「毎日、血ヘドを吐く思いでスカートの制服を着て学校に通いました」
「スカートを履いて3年間学校に通うということは、自分の中で本当に大変だった。自分の恥をさらしているような思いで、時には学校に通えない時もありました」
トランスジェンダー男性のくろまるさん(17)は、中学時代の経験を振り返り、当時の辛さをそう語った。
性自認は男性だったが、学校では男子生徒用制服の着用を許されず、女子生徒用のスカートを着用することを3年間強いられていた。
くろまるさんは「後輩たちが、同じ思いをしないで良いように」と、地元・東京都江戸川区で制服を「選択制」にするため、オンライン署名を始めた。
「あの時、制服を選択できる余地があれば」
男子生徒は学ラン、女子生徒はジャンパースカートの制服がある中学校に入学する際、くろまるさんは「自分は当たり前に学ランを着ると思っていた」と話す。
「『自分が着たいものじゃない』というよりは『自分が着るものじゃない』という意識が強かったんです」
しかし戸籍の性別が女性だったくろまるさんは、学ランを選択することは許可されず、毎日スカートを着用して学校に通った。
スカートで登校することが辛く、ジャージを履いて登校したこともあったが、ジャージで授業を受けることは許されずに帰宅させられたこともあったという。辛い思いを話しても、担任教員からの理解は得られなかった。
くろまるさんは、教員に性自認や制服について打ち明けた時のことをこう話す。
「我慢しろ我慢しろと言われて自分の気持ちを押し殺していたところがありましたが、中学3年の修学旅行前、自分の中でもう我慢しきれず、担任にカミングアウトをしました」
「耐えきれなくてカミングアウトしたのに、『あと半年なんだから』と言われました。受け入れてもらえない大人の態度に愕然としました。自分がどんな気持ちでカミングアウトしたのかさえ、考えてもらえなかったんです」
担任の理解も得られず、生徒会が運営する学校の意見箱に、勇気を出して「制服を選択制にしてほしい」と投稿したが、何も対応はなかった。
現在は、制服のない定時制の高校に通っている。
オンライン署名サイトの説明欄に、くろまるさんはこう思いを綴った。
気づかってくれる大人は周りにはいませんでした。あのとき、制服を選択できる余地があれば、僕の3年間、最初から最後まで苦痛でしかなかった中学校生活の大部分の苦痛は解消されていたことでしょう。
制服だけでなく、体育着も男女でデザインや色が違っていたという。
たまたま、くろまるさんが男子の体育着を借りて着ていた時には、皆の前で教員に怒鳴られ、その場で脱げと言われた。
それがきっかけで、学校に通えない時期があったという。
また、体育の授業前には男女に分かれた更衣室で着替えをするため、「週に2回、体育の時間は、辛い時間でした」と語る。
各地の学校では、こうしたトランスジェンダーの生徒らへの配慮などを理由に、自由に制服を選べる選択制にしたり、女子生徒用の制服にスラックスを導入したりする動きも出てきている。
くろまるさんは6月5日、自身の経験を踏まえ、活動に参加している団体「LGBTコミュニティ江戸川」の一員として、オンライン署名を立ち上げた。同団体は、江戸川区で、LGBTの人々が直面する問題などに取り組んでいる。
くろまるさんは言う。
「自分が学生時代、制服がストレスで苦痛でした。今後、江戸川区の学校に通う後輩や子どもたちが、同じ思いをしないで良いように、署名を集めようと思いました」
現在、1万筆以上が集まっている署名は、江戸川区長に直接手渡される予定だ。
母親として活動する理由
LGBTコミュニティ江戸川で一緒に活動するメンバーには、トランスジェンダー女性の子どもを持つ母親もいる。その女性は「江戸川のコミュニティで、変えていかなければいけないこと」と話す。
女性の子どもは現在、小学校5年生だ。小学校は私服だが、中学から制服になるため、制服の選択制導入は家族にとって目前に迫った問題でもある。
女性はこう話した。
「男の子で生まれたけど、小さい頃から『私は女の子』と言っていて、可愛いものが好きでした。私はどちらでもよくて、欲しいものを与えるようにしていました。小学校入学時、ランドセルを選ぶ時も本人が好きなように選ばせて、学校もスカートを履かせて行かせています」
「通称名を使っているのですが、家の前で男らしい本名を言われたりとか、『おかま』と言われたり、水筒で叩かれたりしたことがありました」
その時は学校に相談して、教員には「いじめとして、やった児童に注意します」と言われたが、子どもの性自認について話すと、「体が男の子で心が女の子なんていうことは、子どもには理解できない」と言われたという。
「子どもその言葉に傷ついて『私が死んだらお母さんも死ぬ?』『私が死んだら、私はピンクが好きだから、ピンクのお花を入れてくれ』と話し、『死にたい』と3階の自宅から飛び降りようとしたこともありました」
制服の選択制導入もだが、全体的な教育現場でのトランスジェンダーの子どもへの理解のなさが露呈していると女性は指摘する。
誰も疑問を持たない「男女別名簿」に「男女分散登校」
くろまるさんは、制服の選択制導入の署名の他に、もうひとつの課題にも取り組んでいる。
江戸川区の小中学校での「男女別名簿」を「男女混合名簿」にするよう求める陳情だ。
江戸川区では、現在でも名簿が男女別になっており、男子から順に名前が並び、その後に女子の名前が並ぶ形になっているという。
この呼びかけにも、くろまるさんが小中学校で経験した、自分の意思に反する性別でのカテゴリー分けへの思いがあった。
「当時から、無意味な男女分けが多くて、小学校の時も名簿は男女別でした。名簿にそって授業を進める先生もいるので、男女でグループ分けなどがあった時、自分が名簿に法って勝手に女子というカテゴリーに入れられることが嫌でした。そのように、尊重されていないことが多々あったと思います」
新型コロナウイルスの影響で全国の学校が休校になり、学校再開に際して各地では「分散登校」が実施された。
その際、学年別で分散登校した学校もあったが、男女別で実施した学校もあった。くろまるさんはそのことを知り、男女別で分けられた時に傷つく生徒もいると、区への陳情書の提出を決意したという。
くろまるさんは6月11日、江戸川区議会長宛の陳情書を区議会事務局で提出した。
前述の、トランスジェンダー女性の子どもを持つ女性も、男女別名簿の問題を指摘する。
娘が通う学校でも男女別名簿が使われており、また教室でも、児童の名前が男女別で赤と青のマグネットで色分けして貼り出されていたりしたという。
「赤や青で色分けされたり、分散投稿で男女別に登校していることに、誰も疑問を持っていません。そこに少しがっかりしてしまうところもあります。教員に赤と青で名前のマグネットを分けないでくださいとお願いしたら『何が悪いかわからない。あなたみたいなこと言う人は50年生きていて初めてです』とも言われました」
女性は、学校だけでなく区や教育委員会に変革を働きかけていくことも重要だと考え、LGBTコミュニティ江戸川や、くろまるさんの陳情に賛同しているという。
女性は、名簿など学校現場での現状を変えていくことについて、こう話した。
「小学校で私1人が先生に話していても孤軍奮闘のような状態でした。学校は10年後の未来を作るから、変えていかないといけないと思って活動しています」
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世界各地でLGBTQコミュニティの文化を讃え、権利向上に向けて支援するイベントなどが開催される毎年6月の「プライド月間」。BuzzFeed Japanは2020年6月19日から、セクシュアルマイノリティに焦点をあてたコンテンツを集中的に発信する特集「レインボー・ウィーク」を実施します。
(サムネイル:Getty image)