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「良かれと思って言っても、命に関わることがある」看護師が訴える切実な思い

トランスジェンダー男性が、職場でアウティングの被害に遭い、団体交渉の末、和解しました。これまでいくつもの職場でアウティングをされてきた男性は「相談できるところがある」と話します。

「良かれと思って言ったとしても、人の命に関わることもあります。それを知っていてほしい」

職場で、トランスジェンダーであることを勝手に暴露された看護師は、そう話します。

彼は労働組合に暴露について相談。団体交渉をして和解しました。

「相談できる場所があること、労働環境を改善できることを知ってほしい」と語ります。

Maskot . / Getty Images

(イメージ写真)

本人が公表を望んでいないにも関わらず、セクシュアリティやジェンダーを勝手に人に話してしまうことを「アウティング」といいます。

そのような情報は、当事者が望まない場合は決して、了解なく伝えられるべきでなく、アウティングは決して許されるものではありません。

三重県や東京都国立市など複数の自治体で、アウティングを禁じる条例もできています。

トランスジェンダー男性の浅沼智也さんは、これまでに働いた複数の職場で、何度もアウティングの被害に遭い、辛い経験をしてきました。

それが原因で仕事に行けなくなったり、その職場を辞めたこともありました。

しかし今回、職場でのアウティングをなくしたい、職場にも変わってほしいと考え、団体交渉をすると決意しました。

「アウティングの問題について多くの人に知ってもらいたい」と、BuzzFeed Newsに自身の経験を語りました。

浅沼さん提供

浅沼智也さん

「うちの職場ではLGBTに対する差別はないから。安心して」

医療関係機関で看護師として働く浅沼さんは2020年秋、転職活動をしていました。

面接の際、提出した職務経歴書を見て、社長に前職を辞めた理由について聞かれました。

浅沼さんは転職前の職場でもジェンダーやセクシュアリティについてのアウティング被害に遭ったため退職していました。面接の時には、相手を信頼し、被害や自身がトランスジェンダーであることについて伝えました。

それを聞いた社長は「うちの職場ではLGBTに対する差別はないから安心して」と話したといいます。

面接の結果、浅沼さんは採用され、書類の手続きに行った際、トランスジェンダーであることを他の職員に伝えるかどうか尋ねられました。

浅沼さんは既に戸籍上でも、女性から男性に性別を変更しており、「看護師という仕事とトランスジェンダーであることは関係がないので、カミングアウトはせず、公表はしません」と答え、「もし聞かれたら、自分から聞いた人に答えます」と話しました。

しかし、それにもかかわらずアウティングが起きたのです。

差別はないと断言された職場で起きたアウティング

Trevor Williams / Getty Images

(イメージ写真)

アウティングは、浅沼さんが実際に働き始める前に起きました。

ある職員がこれから入る新しいスタッフについて「どんな人がくるんですか?」と社長に尋ねると、社長は「男性2名、新しく入ってきます。1人はトランスジェンダーです。中性的だからすぐにわかります」と答えたといいます。

その際、事務所には5人以上の職員がいて、それをきっかけに、事実でないことや陰口も含む噂が職場に広まってしまいました。

職員は、事実でないにも関わらず「女子トイレに入っていたのを見た」と言ったり、「あの人は女らしいよ」「あの人は手が小さいから絶対的に女だ」などと陰口を話したりしていました。

アウティングがあったことを浅沼さんが知ったのは、約2ヶ月後のこと。

同僚から話があると言われて、社長が暴露したことを知りました。

面接で社長が浅沼さんに言った「うちの職場ではLGBTに対する差別はないから安心して」という言葉を思い出し、「どこが安心な職場なんだろう」と思ったといいます。

浅沼さんは、「怒りというよりは悲しさが大きかったです」と話します。

「仕事に集中したいんですけど、自分のジェンダーやセクシュアリティのことを皆が知っていて、自分が嘘をついていると詮索されているのではないか…と思い、なかなか仕事に集中できませんでした」

「法律上の性別自体も変えているのに、職場というトランスジェンダーであることと関係ない場所で、なぜ詮索をされ続けられないといけないのでしょうか」

面接時に「差別はないと断言をしたにも関わらずそういうことが起きてしまったという現実」に、ショックを受けたといいます。

職場ではLGBTについて学ぶ研修もなく、「LGBT」や「トランスジェンダー」という言葉をよく理解していない職員が、間違った認識や情報を言いふらすということも起こっていました。

これまでも繰り返し、職場でアウティング被害に

Shapecharge / Getty Images

(イメージ写真)

浅沼さんはこれまで、何度も職場でアウティングをされてきたと話します。

「以前は、法律上の性別が女性ということで職場でアウティングをされ、それが原因で仕事に急にいけなくなった時期もありました」

「その時は救急救命にいたんですけど、僕が振り向くまで先生(医師)に『お姉さん』と言われたり、『下半身どうなってんの?』『元々女なのに、なんで嘘ついて働いているの?』など言われ、患者さんにまで噂が広まっていました」

仕事に行けなくなってしまったことをきっかけに、戸籍上の性別を変えた方が働きやすくなるのではないかと考え、浅沼さんは2012年、23才の時に、戸籍の性別を女性から男性に変更しました。

しかし、戸籍を変えた後に働き始めた職場でも、アウティングや、ジェンダー・セクシュアリティに関する詮索が続きました。

「性別が変わって男性になっても、どうしても変えられない骨格など見た目の問題などがあり、差別や詮索をされるということは変わりませんでした」

「そこは、社会が変わればいいな、変わってほしいなと思います」

浅沼さん提供

浅沼智也さん

浅沼さんは看護師として働く他に、トランスジェンダーをテーマにしたドキュメンタリーを撮影したり、様々な面でトランスジェンダーの人々のサポートをするなど、活動をしてきました。

