「森ガール」誕生から10年 彼女たちはどこに消えたのか?

    元森ガールが語る“あの頃”

    2009年頃、一部の女性の間でブームになった「森ガール」。森にいそうなファッションや雰囲気の女性のことだ。誕生から約10年が経った。

    カジュアルでもなく、シンプルでもない。ガーリーで透明感あふれる、魅力的なイメージを感じさせるスタイルが「森ガール」である。

    スタイルのキーワードは「ナチュラル&リラックス」。安心感やぬくもり、優しさなどのテイストで、素材にこだわり、着心地のよいものを好む。

    アイテムとしては、ロングスカート、ワンピース、鍵編みのベスト、ベレー帽、(撮らないけれど)カメラなどだ。

    そんな森ガールもいまやその姿を目にすることは少なくなったが、彼女たちはどこに消えたのか。ブームの変化から分析し、“元”森ガールにも話を聞いた。

    森ガールの誕生

    森ガール誕生は、約10年前の2006年にさかのぼる。当時、国内最大SNSだったmixiのコミュニティで管理人のchocoさんが自身のコーディネートをアップした際、「森にいそうだね」と言われたことが起源である。

    このコミュニティは徐々に広がり、2009年には約35000人の会員数を誇る巨大コミュニティに。それと同じくして、ファッション誌で取り上げられるようになった。

    ファッション誌でいち早く特集を組んだのが「spoon」である。2009年2月に別冊「森ガール A to Z」を刊行。森ガールのファッションアイコンだった蒼井優を表紙に起用した。また、バイブルとされた「ハチミツとクローバー」の作者である羽海野チカの単独インタビューなどで誌面を組んだ。

    これを皮切りに他誌でも、森ガールが取り上げられ、ムック本も刊行された。中には森ガール向けの雑誌を創刊する出版社もあった。

    現在では定着した「○○ガール」「○○女子」のはしりでもあり、テレビでも紹介され、一気に世間に認知が広まっていく。

    森ガールはなぜ生まれたのか。

    そもそも、なぜ森ガールは生まれたのか。伊藤忠ファッションシステムの中村ゆいさんが分析する。

    「森ガールが本格的にブームになったのは2009年くらい。ファッショントレンドをエレガンスとカジュアルの二極にわけると、森ガールは中間に位置付けられます」

    09〜10年は「レトロ」や「おじ(さん)」などが女性ファッションのキーワードだった。それと同時に、トレンドはエレガンス指向からカジュアル指向に変化していく。

    “カジュアル指向への転向と、レトロの台頭”

    この2つの要素が森ガール誕生のきっかけである。

    森ガールを牽引してきたのは、現在のアラサー。この世代は指向性として、“フリフリ”した乙女な要素を盛り込む人たちが多い。同社が発表している世代区分では、この世代を「プリクラ下世代」「ハナコジュニア世代」と呼ぶ。

    中村さんが分析するに、アラサーのファッションの楽しみ方は、自己演出型。シチュエーションに合わせてなりたい自分のイメージを変化させ、そのイメージにハマるような見ためを作っていく。一種のコスプレ感覚に近いものがあり、それも森ガールを押し上げた要因ではと分析する。

    森ガールはなぜ廃れたのか? 森ガールはどこに消えたのか?

    では、なぜ森ガールは廃れていったのか。

    2012年頃からトレンドは再びエレガンス指向に入っていく。レトロでやぼったいムードから都会的でクリーンなムードへと転換し、スポーツをキーに構築的なシルエットのアイテムが街に溢れる。

    “森”が持っていたレトロ風潮は、伐出されていく。しかし、完全になくなったのではなく、いまの「ゆめかわ」「二次元」などファンタジー要素にかたちを変えたのではないかと分析される。

    森をやっていた人はいまどうしているのか。

    「森は卒業し、オーガニック、ロハス、スローライフを好む指向になっていると思います。雑誌でいうと、リンネルやmer(メル)。もっとフリフリした乙女なファッションが好きな人はLARME(ラルム)など。まだラルムには森の匂いが残っていますから」と中村さん。

    大人になった森は、ネットで読むものがない。そこでリンネルなどクラフティな世界に入っていくという。

    森ガールの復活は?

