Abemaが非公開にした「くそババア」罵倒映像 過激化するネットテレビの2つの問題

    番組に出演した女性から「生放送中にハラスメントにあった」と連絡があった。

    インターネット動画にはテレビ放送と違い、放送倫理を検証する機関やメディアとしてのあり方を議論する公的な場が存在しない。過激化する内容に批判の声が出ている。

    テレビ朝日とサイバーエージェントが手がけるインターネットテレビ「AbemaTV」。その番組に出演した女性から「生放送中に男性陣からハラスメントにあった」とBuzzFeed Newsに連絡があった。

    「仮面をとれ」「くそババア」罵倒されるだけ…

    女性(以下、Aさん)が出演したのはAbemaTVの「極楽とんぼKAKERUTV」。山本圭壱さん復帰後、「極楽とんぼ」として初のレギュラー番組で2017年4月に放送開始した。

    問題の回は6月21日に生放送された「“狂犬”加藤が酔ってます!本音スッキリ生暴露3時間SP」。極楽とんぼの加藤浩次さんが放送中に酒を飲み、ゲストたちと“本音トーク”を繰り広げるというもの。

    番組は3部構成で、ゲストは「20代の悩める女子」「若手映画監督」「女性評論家」。Aさんには「女性評論家」の枠で出演依頼が来た。

    Aさんは普段、会社員として働いているため、仮面をつけて出演することを条件に引き受けた。当日、Aさんは他の3人の女性評論家と出演。スタジオには加藤さんに加え、カンニングの竹山隆範さん、経済学者の岸博幸さんも酒を飲みながら参加した。

    酔っていることもあってか、番組は冒頭から事前に決められた台本とはかけ離れていた。BuzzFeedは番組の録画を入手して、内容を確認した。

    「顔を晒せ」「くそババア」「日本から去れ」

    Aさんに話が振られると、加藤さんはAさんに対し、繰り返し「仮面をとれ」「顔を晒せ」と強い口調で迫った。ほかの女性ゲストに対しても、加藤さんは「くそババア」「日本から去れ」などと発言。竹山さんも「差別主義者」などと発した。

    お互いに会話をする場面はほとんどなく、終始、男性陣が女性ゲストを一方的に罵倒するかたちで番組は終わった。

    Aさんは話す。

    「加藤さんが番組中、酔っているということは事前に聞いていました。生放送ですし、当然、進行通りにいかないのもわかります。私がいわゆる『テレビのノリ』に乗らないといけないのもわかります」

    「けれど、『くそババア』『差別主義者』という発言が繰り返される放送は許されるのでしょうか。もしこれが地上波の番組だったら、あのような言動はしないのでないでしょうか。いじめられている姿をネットに晒されているような感覚でした。ネットテレビだからといって好き放題にやるのは疑問を感じます」

    番組制作会社から謝罪、アーカイブは非公開に

    放送翌日、番組制作会社からAさんにメールが届いた。Aさんたちの出演部分のみをアーカイブ視聴できないようにするとの連絡だった。

    また、メールではAさんたちに謝罪をしている。

    加藤さんが失礼な態度を取った事につきましては、大変申し訳ありませんでした。

    評論家の方々のお気持ちも考え、最後の評論家ブロックのみ今後一切の放送禁止、ビデオオンデマンドでも観られないように手続き致しました。

    当番組に協力して頂いたのに、不快な思いをさせてしまい、本当にすみませんでした(原文ママ、メールから抜粋)

    インターネットテレビはBPOの管轄外

    NHK、民間放送の番組には、放送倫理・番組向上機構(以下、BPO)が第三者機関として存在し、放送への苦情や放送倫理の問題に対応している。しかし、BPOはインターネットテレビには関与しない。

    例えば、2017年12月、BPOの放送倫理検証委員会から「重大な放送倫理違反があった」と判断された東京MXの「ニュース女子」。問題とされた番組はテレビで放送されており、MXは打ち切りを決めた。

    しかし、YouTube上には、番組の制作会社である「DHCテレビジョン」が問題の放送回をアップしたままで現在も視聴できる。同委員会は会見でネット上の動画については「対象外」と話している。

