼女が自殺するよう)仕向けたのです。そうなるよう企んだのです」

    ロイが訴えたのは、グラスゴーのボランティア消防団の団長マーティ・ブランケンシップ、モーターサイクル・クラブおよびその地方支部、その他5人だ。ロイは、グラスゴーのボランティア消防団で、ブランケンシップとともに活動していた。

    BuzzFeed Newsはブランケンシップと接触できなかった。被告に弁護士がいるかどうかは不明だ。また、ファイヤー・アンド・アイアン・モーターサイクル・クラブからはコメントを得られなかった。

    デニースへの嫌がらせが始まったのは、彼女がフェイスブックに、子どもとドラッグについて話し合うべきだというコメントを投稿したことがきっかけで、モーターサイクル・クラブと地元消防団の友だち数人を怒らせたときだったと、カーニーとロイは考えている。ファーナット夫妻は以前、そのモーターサイクル・クラブに所属していた。

    デニースはあるとき、フェイスブックに「大麻のこと。最近、子どもたちとドラッグについて話し合っている?」と投稿した。すると、友だちのひとりが笑顔の絵文字をつけて「パフパフ(大麻を吸う音)、パス」とコメントを返した。それに対してデニースは、自分のフェイスブックページを閲覧できる子どもたちや生徒がいるのだから、ドラッグについて冗談めかしたことを言うべきではないと非難していた。

    下着姿のデニースの私的な写真が町のいたるところに貼られたのは、2017年7月30日ころのことだ。貼られていたのは、警察署や消防署、宗教施設であるシダー・グローブ・ライフセンターやシュルーズベリー・チャーチ・オブ・ゴッドのほか、いくつかの標識や電柱、掲示板などだった。

    ロイの弁護士クリフォードが8月9日にBuzzFeed Newsに語ったところによると、8年ほど前に撮影されたその写真は、デニースが新婚当時に夫ロイに送信したものだという。BuzzFeed Newsが確認した捜査報告書によると、デニースはその写真を、女性の友人1人にも送っていた。

    そのデニースの写真を、モーターサイクル・クラブと消防団長がどのようにして手に入れたかはわかっていない。しかし、デニースの携帯電話や、夫ロイのコンピューターからダウンロードしたのではないかとクロフォードは見ている。

    捜査報告書を見ると、被告同士がメッセージをやり取りしながら、デニースに危害を加えようと話し合っていた様子が読み取れる。

    2017年7月25日、訴状で名前が挙がっている1人目の女性が「切り札になるものを持っている」というメッセージを送っている。すると2人目の女性が「むかつくあの女には当然の報いだ」と返信した。

    1人目の女性は、3人目の女性にも、次のようなメッセージを送っている。「頭を打っておかしくなったブロンド女が自殺したくなるようにしてやる。あたしの家族や友だちをなめやがって。けりをつけてやる」

    3人目の女性はその後、1人目の女性にこう返信した。「テープと画びょうを持っていくよ」

    捜査報告書によると、グラスゴーの町中に写真が貼り出された日、3人目の女性は、1人目の女性に次のようなメッセージを送っていた。「やったよ。あとはしばらく様子を見よう」

    町中に写真が貼り出されたあと、デニースはグラスゴー警察署にその旨を届け出た。それを受けて、警察は捜査を開始した。

    同じ写真は2017年8月4日、デニースの上司でファイエット郡裁判所の裁判官ジョン・ハッチャーのもとにも届いていた。デニースは同裁判所の保護観察部で17年間働いていたが、写真を受け取ったハッチャーは、デニースを解雇した。

    ロイはWWVA.comに対し、「ハッチャー裁判官はデニースをオフィスに呼ぶと、その写真を彼女の顔の前でちらつかせ、部署の恥さらしだと言ったのです」と語った。「(デニースに)釈明のすきを与えませんでした。その写真が7年も前に撮影されたものだと説明する機会を与えてくれなかったのです」

    デニースは、自分の「評判が傷つき、プライバシーが侵害された」と考え、「屈辱を味わい、動揺した」と訴状には書かれている。

    その翌日、彼女は自ら命を絶った。カーニーによれば、上司の裁判官が作成した解雇通知書と遺書が、デニースの車の中で見つかった。

    カーニーによると、デニースは過去にうつ病を患った経験があり、バイク事故で頭を負傷したあとに再発していたようだ。ファーナット夫妻は事故のあと、ファイヤー・アンド・アイアン・モーターサイクル・クラブを辞めている。

    デニースは以前、自殺を試みたことがあったと、捜査報告書には書かれている。

    また訴状には、クラブのメンバーと友人たちは、デニースが「精神的かつ感情的にもろい」ことを知っており、その弱みにつけこもうとしていたと書かれている。

    「しかし故人は、死にいたるまでの日々、いじめと嫌がらせに遭うことがなければ、死ぬことはなかっただろう」と訴状には書かれている。「精神的かつ感情的な虐待が、故人の身体的かつ精神的な能力をひどく損い、直接的に死をもたらした」

    ロイ・ファーナットは、葬儀費用や従業員給付の損失のほか、精神的苦痛、パートナーを失った喪失感などに対する損害賠償を求めている。

    グラスゴー警察署は2017年、デニースの自殺と、そこにいたるまでの経緯に関する捜査を終了した。起訴された人はひとりもいなかった。

    捜査報告書によれば、カナー郡検察局は警察に対し、起訴が可能な「犯罪行為は行われておらず」、この事例はむしろ「民事事件であり道徳的な問題」であると通告したという。

    しかし、ロイはいま、クリフォード弁護士とカーニーの協力を得て、成人のいじめを禁じる法律をウェストバージニア州で導入すべく奮闘している。同州では、学校での生徒によるいじめと嫌がらせが法で禁じられているが、その法律は成人には適用されない。

    クリフォードの話では、彼らはすでに、法案に関心を示しているウェストバージニア州選出上院議員のパトリシア・ラッカーと面会している。ただし、ラッカーからはこの件に関するコメントを得られなかった。

    ロイは、2019年8月6日にフェイスブックに投稿した妻へのメッセージのなかで、こう語っている。「デニース、すでに何度も言ったけれど(昼も、夜も、ただ車を運転しているときも)、ぼくは生きている限り、君のための戦いをやめるつもりはない。そしてぼくはまだ生きていて、戦い続けている。君のことをずっと愛している。これまでも、これからも」


    この記事は英語から翻訳・編集しました。翻訳:遠藤康子/ガリレオ、編集:BuzzFeed Japan