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「なぜ男と女の命の重みは違うの?」ある少女たちの問いかけ

イラン映画「少女は夜明けに夢をみる」が、私たちに語りかけるものとは。

少女たちが犯した容疑は、殺人、強盗、違法薬物使用。

一方で少女たちは、性暴力や虐待を受けた過去があり、家族からの支えもない状況で貧困を生き抜いてきた「被害者」でもあるーー。

イランの首都・テヘランにある国営の女子更生施設を撮影したドキュメンタリー映画「少女は夜明けに夢をみる」が11月、日本でも公開される。

日本でも性的暴力を受けたり、家族に居場所がない少女がいる。イランの少女たちは日本の観客に何を語りかけるのか。

監督の「君の夢は」という質問に、収容されたばかりの少女ハーテレは「死ぬこと。生きることに疲れたの」と答えた。

ハーテレは、おじから性的虐待を受けていたが、母やおばに被害を話しても「嘘をついている」と信じてもらえなかったという。

監督は「イランでも最貧困層を生きる少女は、性的暴力などの被害にあうことが多い。父親やおじに性的暴力を受ける場合は、家族にも言い出せない場合が多いのです」と話す。

ハーテレは母親からも暴力を受けており、それから逃げるために家出を繰り返すが、その度に連れ戻され、「嘘をついた」罰として家の外の鎖で繋がれ、そこに水や食事を出されるなどして犬のように扱われていた。

やがて離れて住む姉を探して、治安の悪い地域へ迷い込み、そこでもギャングの男らに性的暴力を振るわれる。手首を切り、血を流して倒れていたところを警察に見つかり「浮浪罪」で拘束され、更生施設に収容されたという。

結果的におじは逮捕され、刑務所に2年間入っているというが、ハーテレにとって家庭は安心できる場所ではない。

施設には、家族がいなかったり、帰る場所がなく、施設を出ると路上で生活するしかない少女もいる。監督はこう指摘する。

「施設の方が安心という状況があります。施設のソーシャルワーカーは親切でも、施設から一歩でるとサポートもない。施設の外は家族の問題となるので、施設と家族の間の支援がないんです」

「家族のもとに帰ることができない子どもをサポートするNGOや国営施設もあるが、数が少なすぎて足りていません」

撮影許可が降りるまで7年、撮影は20日間

監督が更生施設を撮影したドキュメンタリー作品はこの作品で3作品目だ。2008年と2012年には、少年の更生施設を撮ったドキュメンタリーを発表している。少年の更生施設を撮影している際に、女子専用の更生施設を存在を知り、2009年に撮影許可を申請した。

交渉に交渉を重ねてやっと撮影許可が降りたのは7年後の2016年。施設内へ3カ月の出入りを許可され、20日間で撮りきったという。

撮影期間のはじめに困難を極めたのは、少女たちとの信頼関係を築くことだった。

おじなど年上の男から性的暴力を受けていた少女たちが多い。一方で監督は、少女たちにとって警戒の対象になる「年上の男」だった。少しずつ信頼関係を築き、カメラをまわした。

ドキュメンタリー撮影にあたり、施設や政府側と約束したことはイラン国内のテレビでの放映をしないこと。発表は国内外の映画祭や大学で上映したという。

「テレビ放映をしないことを約束していたので、少女たちの顔を写さないことやモザイクをかけるという条件はありませんでした。しかし私自身、彼女たちの家族との関係もありますし、少女たちに何かあったらと思い、顔を写すべきではないと思っていました」

しかし結果的にはモザイクなどはなしで映画は公開されている。それは、少女たち自身が「顔を見せていいよ」と言ったからだという。

貧困、犯罪などの厳しいイランの現状を写した作品であった一方で、政府関係者を含めイラン国内からは「彼女たちは誇り高い人物だと思った」「胸を動かされた」という前向きな反応が届いた。

監督が更生施設を撮り始めた理由は、自身の10代の経験に繋がっている。

イランが現在のイスラム共和国体制となる前の王政時代、監督の曽祖父は反政府活動をしていた。父親も政治活動をしていたために2人とも刑務所に入っていたという。

「15歳の時に、父が倒産し、家族は借金取りに追われていて、自殺しようとしました。その時は思い留まれたんですが、後に、当時の自分と同じ年ごろの子どもたちがどんな生活しているか興味を持ち更生施設の子どもを撮り始めました」

「なぜ男と女の命の重みは違うの?」

イスラム教の少女たちが住む更生施設には、定期的にイスラム法学者が訪ねてくる。「人権について話そう。質問は?」と切り出した学者に、少女たちは堰を切ったように、イラン社会への疑問をぶつけた。

「女より男を殺したほうが、なぜ賠償金が高いの?」

「なぜ男と女の命の重みは違うの?」

「父親は子を殺しても罰せられない。子の命は父親のものなの?」

監督は撮影後に学者が「本当は私も答えは分からない」と語っていたと振り返る。

実際にイスラム法では、殺人が起きた場合、遺族が犯人に求めることができる賠償金は、被害者が女性だった場合、男性の半額になるという規定がある。

この定めを現在は法律としては適用しないイスラム教国もあるが、イランでは今も生きている。

「いつ通るか分かりませんが、これを変えようという法案はあります」と監督は話す。

イスラム法は、「神が下した法」であり、人間が変えることはできない。これがイスラム社会の考え方だ。一方で聖典コーランで幾通りもの解釈が可能なかたちで書かれているものもある。

現代の価値観でそぐわない部分の解釈の変更を試みたり、近代法を導入して矛盾を図ろうとする国もある。

だがイランは「イスラム共和国」をうたう国家体制だけに、イスラム法に直結する部分を変えることには、大きな抵抗を伴う。

イスラム法やイスラム社会の女性への理不尽さを訴える少女たちの率直な質問に対し、監督はドキュメンタリーを撮影する意義をこう位置付ける。

「変えることは難しいかもしれませんが、カメラマンやジャーナリストは、このような現状に質問を投げかけることはできる。それが、法を考える人たちに刺激を与えることになるかもしれないし、法が変わることにつながるかもしれない」

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映画は、11月2日より、東京・岩波ホールなどで全国順次公開される。

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