    「BPO関係ない」だったら、ネットではなにをやってもいいのか

    2014年8月、フジテレビのインターネットテレビ「ゼロテレビ」で放送された「24時間ゼロテレビ めちゃ×2なが~~~~~くユルんでるッ!」での出来事。

    アイドルグループ「モーニング娘。」の小田さくらさんが、加藤浩次さん扮するキャラクター「爆裂お父さん」の印象を聞かれて「蹴られると話題になる」と発言した。

    共演者の岡村隆史さんが「テレビじゃないから。これネットだから。BPO関係ない」と煽ると、加藤さんは「関係ないんだって」と小田さんにプロレス技「ジャイアントスイング」をかけた。

    同じく当時、モーニング娘。のメンバーだった鈴木香音さんには、座布団を置いた上で、顔面を踏みつけるなどのシーンがあった。

    岡村さんの「BPO関係ない」という発言の背景には、2013年8月に放送されたフジテレビ「生爆裂お父さん 27時間テレビスペシャル」がある。

    番組内で、加藤さんが当時「AKB48」の渡辺麻友さんの顔面を蹴ったり、ジャイアントスイングをかけたりするシーンがあり、問題視された。

    BPO「放送と青少年に関する委員会」はこの放送を審議し、こう指摘した。

    「視聴者の多くは『人間の尊厳に背くような行為をあえてして、それで笑いを取るという形でしかバラエティー番組を作ることができなくなっているのか』という落胆とさげすみのような感情を抱いた」

    その上で「バラエティー番組も『人間の尊厳』『公共の善』を意識して作られるべき」とフジテレビに提言した。

    日テレ「セクシー☆ラグビールール」問題

    一方で、テレビ局が関与したネット動画でも、問題視されて削除されたケースもある。

    日本テレビは2015年8月、「ラグビーW杯イングランド大会」を紹介するネット動画として、「セクシーラグビールール」という動画を公式ホームページに掲載した。

    女性タレント8人でラグビーのルールを解説する内容で、胸元が大きく開いたタンクトップとヒップラインがあらわな短パン型の水着を着用。ボールを持って実演しながらルール説明しているが、女性の胸や尻が強調される映像が繰り返された。

    これにラグビー元日本代表の平尾剛さんが、Twitterで不快感を示した。

    「ラグビーを馬鹿にするにもほどがある作りに、憤りを通り越して落胆の域に」

    友人に教えてもらい、来月行われるラグビーW杯イングランド大会の日テレの公式サイトにアクセスしました。そこにはルール説明のための動画がアップされていて、見終わったあと目が点に。ラグビーを馬鹿にするにもほどがある作りに、憤りを通り越して落胆の域にまで達しています。続

    日本体育学会も、日本スポーツとジェンダー学会と共同で日本テレビに抗議。

    学会は、ネット上の動画であるが、日テレの公式サイトに掲載されたコンテンツであるため、民放連の「放送基準」に抵触すると以下のように抗議した。

    民間放送局の公式サイトに掲載された動画であるため、放送された番組に準ずるものとして質問内容を作成しております

    これに対し、日本テレビは当初、「放送基準」が適用されることはないと回答していた。

    弊社ホームページ上に公開しました動画につきましては、放送された番組ではありませんので、原則として、一般社団法人日本民間放送連名の『放送基準』などが適用されるとは考えておりません。しかしながら、ホームページ上の動画に関しての責任は弊社にあることは言うまでもありません

    後日、日テレは「ラグビーのルールを初心者の方にも分かりやすく解説するべく作成した動画でしたが、 『不快な表現』であるとのご指摘を多数いただいたため、ホームページから削除いたしました」と動画を削除して謝罪した。

    「地上波にできないことを」ネットテレビは制作者のやりがい

    番組制作者にとってネットはどのような存在なのか。キー局でバラエティ番組のプロデューサーをしている男性は、BuzzFeed Newsの取材に話す。

    「ネットテレビの強みは『地上波にできないことを』です。地上波では無理な尖った企画や表現を試せるのがネット。コンプライアンスが厳しくなる中で、ネットテレビが制作者のやりがいの場になっている面もあるでしょう」

    「しかし、『ネットテレビ=なんでもあり』という認識は間違っています。ルール、規制なしの番組作りを続けていけば、いずれ自分たちの首を締める結果になるのでは」

    元BPO委員は「人権感覚ゼロの低俗娯楽番組」と批判

    識者の目にAbemaTVの番組はどう映ったのか。

    BuzzFeed Newsは2012年4月から2016年3月まで、BPO「放送人権委員会」の委員を務めていた林香里・東京大教授(ジャーナリズム研究)に録画を視聴してもらった。

