台東区が路上生活者の避難所利用を拒否。「来るという観点なく援助の対象から漏れた」と担当者

    台風19号で台東区の自主避難所を利用しようとした路上生活者が、利用を断られました。台東区広報に取材しました。

    首都圏でも台風19号の暴風雨が強かった10月12日午後、台東区の自主避難所を利用しようとした路上生活者が、避難所の利用を断られた。

    BuzzFeed Newsは、台東区広報に取材した。

    「野宿者はお断り」

    野宿者の避難所として会館を明日の朝まで開放中です。 台東区の災害対策課に問い合わせたところ、「区の避難所は基本的に野宿者はお断りしている。川が氾濫したりした場合は現場判断する。」と信じがたい回答。

    台風は12日夜に東京にもっとも大きな影響を与えると予想されていたため、複数の路上生活者・労働者支援団体などが、台東区でも見回りを行なっていた。

    一般社団法人あじいるによると、最初は避難所が路上生活者を断っていることを知らずに、ボランティアらが上野駅周辺にいる路上生活者に、避難所の場所を示すビラなどを配布し、避難を呼びかけていた。しかし実際に路上生活者が避難所に行くと、利用を断られ、片道30分の雨の中をまた帰ってきたのだという。

    ボランティアが台東区役所に確認すると、「区内に住所がない」などを理由に、路上生活者の自主避難所利用を断っていたということが判明した。

    それらがTwitterやFacebookで投稿され、SNS投稿を見た人々が、台東区役所の災害対策本部に抗議の電話などをしたが、「住所がないと利用できない」「区民が優先」の一点張りだったという。

    「路上生活者が来るという観点がなく援助の対象から漏れた」

    BuzzFeed Newsが13日に台東区災害対策本部に電話取材をすると、広報課の担当者は、路上生活者の自主避難所利用を断った事実を認め、次のように述べた。

    「自主避難所では入り口で避難所カードに名前や住所をご記入いただいています。そこでいらっしゃった住所不定者の方が『住所がないんです』とおっしゃり、避難所は区民の方への施設ということで、お断りをさせて頂きました」

    担当者によると、区内に住所がない路上生活者が避難所を利用できないという判断は、「区の決定」で「災害対策本部の事務局が判断した」という。

    「もっとも被害を受けやすいのが路上生活者の方」

    12日、区内には小学校や区民館など4カ所に自主避難所が設置されていた。また、上野などがある同区は外国人観光客や日本各地からの訪問者も多いために、上野と浅草に2カ所、外国人観光客や帰宅困難者向けの避難場所も設けられていた。

    今回、台風で危険が差し迫っていたにも関わらず、利用を断ったことに対し、Twitter上でも「もっとも被害を受けやすいのが路上生活の方なのに」「断るなんてありえない」と批判が相次いだ。

    批判に対して広報担当者は「事実として、住所不定者の方が来るという観点がなく、援助の対象から漏れてしまいました」と説明。また「今後は他自治体やお電話をくださった皆さまのご意見なども参考に、どう命を守るか検討していきたい」と話した。

    「明らかな差別で命に格差をつけている」

    NPO法人ビッグイシュー基金理事、一般社団法人つくろい東京ファンド代表理事を務める稲葉剛さんは、「人命に関わることであるのに、明らかな差別。命に格差をつけているということになる」と台東区の対応を批判する。

    「そもそも現実として、気象庁も『命を守ることを最優先にした行動を』と呼びかけているのに、路上生活者は排除された。人々の命を守ることが行政に課せられた義務のはずです」

    稲葉さんは立教大学大学院で貧困・社会的排除、居住福祉論などを教え、1994年から東京を拠点に路上生活者支援をしている。

    風雨から身を守る家がない路上生活者は災害時にもっとも被害を受けやすく、これまでにも台風が来た際に、増水した多摩川で小屋が流されて路上生活者が亡くなったこともあったという。「住民票がない路上生活者は、亡くなっていても分からないというのが現実です」と稲葉さんは話す。

    20年以上前から発生していた問題

    ホームレス状態の人が路上で雑誌販売をするビッグイシューで現金収入を得ている方などは「台風が来るという情報を得ると、少しずつ現金を貯めて、台風の日はネットカフェなどに泊まる」という。

    しかし、現金収入などもなく行き場がない路上生活者は台風の際、「ビルの隙間など、より安全な場所を求めて過ごしている」と、稲葉さんは説明する。

    稲葉さんによると、路上生活者の避難所利用の問題は、1995年の阪神・淡路大震災の際に発生し、抗議の声があがった。そこからは行政の対応も整ってきていたという。

    今回、台東区の対応で、その問題がまた再燃している形だ。稲葉さんはこう指摘する。

    「山谷や上野公園がある台東区はそもそも都内でも1、2を争う路上生活者が多い区だが、福祉事務所の対応は普段から厳しい。今回の件はそれが露骨に浮き彫りになったのだと思います」

    (サムネイル:getty image、10月12日に都内に設置された避難所)