    流行は繰り返されるが、森ガール復活は「ない」と中村さんはいう。

    「もちろんコアなファンはいると思いますが、あの頃のようなトレンドにもう一度のし上がるのはあり得ないでしょう。トレンドは、より森とは対極にあるストリート傾向になっていますし」

    2012年には“森”を標榜していた雑誌も次々に休刊に追いやられる。こうして森ガールは徐々に姿を消していった。

    「森ガール」売る側の苦悩

    当然、この潮流では森ガールをターゲットにしているブランドは苦戦を強いられているのではないか。

    2008年に創業したフェイバリットは、11年から本格的に森ガール向けアイテムに参入してきた。BuzzFeed Newsの取材に代表取締役の榊原英記さんが話す。

    「森ガールブームのときは、業績も伸び、会社の成長期でもありました。いまは廃刊してしまいましたが、パピエールという森ガール用の雑誌にも掲載されて、売れ行きは好調でしたね」

    しかし、やはり現状は厳しいようだ。

    「最近では森ガールアイテムはまったく売れませんね…。当時売れていて、いまも売れ続けているアイテムは一部しかないです」

    そこで同社は“森ガール”から“童話系”にテイストを切り替えた。フリルやAライン、生成り色など森ガールの世界観を残しつつも、もっと“夢の世界”に近づけた。

    購入層は、20代後半がメインになっている。

    榊原さんは森ガールブームをこのように分析する。

    「消滅するものではないですが、これから広がるものでもないと思います。好きな人が楽しんでいるのかな、と。森ガール服はファンのみなさんのために、当然残してはいきますが、同ジャンルでの新たな事業拡大の可能性は低いです」

    元“森ガール”が語る「私が森だった」あの頃

    古木あずささん(28)は元“森ガール”だ。服飾専門学校のころは、森好きが高じて「Crisp (クリスプ)」で販売員のアルバイトをしており、卒論では「森ガールの作り方」を発表。冒頭で述べたmixiの森ガールコミュニティにも所属していた。

    取材場所に訪れた古木さんは、学生時代の重ね着、フリル、ベレー帽などの面影はなく、チェックのブラウスに黒のスキニーデニム姿で現れた。

    古木さんが森ガールにハマったのは、上京した18歳の頃から。地元では「Zipper」などを愛読する青文字系だった。森になったきっかけを話す。

    「最初は古着が好きになったんですよ。それで上京してから、flowerとかCrispで買うようになってハマっていったんです」

    「あとはZipperの専属モデルだった池田泉ちゃんがflowerで働き始めたんです。その影響も大きかったです」

    池田さんも働いていたflowerとは、原宿を基盤に名古屋、大阪、福岡にも展開するナチュラルガーリーファッションを提案するブランドだ。

    古木さんは、flower以外にもサマンサ モスモス、BEAMS BOYなどを好んだ。ほかには「FURFUR(ファーファー)」や、古着では「gREEN DOT(高円寺)」、「Grimoire(原宿)」などを巡っていた。

    宮崎あおい、蒼井優… 森ガールのファッションアイコン

    当時、参考にしていたファッションアイコンなどいるのだろうか。

    「MEGちゃん、宮崎あおいちゃん、蒼井優ちゃんとかですかね。映画『ただ、君を愛してる』のときのあおいちゃんとかめっちゃ可愛かったです! あんな格好に憧れていました」

    なぜ森を辞めたのか?

    そんな古木さんも、いまは森を卒業している。辞めたきっかけを話す。

    「たしかに森は辞めましたが、飽きてはいないんですよ。普通に可愛いと思いますし、いまでもお店に服は見に行きます。けれど買わない」

    「まぁもう少しで30ですからね…。三つ編みにレース着ていたらひくでしょ?(笑)森は若いときだけのものです」

    最後に森ガールの頃の自分に一言かけるならを聞いた。

    「なんだろ。『今だけだぞー!』って言いたいですね。『全力で楽しめー!』って。絶対後悔はしないからって」

    元森ガールも、いまは“きれいめブランド”に身を包む。

    ファッショントレンドに流行り廃りはつきものだ。多くの各ブランドは“いま売れるもの”を作り、売る。

    「もう30だから」「もう流行っていないから」

    森ガールが消えるのも当然のことだ。けれども、森ガールを楽しんでいたことに変わりはない。古木さんは「いまでも可愛いと思います」と話していた。

    トレンドは消えれど、思い出は心の森の中に。