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「今の日本には3食をまともに食べられない子どもがいるの?」ある女性が海外から初めて投票した思い

今回の選挙で、海外から初めて投票した女性がいます。衆院選で在外投票を決意したきっかけは、日本の政治に抱いた危機感でした。

コロナ禍で、日本の政治に「危機感」を抱き、海外から初めて投票した人がいる。

オーストラリアのメルボルンに住む50代の女性は10月20日、メルボルンの日本総領事館で一票を投じた。

これまでは「政治に興味もなかった」。しかし、ここ数年の日本の政治やコロナ禍での日本政府の対応を見ていて不安を感じ、「投票しなければ」と感じた。

女性に話を聞いた。

このままでは「日本の将来はない」。投票を決意

女性が日本の政治に、不安や危機感を抱き始めたのは2015年ごろ、支援団体などが困窮家庭の子どもたちに食事を提供する「こども食堂」について知った時だった。

「今の日本で、三食をまともに食べられない子どもが存在するような社会って一体何?政府は何をしているの?と憤りを感じました。それ以来、政府に不信感を抱いてきました」

女性がオーストラリアに移住したのは約20年前。

「公助」が十分に機能しておらず、「自助」や「共助」がなければ、明日の食事に困る人が出ているという日本の現状を知り「ショックを受けた」。

そしてコロナ禍ではさらに、感染対策や補償などの経済支援対策をめぐり、各国政府間での「格差」が目立った。

感染対策には不織布マスクが推奨される一方で、日本政府は布製の「アベノマスク」を配布し、「Go To トラベル」を実施。

ワクチン接種開始の遅れや感染拡大も目立っていた中での五輪開催などの状況を、ニュースを通じてオーストラリアから見ていると、「有事のときにまったく頼りにならない政府だ」と感じた。

女性が住むオーストラリアでは、2020年3月時点でモリソン首相が感染対策、補償、コロナ後の経済回復について計画と目標を明確に表明。

失業者への給付金や、雇用維持のための企業支援なども発表され、継続的に給付された。

女性も、給付金を受給した人の一人だ。

コロナ禍以前は、在宅でのフリーランスの仕事に加え、パートタイムで週1回、教師の仕事をしていたが、ロックダウン(都市封鎖)の実施に伴い授業数が少なくなり、給与も減った。

しかし2020年4月から12カ月にわたり、国の支援制度で給付金を受け続けることができた。ロックダウンなどで休業を余儀なくされた企業が雇用を維持するために、企業に代わって国が従業員に対して給与を払い続ける制度だ。

「日本とオーストラリアの政府のコロナ対策を俯瞰で見ることができた」。それと同時に、日豪両国のコロナ対策や政治の差も感じた。

自宅で過ごす時間が増えたため、YouTubeでの中継などを通じて、初めて日本の国会中継や党首討論などを見た。「人生で一番、政治や政治家に興味を持った」期間だったという。

その結果、今の政治のままでは「子ども食堂はなくならない」「日本の将来はない」と痛感し、「投票をしよう」と考えた。

「子育てと仕事で忙しく、政治に興味もなかった」でも…

海外に住む日本人が投票するには、大使館や総領事館などで行う「在外公館投票」、「郵便等投票」、一時帰国して投票する「日本国内における投票」の3つの方法がある。

在外公館投票や郵便等投票を利用するには、在外選挙人名簿への登録が必要だ。

在住国の日本大使館・総領事館、もしくは出国前に国外への転出届を出す際に在外選挙人名簿の登録申請をし、初めて海外からでも投票できるようになる。

海外からでも日本の国政選挙で投票できるようになったのは2000年のことだ。

女性はオーストラリア人男性と結婚したことを機に1999年に移住し、2013年に在外選挙人名簿に登録した。

当時、領事館職員による登録の呼びかけが活発で、誘われたことをきっかけに登録だけ済ませたという。

それでも登録後8年間、投票しなかったのは、忙しく、政治に興味がなかったからだ。

「子育てと仕事で忙しく、候補者の情報集めや領事館へ行くために時間を使うほど、政治に対して興味も意欲もなかったからです。支持政党がないとか無投票で意思表示といった崇高な理由ではなく、ただ単に政治には興味がありませんでした」

日本に住んでいた時に、成人して選挙権を得てからも、「いわゆるバブル世代で、仕事にもお金にもまったく困っていなかったので、社会や政治に不平不満を持っていなかった」。

オーストラリアに移住してからは「日本の政治や社会とはほとんど関わりがなかった」が、日本の政治への不安を感じ、投票を決めた。

初めて公約や党首討論で勉強し、ロックダウン下で投票

今回は「生まれて初めて」、日本の出身地の選挙区の立候補者の公約を読み、党首討論などを見て、投票先をじっくり考えた。

投票した20日、女性が住むビクトリア州は、まだロックダウン下。

ようやく規制が緩和されたのは、その翌日のことだった。

ロックダウンの間は、自宅から半径15km圏内の外出しか許されなかったが、投票のため例外的に15km圏外へ出て、領事館へ向かった。

女性は無事、領事館から投票できたが、今回の選挙の在外投票では、コロナ禍の影響で、投票ができない海外在住の日本人も出た。

コロナ禍で国際郵便に遅れが出ており、郵便投票が間に合わない状況が発生した。在外公館での投票が実施されない国もあった。

在ラオス日本大使館は、航空機の国際定期便の運航が停止しており、国際宅急便での送付も遅れが出ていることから、「記載済み投票用紙を期日までに日本へ運搬することが担保されない」として、在外公館投票を実施しないと発表していた。

郵便の遅れなどにより、一票が無駄になってしまう状況はコロナ禍前から発生していた。SNSでは、投票を希望していたのにできなかった海外在住の有権者などから、インターネット投票の早期実現を求める声があがっている。

「若い世代や子どもたちが希望を持てる」政治を

女性が投票行動を通じて、今後の日本の政府に期待するのは、「若い世代や子どもたちが希望を持てる社会を作る政治」だ。

平均年齢が高い議員らによる「昭和の政治」ではなく、若い議員たちの声も取り入れた「強いものには強く、弱いものには優しい政治を目指してほしい」と話す。

行政を中心としたデジタル化を進め、癒着や忖度がない政治を期待している。

女性は以前から、老後は日本へ移住しようと考えていたが、ここ最近の日本の政治を見て、その計画も「棚上げ状態」になっている。

しかし、できるならば帰国したいという気持ちはある。だからこそ、日本の政治に「望みを託して投票した」。

女性は言う。

「老後は、大好きだった日本に永住帰国したいという気持ちに、もう一度させてくれるような政治を望んでいます」

10月31日に投開票される衆院選。

「経済的に苦しい」「政治に不満がある」。様々な思いを抱え、この選挙で初めて投票する人たちがいます。

BuzzFeed NewsはWebアンケートと取材を通じ、「私が初めて選挙に行く理由」を聞きました。

サムネイル:Getty image