トランスジェンダーであることを公表して活動をしていますが、職場で自身の意思とは関係なく勝手に暴露されることはもちろん望んでいません。

「活動をしていると、全ての場所で公表していると勘違いされることも多いのですが、僕の職業とトランスジェンダーであることは関係がありません。なので、隠すつもりはないのですが、職場でわざわざ言う必要がないと考えています」

「それなのに、職場でこそこそジェンダーやセクシュアリティのことを言われたり、理解がない人を含めて色んな人に噂などが広まり、『体がどうなっているの?』とか職場で詮索されるのは、しんどいです」

アウティングは命に関わる問題

アウティングの被害を受けていたのは、浅沼さんだけではありません。

「周りのトランスジェンダーの友人の中には、職場でアウティングの被害に遭い、心身ともに辛くなって仕事を辞めざるをえない状況に陥った人もいます」

「そのような状況を変えていかないといけないという思いがありました。声を上げて働きやすい職場にするという事例を一つでも多く残して、トランスジェンダー にとって働きやすい環境作りを少しでもしたいと思いました」

浅沼さんは、LGBTQの労働相談も受け付けている労働組合「プレカリアートユニオン」に相談し、団体交渉をすることを決意しました。

Kazuma Seki / Getty Images

(イメージ写真)

団体交渉の結果、アウティングやセクハラ、「SOGIハラ」防止のマニュアルを作り、周知することなどを条件に和解が成立しました。

「SOGI(ソジ)」とは、恋愛感情や性的な関心を抱くのはどんな相手かという「Sexual Orientation」(性的指向)と、自分の性別をどう認識しているかという「Gender Identity」(性自認)の頭文字をとった言葉です。

SOGIハラ」は、SOGIを理由にハラスメントをすることを指します。

話し合いでは、浅沼さんがトランスジェンダーだと暴露したことは、社長としては「良かれと思って」話したということがわかったといいます。

浅沼さんは、「社長が良かれと思って言ったとしても、それは全然良かれではない」とし、こう話しました。

「その『良かれと思って』言ったことが、その人の人生に大きな変化を与えてしまうかもしれません」

実際に、2015年8月には、ゲイであることを同級生にアウティングされた一橋大学法科大学院の学生(当時25)が、キャンパス内の建物から転落死する事件が起きました。

「アウティングで命を失うことになるかもしれないということは、いろんな人が知っておかないといけないと思います。それほど重要かつ緊急性を要することであると知ってほしいです」

相談できる場所ある。泣き寝入りしないで

何度もアウティング被害に遭ってきて、今回初めて団体交渉をした浅沼さんですが、アウティングに遭った人たちに伝えたいことがあるといいます。

「やはり組織対個人で闘うのは大変ですが、労働組合など、問題解決のために力になってくれる仲間がいるということを知ってほしいです」

これまで何回も職場でアウティングをされてきても、「仕事がないと生活も厳しくなってしまうし、自分さえ我慢すれば…」と思って耐えたり、転職したりしてきた浅沼さん。

しかし、「アウティングは許されないことだと、誰かが声をあげなければ」と思い、労働組合に相談したといいます。

「大きな組織であればあるほど、主張しすぎると煙たがられます。変に空気を読んでしまい、わきまえてしまうところがやはりありました。なかなか声があげられずにいましたが、社会が変わってくれれば」

「勇気がいることだと思うんですけど、でもその先に働きやすい未来が待っている可能性もあります。そして、自分が声をあげることによって、他の誰かの働きやすさにつながっていけばと思いました」

Arne Trautmann / Getty Images

(イメージ写真)

浅沼さんが今回、相談した労働組合「プレカリアートユニオン」の執行委員長、清水直子さんは、こう話します。

「LGBTQの当事者のアウティングを含む職場の問題は、労働組合なら相談できるだけでなく、ともに解決をすることができます」

「労働組合というと日本では会社ごとに作る企業内組合が数としては主流ですが、プレカリアートユニオンは、誰でも1人から加入できる労働組合で、6年前からLGBT労働相談に取り組んでいます。1人で悩まずに、まずは相談してください」

また、「性自認や性的指向、これらに関わる情報を本人の同意なく暴露することは、時に人の命を奪うことだと自覚してほしい」とし、職場のハラスメント研修に「SOGIハラに関する内容を盛り込む必要があります」と話しました。

浅沼さんは、医療機関でもっと、LGBTQに関する研修が必要だとも話します。

「積極的な医療機関はLGBTQに関する人権研修などもしていて、僕も講師として教えにいくこともありますが、そのような研修が全くない機関も多く、温度差がはげしいです」

「患者さんでトランスジェンダーやLGBTQの人が来院したらどう対応するかという議論はあっても、『当事者が職場にいるかもしれない』という考えや想定が抜けていることが多いと思います」


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LGBTQをはじめとする性的マイノリティの存在を社会に広め、“性”と“生”の多様性を祝福するイベント「東京レインボープライド」が、4月24日〜5月5日にかけて開催されています。

5月1日午後5時からはオンライントークイベントで、浅沼さんや、プレカリアートユニオンの清水さんが、トランスジェンダーの人たちが職場で直面する問題などについて話します。

BuzzFeed Japanは2021年4月23日(金)〜5月1日(土)にかけて、性的マイノリティに焦点をあてたコンテンツを集中的に発信する特集を実施しています。

特集期間中、Twitterではハッシュタグ「#待ってろ未来の私たち」を使って、同性婚やパートナーシップ制度などのトピックをはじめ、家族のかたちに関する記事や動画コンテンツを発信します。

Contact Sumireko Tomita at sumireko.tomita@buzzfeed.com.

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