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「財務省のセクハラ認識は世の中とズレている」 その4つの理由

福田淳一前財務事務次官のセクハラ問題から2カ月が経った。

「財務省のセクハラ認識は世の中とズレている」

女性記者へのセクハラ疑惑が報じられ、辞任した福田淳一前財務事務次官。

財務省は、幹部ら約80人を対象にセクハラ防止研修を開いた。

これまで多くのセクハラ防止研修を行い、この研修の講師も務めた弁護士の菅谷貴子さんは、「財務省のセクハラ認識と世の中はズレている」とBuzzFeed Newsの取材に話す。

官僚と世間のセクハラ認識のズレを4つのポイントから考える。

1.官僚はハラスメントを与える立場

菅谷さんは話す。

「セクハラは被害者と加害者の認識のズレが生じたときに起こります。官僚の中には『記者とは対等である』という感覚があります。しかし、記者が情報を取得しようとするとき、情報を与える側の官僚は立場が上になることもあります。まず、自分はハラスメントを与える側になり得るという認識を持たなければいけません」

「また、セクハラは職場内でしか起こらないという認識にもズレがあります。取材関係、取引関係であってもハラスメントは起こり得るという感度が必要です」

2.「女性記者は名乗り出て」事後対応の悪さ

菅谷弁護士は事後対応にも問題があったと指摘する。

この一連の件に関し、麻生太郎財務大臣は、被害にあった女性記者が名乗り出てこなければ、事実の認定はできない、という見解を示した。

また、福田前財務次官は、週刊新潮が公開した音声について「自分の声は自分の体を通して聞くので、これが自分の声なのかどうかはよく分からない」そして、その後、「全体をみればセクハラに該当しないことは分かるはずだ」と述べた。

菅谷さんはこう話す。

「自分の声かもわからない人が会話の全体を知っているわけがありません。加害者にみられる行為として、社会的地位があればあるほどハラスメントで告発されたら狼狽します。反射的に自己防衛として自分がやったことを否定し、被害者を攻撃するケースがあります」

「弁明が客観的にどう受け止められるかを判断することなく、衝動的に反応すると言い訳にしか聞こえません。ハラスメントと認定されるかはともかく、間違いなくトラブルは起きていることを受け止めないといけません。事後対応でも世間とのズレが出ました」

3.風土が生み出したセクハラ

財務(旧大蔵)省の事務次官が辞任するのは、「ノーパンしゃぶしゃぶ」などが問題になった1998年の大蔵省接待汚職事件以来となる。

菅谷さんは財務省の“古い体質”も問題視する。

「福田前事務次官は、もしかすると、もっとひどいハラスメントを見てきたのかもしれません。そのような職場の場合、それに比べたらマシという感覚の中でハラスメントが起こるケースがあります。セクハラから10%ひいてもセクハラはセクハラ。新人時代に見ていたことを、出世したら繰り返すケースは多いです」

「その組織の風土が常識的になってしまうと一般的な感覚とズレが生まれます。自分の常識は世間と違うかもしれないと疑うことが必要です。それは相撲協会であり、レスリング協会であり、日大アメフト部にも通じること。伝統的な組織はハラスメントの温床になりやすいです」

4.「セクハラ罪という罪はない」トップのズレ

研修に麻生財務大臣は来なかった。菅谷さんは麻生大臣の「セクハラ罪という罪はない」発言について話す。

「刑法犯にセクハラ罪という罪が規定されていないという意味だったら、形式的には正しいです」

「しかし、『セクハラという問題が刑法犯になることはありません』という意味であれば誤っています。また、その程度の罪なのになにを大騒ぎしているんですか? という意味であっても誤っています。トップの方のハラスメントに対するメッセージは職場の取り組み姿勢に直結するので、トップの意識は重要であると思います」

財務省の研修は約1時間30分に渡って行われた。菅谷さんによれば、幹部らは意欲的に参加していたという。

セクハラは「0」にはできない。けれど…

最後に、菅谷さんはこう話す。

「セクハラは減らせても『0』にはなりません。けれど、啓蒙して少なくし、起こってしまったときに被害を最小限にすることはできます。ベストな対応ができる体制を作ることが大事です」