ずっと好きだった人の結婚式に出た 「バウムクーヘンエンド」を迎えた女の物語

    事実は小説より奇なり。

    「バウムクーヘンエンド」というネット用語がある。

    pixiv百科事典によると、バウムクーヘンエンドは以下のような状況を指す。

    自他共に認める仲のいい2人組の片割れが、物語の中で他の相手と結ばれることを指す。バウムクーヘンエンドというネーミングは 「非常に仲がよく、周囲からも『あいつら仲いいよな』『付き合ってんじゃねぇの?』などと言われているような2人組の片割れが結婚し、もうひとりが披露宴でのスピーチを頼まれ、笑いまで取ったりして如才なくこなした後に、家に帰って1人で引き出物のバウムクーヘンを食べる」というエピソードに由来している。

    アニメやマンガ、ドラマにある表現で、「最悪の鬱エンド」とも言われる。

    これを実際に体験した人がいるのでは? そう思い、探してみたところ、1人の女性が「似たような体験をしたことがある」と匿名を条件にBuzzFeedの取材に協力してくれた。

    好きになったのは大学の同級生、T君。

    加奈さん(仮名)は現在、都内のアパレル会社に勤務する29歳のOL。お世辞抜きにしてもかなりの美人だ。

    彼女は27歳のとき、バウムクーヘンエンドに遭遇した。

    「私が好きだったのは、大学の同級生のT君。同じダンスサークルの1人でした。気になり始めたのは、大学2年のころ。これがきっかけというのはないのですが、お互い映画好きということから頻繁に話すようになりました。ベタな始まり方ですね」

    「そのころは互いに恋人がいたので、付き合いたいとかそのような考えはありませんでした。……いや、まったくなかったと言えばウソになります。一緒にいたら楽しかったですし、当時の彼氏より会っている時間は長かったです」

    その後、加奈さんは彼氏と別れた。そう、T君と付き合うために。

    彼氏と別れたものの……

    「彼氏には『好きな人ができた』と告げ、別れました。『まぁしょうがないね』くらいのリアクションだったと思います。罪悪感はありませんでした」

    「ウキウキしながら、恋人と別れたことを告げるとT君は『え! なんで!?』と。私が好きなことは微塵も気づいていないような反応でした」

    その後は以前と変わらず、T君には彼女がいるものの、食事や映画などに行く関係が続く。このころ、2人は大学3年生。2人で観た映画で一番思い出に残っているのは、 と聞いたところ「ハンコック」とのこと。なんとも言えない回答だ。

    「2人で遊ぶときは、遅くても終電で帰っていました。泊まったり、そのような関係になったりしたことはありません。そういうのは、ちゃんと付き合ってからと思っていたので。彼女がいる男性と遊んでいた私が言える立場ではないですが……」

    告白できず卒業へ。

    4年生になり、T君も彼女と別れた。決して加奈さんが、別れを仕向けたわけではない。

    「別れた理由をT君に聞くと『好きじゃなくなった』と。正直、めっちゃうれしかったですね! やっと正式に付き合えると思いました。そのころには、周りの友だちからも『お似合いというか、もう付き合っていると思った』と言われていました」

    「ただ、私から告白するつもりは一切なかったです。T君から好きになってもらい、告白されたかったんです。だから、遊びに行ったときは、そのようなそぶりを見せたり、ベタですがお酒の力を借りて甘えてみたりしました」

    「T君もT君でなんとなくうれしそう。『かわいいな、お前』とか言ってくれました。けれど告白はしてくれない。そのような平行線が続き卒業。お互い就職しました」

    なぜそこまで告白しないのか、と聞いたところ、「向こうが告白してくれると思った。私、今まで告白したことないので」と加奈さん。

    結婚式。泣きながら踊った「にんじゃりばんばん」

    就職後、学生時代に比べれば会う時間は減ったものの、仕事終わりに飲みに行ったり、週末はデートをしたり。朝まで語り合ったこともあった。

    「まぁお互いに恋人いなかったですし。なんかこの記事を読む人に私がどう思われるか分かりませんが、本気で好きだったんです。けれどT君の気持ちはわからない。鈍感なのか本当に私に気がなかったのか……」

    「それである日、サークル仲間で飲み会が開かれたんです。就職してからみんなが集まった最初の飲み会でしたね。そしたらT君がいきなり『俺、結婚するんだわ!』って」

    なんでも相手はT君の会社の後輩。加奈さんより2歳年下の子だ。

    「よく『頭が真っ白に』とか言いますよね? 全然なりませんよ。『は!? 何言っているの?』とむしろ怒りというか、呆れというか。バカじゃないのってなりました」

    「その場を退出するのもなんか負けた気がするので、二次会まで行きました。T君とは一言も喋りませんでしたが。それで家に戻ったあと、号泣しました」

    なんでも加奈さんとデートしていた時期から、T君はその子と付き合っていたそう。夜を過ごしたときもそうだった。

    大学の同級生なので、加奈さんも当然結婚式に呼ばれる。T君のお嫁さんがきゃりーぱみゅぱみゅのファンだったことから、サークル仲間で全身黒タイツを着用し、「にんじゃりばんばん」を踊った。

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    「全然結婚式ぽくない歌だし、私なにやらされているんだろうと悔しくて泣きました。あときゃりーぱみゅぱみゅ、そんなに好きじゃないし。あと、全然結婚式っぽくないし」

    欠席すればよかったのでは、と聞いたら「だから、そしたら私が負けたみたいじゃないですか。悟られるのもイヤだったし。二次会まで行きましたよ」と加奈さん。

    「ここまで引っ張っておいて申し訳ないんですが、引き出物はバウムクーヘンではありません。文明堂のカステラでした。ベロベロに酔っ払って、家で泣きながら一気食いしました。おいしかったです」

    後悔しているのか?

    その後、T君とはまったく会わなくなり、サークルの飲み会にも行かなくなった。最後に後悔しているか聞いてみた。

    顔をあげ、微笑む。その笑顔は、どこかぎこちなかった。

    「まぁ後悔していてもしょうがないですし、いまは恋人募集中です」

    新しい恋を探しながら、T君のFacebookとInstagramをチェックする日々を過ごしている。

    「T君たちには幸せになってもらいたいですし、私が口出すことでもないですしね」

    そう言うと、彼女の視線はまた、スマートフォンに戻っていった。

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