
2017年にフィリピンの労働雇用省が出した労働雇用省令178号では、立ち仕事をする女性スタッフに対するハイヒールの強制を禁止している。省令は同年8月に公表、9月に施行された。
省令の対象となる立ち仕事の例としては小売業、サービス業、組み立て工場勤務、教師、警備員などの職種があげられている。

省令の主な内容は以下の通り。
・職場では立ち仕事をする労働者は、仕事に適していて履き心地が良い靴を履くべき。靴は足やつま先を締め付けず、足の甲を支えるクッションがあり滑りにくいもの。フラットもしくは幅が広く、低いヒール、もしくは1インチ(2.54cm)以下のウエッジソールであるべき。
・立ち仕事の場合は休憩時間を設けよ。もしくは立ち仕事や歩き回る時間を短くせよ。
・休憩中、もしくは仕事中でも座ることのできる椅子を職場に用意すべき。
省令は9月に施行され、立ち仕事の職員を持つ企業は施行から30日内に、職員にハイヒールを強制していないかなどを同省の地域事務所に報告することも呼びかけていた。
労働雇用省が健康への影響などもツイート
High heels in workplaces now regulated -- https://t.co/itKCRAxucC -- #OSHangGustoKo
労働雇用省は企業に対し、イラストなどを交えた資料で省令の内容を説明する他、ハイヒール・パンプスによる健康への悪影響なども、ツイートするなどしていた。
フィリピンでは省令施行までは、大手小売りの百貨店やモールでは販売職の女性にはハイヒール着用が強制されるケースが多かった。省令をきっかけに、以前強制されていた黒のハイヒールに代わって、黒で革の靴ではあるが、ヒール部分がない靴を選択できるようになった。
「アジアで最初に企業によるヒール着用強制を禁止した国」
この省令は、フィリピン最大の労働組合連合ALU-TUCPの労働雇用省への働きかけによって実現した。同労組連合のアラン・タンフサイ広報担当はBuzzFeed Newsに、働きかけの発端は「小売業の販売職をする女性たちからの助けを求める声でした」と語る。
同団体によると「フィリピンはアジアで最初に企業によるヒール着用強制を禁止した国」だという。
「立ち仕事の販売職でも彼女たちは企業からハイヒール着用を求められ、足の痛みに耐えかねていると助けを求められました。それを発端にALU-TUCPは労働雇用省に、企業にヒール着用強制を禁止するよう働きかけ、政府はそれを実行する形となりました」
タンフサイ広報担当はこう語る。
「政府に働きかけたことをきっかけに『私もヒール着用で苦しんでいた』という声が全国から多くあがりました。労働雇用省が申し入れを聞き入れてくれたことに感謝をしています」
「経済的に発展した日本でも、職場でヒール着用によっていまだに女性が困難な状況にあるのならば、企業によるヒール着用強制は撤廃すべきです」

また、女性政党ガブリエラのアーリーン・ブロサス下院議員はBuzzFeed Newsの取材に対し「政府は、女性を含む国民の労働環境や福祉について責任を持つことが仕事であり、女性労働者の安全や健康を保障することも含まれます」と、政府による企業への働きかけの必要性を主張した。
「ハイヒールを履くことは女性の健康に悪影響を与えると医学的にも立証されています。長時間ハイヒールを履くことは姿勢や脊髄、筋肉などに影響するとされています。職場でヒールを履いていると転倒などの原因にもなります」
企業が女性スタッフに対して、ヒールを強制すべきでない理由としてはこのように指摘している。
「女性労働者の職場での仕事の生産性を求めるのであれば、女性労働者が働きやすい環境を整えるべきです。その一部として、女性労働者が快適で最も働きやすい靴や服装の着用を許可すべきです」
フィリピンの他にも、ヒール着用強制に対する反対の呼びかけは、イギリスやカナダなどの国で実施された。
カナダのブリティシュコロンビア州では2017年4月、州内の企業に対して女性スタッフにハイヒールの着用強制を禁止することを発表していた。
また、イギリスでは2015年、大手コンサルティング会社の受付で働いていた女性が、ハイヒールを履いていなかったことによって帰宅を命じられ、その日の給料も払われなかったという。女性が始めた職場での服装規定の改定を求める署名活動では、15万以上の署名が集まり、英議会委員会は実態調査も行なった。