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うまいことやれない人は麦を食え セクハラおじさんに言いたいこと

20世紀の化石が生きる道

日本の文系職の頂点ともいえる財務官僚のトップが、森友問題すら関係のないところでお粗末なセクハラ劇を演じて辞任した。財務省は「セクハラ行為があったとの判断に至った」と福田淳一・前事務次官の減給処分などを発表した。

ふざけたニュースだとは思うが、昨年末から日本にも波及して盛り上がっている#metoo運動の流れだと思えば、もうあと数年で、20世紀の化石的に残っているセクハラバブルオヤジというものが一掃されてしまうのかもしれない、と、大きな時代の潮流を感じる事件であるとも取れる。

セクハラオヤジの「実は何も得てない感」

別に、官僚や政治家の女性スキャンダルなんていうのは珍しいものではなく、成功した男が最後に身を賭してハマる...と言えば聞こえがいいが、身をもち崩すほどハマるのはオンナである、と相場は決まっているし、目の前にあるのが破滅だとしても、目の前のおっぱいに手を出してしまうのがオトコである、という相場も決まっている。

ビル・クリントン氏だって不適切な関係だったし、横山ノック氏のように実際に目の前にあるものに手を伸ばした例も、山崎拓氏のように性癖を暴露する愛人を掴んでしまった例もある。

「胸触らせて?」と尋ねて人生終了、と聞くと「厳しい時代だ」なんて呟くおじさんたちの気持ちもわかりつつ、この時代、完全に告発側の立場になれる女子としては別になんの同情も感じないのだけど、それにしても福田事務次官については、「実は何も得てない感」がすごい。

モニカや愛人を抱いても政治家としての名誉は回復したクリントンや山拓に比べて、別に美人女性記者を抱けたわけでもなく、胸も触れず縛れもせず、社会的な地位も威厳も失い、退職金まで減らされた。全くの同時期に女性問題で辞任した新潟県知事だって、お金とハートは奪われたものの、一応ことをいたしている。

考えてみれば、例えばクリントンはしれっとホワイトハウスのナイスバディな実習生に手をつけてはいたが、別に取材に来た記者に、今からうんこするだの胸触らせてだの言ってはいないだろう。本当にちゃんと抱ける男は気のない相手にセクハラ発言なんて連発しなくとも、ちゃんとうまいこと抱くのだ。

品のない会話を週刊誌に晒されただけで実際においしいことは別にできず、そして財務省のトップから退いた事務次官の実質何も手にしていないっぷりは甚だしい。

ハイリスク・ノーリターン型

そしておそらく、「胸触らせて」「浮気しよう」などの発言をした彼自身、「どうぞ」「ぜひ」なんていう答えは全く予想しておらず、むしろ「はい喜んで」なんていう答えが返ってきたらびっくり慄いてしまうに違いない。

嫌ですダメですと言われるとわかっていて、ヤケクソなのかただの嫌がらせなのか、そんなことを言うのだろう。はいはい、おじさん、と聞き流す女も多かったのかもしれないが、今回のように人を怖がらせたり不快にさせたり、嫌われる可能性のほうが高い。

つまり、悪いとわかっていて一時の快楽に溺れた新潟県知事やクリントンのように、甘い誘惑が目の前にあるわけでもなく、浦島太郎や斉藤由貴の不倫相手みたいに万が一人生を棒に振っても後悔はない、というようなきらきらした至福の時間を過ごしたわけでもなく、ただただ別に自分も相手も得のない時間を過ごし、気づいたら人生を棒に振っていた。事務次官まで上り詰めたわりには、得する人損する人でいうところの完全なる損する人。

私は、口をひらけばエロいことを言っているようなおバカな男がものすごく嫌いなわけでもないのだが、いわゆるセクハラオヤジ、というのはそういった意味で、この世の中でとても損する人になる可能性が高い、ということだけは事実だ。

汚職でごっそり札束を手にする、だとか、既婚者なのに銀座のお姉ちゃんを抱きまくる、だとか、酔った女を連れて帰る、だとか、ものすごい幸福感のある薬物に手を出す、だとかがハイリスク・ハイリターンだとすると、目の前の女性記者に「うんこ」とか言うのは本当にハイリスク・ノーリターンではある。

愛すべきバカの末路

実は、くだんの報道を見て思い出した、私としてはちょっと心苦しい経験がある。

新聞社の新人記者だったころ、私は某記者クラブで他社の記者や自社の先輩に可愛がられながらうまいこと過ごそう、と思って、女好きそうな記者にはなるべく笑顔と媚を振りまいて仕事をしていたのだが、そんな中でちょっとお調子者の他社のベテラン記者がいた。

彼は、私が谷間でも見せて頼めば官僚の携帯番号くらいは教えてくれそうな愛すべきバカだったので、私は時々お酒を飲んだり喫煙所で喋ったりして仲良くしていた。

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一度、二人でお酒を飲んだ時に、私がたまたま当時の彼氏と別れて引っ越した、という話をしたら、必要なトイレットペーパーやバスマットなどをドン・キホーテで買ってあげる、と言われて、彼に輪をかけてお調子者の私はドン・キホーテは面倒臭いけどコンビニでトイレットペーパーだけ買ってもらったところ、今度は荷物が多いからどうしても家まで送る、と言い出して、家には入れませんよ、と言う私の念押しにはウンウンと言いつつ家の前までついてきた。