    林教授は「日本的なオヤジカルチャーと、人権感覚ゼロの低俗娯楽がミックスした最悪の番組」と厳しく批判した。

    「日本における『表現の自由』という価値のために、このような番組が事例になることが情けないです。全体としては怒鳴り合っているだけで、おもしろくもなんともありません」

    「お酒を飲んで言いたいことを言うのは、プライベートの場ではあるかもしれませんが、公的な大衆送信を目的とする番組では、たとえインターネットであっても、許されるものではないと思います」

    「まず、この番組は、ゲスト以外は全員男性で、もともと『女性評論家』という女性を強調した人を集めて、『ババア』『てめえ』『くそ野郎』などと罵倒、全否定しています。当初からこのような女性蔑視の企画だったのではないでしょうか。女性で評論するなんてこざかしい、生意気だ、ばかにしてやれという女性差別が見え隠れします」

    林教授は、テレビ朝日とサイバーエージェントの責任にも言及した。

    「(AbemaTVは)テレビ朝日とサイバーエージェントという大きな資本に支えられています。その社会的責任を自覚してほしいものです。とくにテレビ朝日は言論機関として参入している自覚をもってほしいです」

    インターネットテレビに規制は必要か

    この番組がBPOに持ち込まれていたらどのような判断になっていただろうか。林教授は答える。

    「BPOは番組を見るだけでなく、双方の主張を提出してもらい、被害の深刻さや制作の経緯を丁寧に審理をします。なので、BPOだったらという判断は難しいですが、相手の話を聞かずに、『ババア』や『出ていけ』『くそ野郎』など、公の場で発言するにはとても尋常な感覚とは思えません」

    インターネット番組にBPOのような第三者機関は必要か。林教授は「冷たい言い方ですが」と前置きした上で答える。

    「BPOのような機関を議論するなら、それを作るか作らないかは業界の問題です。このような番組がネットでたくさん出てきて、さらにネットテレビの人気が上がり、影響力が強くなっていけば、そのような世論も出るでしょう」

    「そうなれば、自分たちでは抑制ができず、第三者の監視機関が必要になるかどうかを業界で話し合っていただければと思います。BPOも自主規制団体です。日本で表現・言論の監視ができるのは自主規制団体以外ありえないと考えます」

    「BPOは政府からの言論規制介入を牽制し、放送局自らの独立性を確固とするために、放送局が作った機関です。BPOによって表現の萎縮を招いた云々を主張する方がおられますが、それは放送局内部での運用の問題であり、BPOの問題ではないのです。BPOは第三者機関で放送局以外の人が判定を下しますが、なにか注文が着いた場合はそれに耳を澄まして、放送局で勉強して参考にしていただければよく、それ以上でもそれ以下でもありません」

    「こう述べると『そんなことは建前で、業界の視聴率圧力の中ではそんなきれいごとは通用しない』という指摘もありますが、それこそが無理解です。業界の論理だけに埋没しているからこそ、テレビ業界にはしっかりと原則論を言う第三者機関が必要です。それによって、テレビ業界に対する世間からの批判の受け皿にもなっているわけです」

    「ネットテレビの運営会社も、もはや自分たちではこうした低俗番組に歯止めがかからないと考えるなら、BPOのような機関を検討されてはいかがでしょうか。しかし、民放などのテレビと違い、ネットテレビは免許制度もなく、自主規制機関の設計はより困難で慎重さを要します」

    最後に、「表現の自由」の観点からこう述べた。

    「世の中に言論・表現の自由を制限したい人はたくさんいます。ネットテレビやそこに出演する演者さんが、『こっち(ネット)はテレビと違って表現の自由があるから何でも言える』といって低俗表現、罵詈雑言に拍車をかけるようでしたら、ネットにも規制をかけろという世論が強くなるでしょう」

    「しかし、『好き放題言うこと』と『言論の自由』はまったく違う次元の議論です。同番組を問題にして『ネット版のBPOを作った方がいい』『それでは言論の自由の萎縮が始まる』という二項対立の議論になることは望みません。それより、この芸人さんや番組プロデューサーの方々には、もう少しご自分たちが享受している『表現の自由』という価値を大切になさってはいかがでしょうか、と伝えたいです」

    「暴走しかねない」「信頼性が問われる」

    一方で、元日本テレビディレクターの水島宏明上智大教授(ジャーナリズム論)は、該当のAbemaTVの番組内容は「問題ない」と判断する。

    「倫理的に問題はないでしょう。たとえ地上波で放送されていても、意見は出るかもしれないが、そこまで問題にはなっていないと思います」

    しかし、ネットテレビには、倫理を担保する機関が必要だと話す。

    「今回の番組は該当しませんが、ネットテレビにも倫理を担保する機関は必要になるでしょう。AbemaTVに関しては、テレビ朝日と共同でやっています。ネットではなにをやってもいいとなると、そもそも放送局が持っている信頼性や公共性が問われます。放送法の直接の縛りはありませんが、その種のものがないと暴走しかねない」

