旧広島市民球場のカープファン警備員と、ジャイアンツファンの記者

    歓喜よ、再び。

    まず最初にお話ししておきたい。現地を取材しておいて、不快に思うファンもいるかもしれないが、記者はジャイアンツファンだ。

    東京出身ではないものの、小学校3年生から野球をはじめ、以来ジャイアンツに魅せられた。

    仁志、清水、江藤、松井、清原、マルティネス、斎藤雅樹……。2000年の劇的な優勝は、姉と一緒に歓喜した。

    現在、27歳。記者という仕事に就き、広島でカープの25年ぶりの優勝取材を続けている。

    その25年前の優勝は、今は亡き「旧広島市民球場」で決めた。

    1957年に完成し、以来、本拠地としてチームを見守ってきた。しかし、狭隘なフィールドや老朽化から、2009年に、現在のマツダスタジアムに移転。

    球場も2010年に閉鎖され、2012年には、ライトスタンドの一部を残して解体された。

    「ライトスタンドだけでも見たい」。そう思い、現地を訪れたが、イベント準備中のため全体が白い壁で覆われていた。

    届くはずもないが、壁越しに背伸びをしてカメラを向けていたところ、警備員がやってきた。

    「スタンド見たいの? 本当はダメだけど、ちょっとならいいよ」

    そう言って、特別に入れてもらった。工事の関係上、ここから見るのが限界。

    「お兄さん、東京から来たの? てことは、あの”2位のチーム”のファン?」

    皮肉交じりの笑みで聞かれた。

    警備員は、現在47歳。呉市出身で、25年前の優勝を、ここ広島市民球場で見た人物だ。なんの巡り合わせか、派遣会社に登録したら、広島市民球場の警備の仕事が回ってきた。

    「当時の主力は前田、野村、西田。投手は大野、佐々岡、川口、北別府。いま思っても強いよね。けれど、今年のカープは史上最高に強い」

    今年のカープは強い。2位のジャイアンツは、14.5ゲーム(8日時点)という大差をつけられた。

    「25年前は缶ビールがなかったの。それでファンは、優勝したとき、瓶ビールを両手に薬研掘通りで騒いでね。関係ない通行人を胴上げしちゃったり(笑)」

    「本拠地で決めてほしいね。ここ(旧広島市民球場)から、見届けるよ」

    そう言って、仕事に戻っていった。

    鉄骨のわずかな隙間から見えるライトスタンド。「ここから撮れるかもしれない」と警備員が教えてくれた。

    昨日も勝ち、マジックを2に減らした広島東洋カープ。しかし、今日、広島が勝ち、巨人が負けなければ、本拠地での優勝はなくなる。予告先発は、新エース・野村祐輔。

    ライトスタンドよ。覆われた壁越しに、いまなにを思う。

    最後、警備員に礼を言って別れる際、こんな会話をした。

    「では、クライマックスで会いましょう」

    「東京でお待ちしています」