で、この流れはうっかり家に入ろうとしてくるやつだな、と思いつつ、しかし愛すべきバカではあるものの、無料でエッチするほど愛すべき男ではなかったので、予想通り家の前でやっぱり中に入りたいとごね出した彼を、帰ってください、と放置して家の中に入った。

案の定、携帯と家のインターホンが鳴りまくっていて、私はとりあえず彼に妻の待つ自宅に帰ってほしくて、彼と仲良しの別の記者に、とりあえず帰ってよって彼に言ってよ、と連絡をしてしまった。

本当に軽い気持ちだったのだが、その連絡を受けた記者というのが実は私のことが好きだったらしく、愛すべきバカの行動に激怒して記者クラブの責任者や省庁の広報などに彼が女性記者の家に押し入ろうとしている、なんて勝手に連絡しまくって、週明けに私が出勤したら、愛すべきバカは別の省庁に異動させられていた。

私が上司を通して多少の誤解は解いたものの、既婚者なのに独身女性記者の家に上がり込もうとしたのは事実、ということでそれなりにお咎めがあったらしい。

彼だって別に無理やりレイプしようとしたわけでもないだろうし、結局トイレットペーパーを買わされ、家に入れてもらえず、本当に何も得ていないのだが、3回でやめればいいものを、5回以上もインターホンを鳴らしてしまったが故に、仲良しの女性記者に結果的にはチクられることになった。仲良しの女性記者である私も、彼に社会的制裁があるべき、なんて思ったわけではないが、結果的にそのきっかけを作ってしまった。

私の6年弱の記者人生の中で、唯一、消化不良で気にかかっている事件だった。

おじさんたちよ賢くなれ

だから、こういった問題があった時に、当該女性がものすごく面倒臭い女だったとか、潔癖すぎてうるさい女だったとか、悪意に近い懲罰感情があったとか、そういった物言いにはちょっと疑いの目を向ける価値はあると思っている。

全国に乳首と陰毛を晒していた私ですら、ちょっとしたタイミングと行き違いで、そちらの立場に立つことがあるのだ。

「胸触っていい?」で辞任なんて、あまりに行き過ぎて厳し過ぎる、というのも私としては心のどこかにある本音だし、こういった事件が続けば、確実に女の働き方の多様性(時には性的魅力を使ったり、女の特権を使ったり)が失われ、結局女にとっても不自由な世の中になる、と本気で危惧もしているが、かといって告発した女のほうを責めてもしょうがない。そんな時勢に生を受けてしまったのだ。

だから私は、結局、いろんな女が色々な立場でいることによって、以前に比べれば若干難しく、また複雑になった社会で、おじさんたちよ賢くなれ、ということを言うしかないのだ、と思っている。

うまくやる技術を持たざる者は

世間体が悪いことをしてうまいことやっている人、というのは当然いて、うまいこと愛人を囲い、うまいこと風俗に通い、うまいことちゃっかりいろんな女を抱いているような人と、セクハラオヤジは、ある意味で対極にいる。手にする人は、別に目の前の女に「胸触っていい?」なんて聞かずに、夜にしっかり胸を揉みしだいているのだ。

私は、誰しもが清廉潔白に生きなければいけない世の中というのは流石に息苦しいと思うのだが、かと言って今さら正論で回る世の中をひっくり返すのも大変なのだろう、と思っている。

今後は、清廉潔白ではないことをうまくやる技術を持つ者と持たざる者の分断がより顕著にされていくのだろうと思う。

胸を触りたいのであれば、チクらなそうで胸を触られるのを好みそうな女を嗅ぎ分け、胸を触っても嫌がられるどころか喜ばれるほどに男を磨き、目の前の「いやよいやよ」がいいのうちなのか#metooなのか見分ける、それくらいの傑物になる自信がないのならば、世の中が指示してくる通りの清廉潔白の退屈な人生を送り、麦でも食べておくしかない。

そして当然、おじさんたちにばかり成長を押し付けるわけにはいかない。女たちも賢くならなければいけないのだ。

女の魅力をコントロールできているつもりで調子に乗って、男が悪者になりやすいご時世にあぐらをかいて、土壇場になったら人に頼って逃げる、そんなことを繰り返していれば、やっぱり女と働くのは面倒臭い、なんて言われるのは目に見えているのだから。

鈴木涼美(すずき・すずみ) 文筆家

1983年東京都生まれ。慶應義塾大学環境情報学部在学中、横浜・新宿でキャバクラ嬢として働き出し、20歳でAVデビュー。東京大学大学院学際情報学府で執筆した修士論文が後に『AV女優の社会学 なぜ彼女たちは饒舌に自らを語るのか』として書籍化される。大学院修了後、2009年に日本経済新聞社入社。都庁記者クラブ、総務省記者クラブなどに配属され、地方行政の取材を担当する。2014年秋に退社し、現職。著書に『身体を売ったらサヨウナラ』『おじさんメモリアル』『オンナの値段』など。


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