「亡くなる前日の、あーーっ!!という高いウィシュマさんの悲鳴が耳を打ちました」
名古屋入管に収容中だったスリランカ人女性が今年3月に死亡した問題。遺族と弁護団が、亡くなったウィシュマ・サンダマリさんの様子を収めた入管の監視カメラの映像の一部を視聴し、10月5日に会見した。
ウィシュマさんの死の経緯についてはまだ分かっていないことが多く、遺族や弁護士は入管などに対し、収容されていた部屋にあった監視カメラの映像の全面開示を求めてきた。
入管側はそれを拒んできたが、遺族が国を相手取り起こす国家賠償訴訟の証拠保全手続きの中で、名古屋地裁の決定により一部が開示された。10月1日に同地裁で遺族や弁護団が視聴した。

名古屋地裁で裁判官や国の訟務検事ら同席の下、約1時間半分の映像を遺族とともに視聴した遺族代理人の指宿昭一弁護士は、会見で話した。
「なぜ今まで入管が私たちに映像を見せようとしなかったのかが、よく分かりました」
「入管が見せたくないのは、ビデオに真実があるからです。入管がウィシュマさんを見殺しにしたということが分かるために、開示していないのです」

駒井知会弁護士は「最終報告書に書かれていないことが、映像にはたくさんありました」と、ウィシュマさんが死亡する3日前の様子をこう説明した。
ウィシュマさんは衰弱し、食べ物をうまく飲み込むこともできない状態にあったが、職員は食べさせる。そのたびにウィシュマさんは吐いてしまう。それを何度も繰り返していたという。
「吐いてしまうのに、繰り返し口の中にごはんを入れていました。栄養を口から取ることが難しいことは素人目にも明らかなのに、なぜそのような状態の人に点滴をせず、口から食べさせようとしたのでしょうか」
その時点でウィシュマさんは上半身を自分でうまく支えることもできず、口に入れられたものをバケツに吐く際にも、頭がバケツの中に突っ込んでしまうような状態だったという。
入管が公表した最終報告書では、この箇所について「食べた」としか記載されていなかった。
ウィシュマさんは入管職員に対し繰り返し点滴や入院を求めていたが、入管は応じていなかった。
駒井弁護士は「職員は、介護の専門的な知識もない人たちだと聞いている」とし、医療が必要な段階にあったウィシュマさんを搬送しなかったと批判した。

ウィシュマさんの妹ポールニマさんは「死亡前日の時点で救急車を呼んでいたら、姉は助かったと感じました。ビデオを見て、最終報告書に書かれていないことが多くあると確信しました」と語った。
指宿弁護士は、ウィシュマさんの死亡数日前の様子について以下のように語った。
「ウィシュマさんが全く動かない状態を見て、職員たちも反応がなくて焦っている感じがありました。4人くらいの職員が、名前を呼んだり、目の前で手を振って反応を確かめているが反応がありません」
「動かないウィシュマさんをみて、なぜ救急車を呼ばなかったのか。理解できません」

弁護士らによると、ウィシュマさんが死亡前に収容されていた部屋の監視カメラ映像は、2月22日から死亡当日の3月6日までの290時間以上分が記録されているという。
映像の開示を求める遺族側に対し、入管は「保安上の理由」などで拒んできた。
今回の裁判所での視聴では、保安に関わる窓や扉の位置は見えないよう、ウィシュマさんにズームした映像が映されたという。
弁護士らは、「保安上の問題があるなら、同様の形での開示が可能だ」と指摘した。
ウィシュマさんの支援者たちは、これまで映像の開示と再発防止に関する9万3千筆超のオンライン署名を集め、入管に提出している。
指宿弁護士は「ビデオを開示しない理由は保安上の問題ではなく、入管の自己保身の理由」とし「すぐに全面開示してほしい」と話した。
提訴に関しては、時期などはまだ未定という。