「だれも気づかなかった」 元アイドルのセクハラ告発 現場の状況を関係者が証言

    元プロデューサーは盗撮について否定をしている。

    アイドルグループ「虹のコンキスタドール(虹コン)」元メンバーが当時のプロデューサーで、イラストSNS「pixiv」運営のピクシブ社前社長である永田寛哲氏をセクハラで訴えた裁判で、永田氏は盗撮行為について否定した。

    永田氏はすでに元メンバーAさんの主張の一部を認めているが、6月18日の第二回口頭弁論で盗撮については否定した。

    プロデューサーとアイドルの間に何があったのか。BuzzFeed Newsは虹コン関係者に取材した。

    セクハラ被害を証言 経緯を振り返る

    虹コンは、pixivを運営するピクシブ社から2014年7月に発足されたアイドルグループだ。

    作曲に前山田健一さん、プロデュースに「でんぱ組.inc」も手がける福嶋麻衣子さん、衣装デザインに人気イラストレーターの岸田メルさんなど著名人が参加。

    総合プロデューサーにはピクシブ社の副社長(当時)だった永田氏が就いた。訴状によれば、元メンバーのAさんは以下の3つのセクハラ被害を訴えている。

    1. 京都旅行に強引に同行し、同じ宿の同じ部屋に泊まることを強要した
    2. アルバイトとして、全身をマッサージさせた
    3. 脱衣所で盗撮行為をした


    永田氏側の代理人は5月7日の第一回口頭弁論で「京都旅行に同行し、隣で就寝」と「マッサージ」については認めた。一方、「脱衣所での盗撮」については、一部事実と違うと主張していた。

    第二回口頭弁論で「盗撮」が議論に

    第二回口頭弁論では、永田氏側が「一部事実と違う」と主張していた盗撮行為が論点になった。

    以下は、Aさん側の主張を元にまとめた経緯だ。

    Aさんは2016年9月に虹コンを脱退しているが、2018年1月7日のワンマンライブにサプライズゲストとして招かれた。

    前日に上京することになり、永田氏に寮などに泊まれるかとLINEで聞いた。永田氏から「僕の家の客間が空いているから泊まっていいよ」と返事が来た。

    「ホテルなり寮なりが提示されると思っていました。けれど、奥さんもお子さんもいらっしゃるし、なにかされることはないだろうと思いました」とAさん。

    永田氏の自宅は南青山の高級マンション。6日夜のこと、ゲスト用のバスルームもあるが、永田氏からマスターバスルームを使うよう指示があった。

    入ってみると、脱衣所にフック型の「隠しカメラ」が仕掛けられていることに気づいた。Aさんはカメラに映らないように着替えた。

    翌7日もカメラはあり、前日とは位置が変わっていた。永田氏の自宅は、ガラス張りの浴室になっている。7日は脱衣所から浴室を映す位置になっており、全身が映ってしまう場所に変わっていたという。

    「盗撮行為はおこなっていない」永田氏側の反論

    第二回口頭弁論で永田氏側は、盗撮行為について否定。以下、永田氏の主な主張だ。

    • 盗撮行為はおこなっていない
    • 1月6日、洗面台の上にあった小型カメラは、数日前に永田氏が放置し失念していた
    • 翌7日、壁に掛けたタオルの裏にあった小型カメラは永田氏が設置したものではない
    • Aさんの主張が真実だとしても、Aさんが「設置されたカメラの存在を認識しており、かつ、当該カメラによる撮影を認識した上で入浴をした」というのであれば、それは「盗撮」行為ではない


    「誰も気づいてあげられなかった」関係者の証言

    虹コンの運営に携わる複数のスタッフ、関係者がBuzzFeed Newsの取材に応えた。

    メンバーとほぼ毎日のように会っていたあるスタッフは、セクハラには気づかなかったという。

    「Aさんのことを思うと、とても悲しいです。関係者の中でも永田氏のセクハラを疑う者はまったくいませんでした。誰も気づいてあげられなかったことが悔しいです」

    「セクハラに関しては、永田氏自身からも厳しくスタッフに注意をしていたので、さすがにそんなことをする人物ではないと思っていました。その分、Aさんの告発はショックを受けました」

    「永田氏に意見を出せない雰囲気でした」

    Aさんが在籍時、虹コンの運営には、ピクシブ社、ピクシブプロダクション社、レコード会社など10名以上が携わっていたという。

    別のスタッフは現場の雰囲気について、こう証言する。

    「永田氏からは、仕事のミスを個人で背負わせられたり、全員の前でこき下ろされたりするなどがありました。なにか失敗したら、給料を下げたり、嫌な仕事に回されたりします」

    「そのような存在だったので、永田氏に対して意見を出せない雰囲気でした。しかし、すべての運営資金はピクシブ社から出ている以上、関係者はなにも意見することはできませんでした」

    Aさんが当時、セクハラについて周りの人に相談できなかったのはなぜか。また別のスタッフはこう証言をした。

    「永田氏が言ったことは絶対です。スタッフが意見をしても無視されます。言われた通りにするしかありません。現場のスタッフは駒の一つとしか考えていません」

    豊富な資金力をバックにプロデュース

    永田氏は開成中高卒業後、東京医科歯科大学に進学。永田氏と親交のある人物は「在学中にハロープロジェクトのオタクになったことをきっかけに、アイドル・アニメ系のライターになったんですよ」とBuzzFeed Newsに話す。

    その後、ピクシブの立ち上げに携わり、2014年にアイドル事業を始めた。

    「『自分もオタクだから、オタクの気持ちがわかる』とよく言っていましたが、プロデューサーとしての能力はまったくないです。正直、アイドル事業は『趣味の延長線上』でやっていると感じていました。数字に強いところはありますが、現場にほとんど来ません」

    ほかの関係者はこう話す。

    「pixivのユーザー数、集客力を自由に使ったら、アイドルを集めることも容易ですし、ピクシブのお金を自由に使えたこともあって、メジャーレベルのクオリティを作れました」

    「永田氏がそれをすべてコントロールしていたので、永田氏が適切だったかというより、プロジェクトの根幹にあるピクシブの媒体と資金を抑えていたので、スタッフは言う通りに動くしかありませんでした」

    「信用して運営するしかなかった」

    別の関係者はこう話す。

    「ピクシブという人気媒体がバックにあって、ピクシブの資金が潤沢にあることでメンバーは恵まれている環境だったと思います」

    「その裏で、永田氏がスタッフに内緒でメンバーにコソコソとLINEをして、その内容がスタッフに共有されず、あとからスタッフが知らされる仕事やプロジェクトなども多々あったのは事実です」

    「それでも、さすがにセクハラをしているとは考えてもいなくて、また永田氏が全プロジェクトの責任を背負っている以上、信用して運営するしかなかった。永田氏が間違っていることをしていても、叱責や解雇を恐れて指摘できない環境ではありました」

    永田氏は一連の騒動をうけて、6月6日、代表取締役を辞任した。ピクシブ社と、虹コンが現在所属しているディアステージ社はコメントを控える、としている。

    BuzzFeed Newsは永田氏本人にも書面で取材を申し込んでいるが、返答はない。