先月、映画「帰ってきたヒトラー」が公開された。

ヒトラーが現代にタイムスリップし、モノマネ芸人としてスターになるまでを描いたコメディ作品だ。
これに限らず昨今、「イングロリアス・バスターズ」や「アイアン・スカイ」、「ヒトラー最終兵器」など、ヒトラーまたはナチスを題材にしたコメディ作が多く登場するようになった。
第二次大戦を引き起こし、ユダヤ人迫害により600万を超える命を奪った「史上最凶の独裁者」ともいわれるアドルフ・ヒトラー。彼が”お笑い要素”として使われるようになったのは、なにか背景があるだろうか。
BuzzFeedは、日本大学芸術学部映画学科教授で映画評論家の村山匡一郎さんに聞いた。
タブーへの挑戦
村山さんはまず、映画の作り手の世代交代を理由として挙げる。
「たしかに60年代まではヒトラー、ナチスを題材にした作品は多くありませんでした。ナチス時代をリアルタイムで生きてきた人々からの反発を考慮したのでしょう。あったとしても、『ヒトラーは悪』と描かれたものが多数でした」
「しかし、戦後70年以上が経過。映画に限らず、舞台や音楽などでヒトラー、ナチスが表現のひとつとして登場するようになりました。それらは80年代にデビューした作り手によるものです。その世代はヒトラー、ナチスは知っているが、当時を生きてはいない。なんとなくタブーとされていたものに、若い作り手たちが挑戦しているのでしょう。『もう自由にイジっていいだろう』と」

突き詰めると、その刃は国民へと向かう
また、ヒトラーにはドイツ国民の心情に訴えるものが何かしらあると続ける。
「ドイツ国民は、ヒトラー個人とナチスが行ったことは別と捉えていると思う。投票で決められ、人気があったからこそ、ヒトラーはあの地位まで上り詰めた。戦争犯罪を起こしたのも事実ですが、それを突き詰めていくと、ヒトラーを持ち上げた国民に帰ってきます」
「ヒトラーがいなかったらドイツはどうなっていたか。それを考えたら、肯定はできないし、否定もできない。そんなドイツ国民のモヤっとした部分を風刺するのに、コメディは適した表現方法です」
これら作品では、作り手側の主張を一切出さず、「ヒトラーは正義か悪か」の答えは出さない。「どう捉えるか国民に問うている」と村山さん。
「帰ってきたヒトラー」ではタイムスリップしたヒトラーが現代の街を歩くシーンがある。それを見て喜ぶ人もいれば、嫌がる人もいる。視覚的風刺だ。

ドイツ人は、どう思っているのか?
これに対し、ドイツ国民はどう感じているのか。BuzzFeedドイツ版編集長のセバスチャン・フィーブリックは、「一般的な答えがないから難しい」と前置きしてから話す。
-ヒトラーまたはナチスを題材にした映画は、ドイツではどのような存在?
「最近、さまざまなジャンルの映画でヒトラーが作られている。『ヒトラー最後の12日間』は、彼が地下壕に身を潜めて暮らした日々を描いた映画だけど、彼をどう描写するかは真剣な議論がなされてた。コメディ作では『アイアン・スカイ』や『わが教え子、ヒトラー』、『帰ってきたヒトラー』などがあるね」
「最初にヒトラーのコメディ映画が出てきたときは、第二次世界大戦を引き起こし、差別的な考えでホロコーストを行った人物を笑いを含んだ描写にしていいのかどうか、議論が巻き起こった。でも、それは今となっては大きな問題ではなくなっている」
-ヒトラー、ナチスのコメディ化。どう思う?
「ヒトラーやナチ政権について、私たちには笑う権利があると思う。決して、ナチ政権の残忍さを笑うという意味ではなく。今となっては、もはや怒りの対象ではなくなってきているかもしれないね」
戦後71年。日本でもタブーに触れる作品は増えていくのだろうか。