    それ以外にも「ニュース女子」のケースのように放送局ではない会社が制作した場合はどう判断するかなどの議論も必要だという。

    公示2日前に安倍首相がトーク番組に

    水島さんは、AbemaTVに関しては別の問題を指摘した。政治的な中立性についてだ。

    幻冬舎社長の見城徹氏がMCを務め、ゲストとトークをする「徹の部屋」2017年10月8日放送回。安倍晋三首相がジャーナリストの末延吉正氏、有本香氏らとゲスト出演した。

    この日は、衆議院議員総選挙の公示2日前だった。

    見城氏は「日本の国は安倍さんじゃなきゃダメだ」「世界が外交においても認めている総理大臣は誰もいない」と持論を展開。安倍首相を見城氏らが褒め称えるトークが終始続いた。安倍首相も政策などについて発言した。

    水島さんはこう話す。

    「党首討論などではなく、一政党の党首が、公示2日前に好き勝手言う番組は、政治的公平性が問われます。NHKでも民放でも特定の政治家だけを長々と取り上げるということはしません。公示を控えた『私的な放送』と指摘されてもおかしくはないでしょう」

    「放送法の範疇にない」AbemaTVの回答は

    「極楽とんぼKAKERUTV」、「徹の部屋」の該当放送回についてAbemaTVはどう考えるか。BuzzFeed NewsがAbemaTVに取材を申し込んだところ、サイバーエージェント広報から、文書で回答があった。

    --「極楽とんぼKAKERUTV」で出演者から批判がでた部分がアーカイブ視聴できないのは、放送内容に問題があると判断したからか。また、どのような問題か。

    ご指摘の放送回(第3部)について、詳細な判断基準はお答えしかねるのですが、番組としてアーカイブしないという判断をさせていただきました。

    --「くそババア」「差別主義者」などの発言があり、出演者から批判が出ていることをどう考えているか。

    ご出演された方が放送中に不愉快な思いをされたことに対して、番組として、大変申し訳なく思っております。ご出演者さまに対しては、生放送後に番組スタッフがお話をさせていただき、翌日、謝罪のご連絡をさせていただきました。

    --「徹の部屋」2017年10月8日放送回では安倍晋三首相がゲスト出演している。総選挙公示2日前の段階で、特定の政治家だけを取り上げることは「政治的な公平性が問われる」と指摘がある。

    本番組は、MCの見城氏が持つ人脈で、親交のあるゲストを招きトークを展開する番組として放送いたしました。

    報道番組ではなく、あくまでバラエティ番組などを放送するチャンネルでのトーク番組ですので、安倍総理出演にあたっての番組としての政治的な意図、狙いは一切なく、また、インターネット通信での動画配信を行うサービスのため、放送法の範疇にはございませんので、本番組への出演は公職選挙法などの法的な問題もないという認識をしております。

    一方で、「AbemaTV」はマスメディアを目指しておりますので、今後、中立公平性なども含めて、ご意見頂戴しながら、メディアの在り方について模索して参りたいと思っています。

    --該当の「極楽とんぼKAKERUTV」6月21日放送回、「徹の部屋」2017年10月8日放送回はネットではなく、地上波でも放送可能と考えるか。

    「AbemaTV」では、全ての番組において、地上波でも放送可能な基準で番組づくりを行っております。

    --インターネット上での番組と、地上波での番組を制作する上では異なる基準やルールが設けているのか。また、ネット番組制作において、基準やルールはどのように定められているのか。

    「AbemaTV」では、社会的責任のあるメディアとして、倫理観をもち、基準を定め、それに則って番組制作を行っております。

    過剰な自主規制などは行わない方針でございますが、地上波で設けている基準と大きく異なる点はないという認識です。

    詳細の規定内容については、回答控えさせていただきます。

    --専門家からはインターネット番組においても、放送倫理・番組向上機構(BPO)のような第三者機関が必要であると指摘があるが、どう考えるか。

    インターネットテレビ局として、マスメディアを目指し、新たな挑戦を始めた段階ですので、今後、色々な方からご意見を頂戴しながら、議論していければと思っております。