難民キャンプで、十分な生理用品が入手できないーー。
そんな状況を改善するために、ファーストリテイリングが国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)と連携し、バングラデシュの難民キャンプで、ロヒンギャの難民女性たちへの支援を続けている。
繰り返し使える「布ナプキン」を作る縫製スキルを伝え、女性たちが対価を得ながら布ナプキンを作り、不自由なく使えるようにする取り組みだ。
3月8日の国際女性デーに合わせ同社は、ユニクロ・ジーユーのショーツやブラなどの売り上げから、このプロジェクトに新たに30万ドル(約4080万円)を寄付する。

入手が困難な生理用品。女性たちが使っていたのは「ぼろきれ」
布ナプキンをめぐるコックスバザールの難民キャンプでの支援は、2022年9月に本格的に始まった。
以前から海外での難民支援に力を入れてきたファーストリテイリングが、同社の持つ縫製技術などを生かし、難民女性の支援ができないかと考案した。
難民キャンプで暮らす女性1000人に布ナプキンをつくる縫製スキルのトレーニングを行い、修了者が有償ボランティアとして継続的にキャンプ内の女性たちのために布ナプキンを製作することで、経済的な自立支援を目指す。
国際女性デーに際し、3月3〜16日の期間、ユニクロ・ジーユーのブラ、ブラトップ、ブラフィール、ショーツの売り上げから同プロジェクトへ寄付される。
日本だけでなく、ユニクロのオーストラリア、カナダ、ベトナム、マレーシアの店舗も協力して実施する。

なぜ、生理用品の支援、そして女性への自立支援が必要とされているのか。
その理由を、昨年11月に都内で行われた本プロジェクトの説明会で、UNHCRバングラデシュ・ダッカ事務所上席開発担当官の長谷川のどかさんは、こう話した。
「バングラデシュに暮らすロヒンギャの難民の人たちは、難民キャンプの外に出る移動の自由や、就労の自由がありません。外に出て仕事をし、収入を得て物を買う、という当たり前のことができない生活をしています」
「なので、生理用品もUNHCRなどの人道支援機関の配給に頼って、配給されたものを使うという生活です」

生理用ナプキンの配給はあるものの、支援機関でも資金不足などで、生理用品を必要とする人全員への十分な配布ができておらず、生理用品が不足している状況があった。
長谷川さんによると、難民キャンプを筆頭に、バングラデシュの貧困層が多い地域で、生理用品がない場合に使われるのは「ぼろきれのような布」。
毎月、女性たちは不衛生な状況で生理の期間を過ごしていたが、過去数年で少しずつ生理用品に関する啓発発動は進んできたという。
布ナプキンを配布する際には、布ナプキン使用後の洗濯で使えるバケツに石鹸など衛生用品を入れて配る。
布ナプキンは、使用後にきれいに洗って、干してから次回使う必要がある。生理が始まってまもない女子たちへの「生理教育」にもつながるような支給方法にしている。
布ナプキンは1人あたり7、8枚の支給を予定している。

ロヒンギャ女性「収入を得て、子どもたちの将来の教育費用に」
UNHCRによると、バングラデシュへ避難しているロヒンギャ難民は約94万人にものぼる。
ミャンマーではイスラム系少数民族のロヒンギャの人々への弾圧が長く続いてきたが、2017年8月にミャンマー・ラカイン州での武力衝突が起きた後、情勢は激化。故郷を追われたロヒンギャの人々はバングラデシュなどへ逃れた。
バングラデシュに避難する約94万人のうち9割以上が、 ミャンマーとの国境のそばに位置するコックスバザールの難民キャンプに身を寄せている。
そのうちの75%が女性と子ども。 その多くが、ミャンマーでの武力衝突で夫や父親を失ったり、避難で離れ離れになったりしており、全世帯の30%が女性が1人で生計を立てていかなければならないという状況だという。
そのような状況下でも、難民としてキャンプ外への移動の自由や就労許可がないため、生活費を稼ぐこともできない。
今回の布ナプキンの製作では、女性たちはあくまで有償ボランティアという形で、プロジェクトに携わる。
ファーストリテイリングは、同社の工場で布ナプキンを作ってキャンプに送ったり、紙ナプキンを送り続けることもできた。
しかしそうではなく、ミシンを寄贈し、縫製の技術を伝授することで、経済的自立や将来ミャンマーに帰国したり、就労許可が出たりした際に就職するための技術を身につけてもらえるようなプロジェクトにした。

2021年2月にはミャンマーでは軍事クーデターが起こり、ミャンマー国内の混乱は悪化した。
避難生活の終わりが見えない中、布ナプキンの製作で有償ボランティアとして対価を得ることで、経済的な安定を目指す。
プロジェクトに参加する女性たちは、「収入を得て、子どもたちの将来の教育費用にあてたい」と話しているという。

プロジェクトの立ち上げにあたっては、ファーストリテイリングの社員たちも難民キャンプを訪れた。
現地では、試作で作ったものをロヒンギャ難民の女性たちが実際に使い、改善を重ねているという。
ナプキンをつける下着が十分にない女性もいたため、ショーツも手作りした。
現在、試行錯誤しているのは、湿度の高いバングラデシュの気候でもきちんと乾くようなナプキンにすること。そして、ナプキンを干す場所も確保することだ。
保守的なイスラム社会の中では、男性がいる家庭では布ナプキンを干す場所に困る女性もいるという。その場合、女性だけが集まる支援センターの一角で干すなどの対策を取っている。

ファーストリテイリングは2007年から難民支援を開始。全国のユニクロ店舗で回収したリサイクル商品などを難民キャンプなどに届けている。
これまでUNHCRを通して、3500万点以上が48カ国で配布された。
ほかにも、各国のユニクロ店舗で難民を雇用したり、ユニクロの従業員を6ヶ月間、UNHCRのフィールドオフィスに派遣したりしている。