広告をつけたディスペンサーから生理用ナプキンを無料で受け取れるーー。
そんなサービスがこの夏、始まった。
東京都中野区役所の女子トイレの個室に8月から設置され、今後、首都圏のモールや大学、他自治体の公共施設などにも導入される。
なぜ、生理用品を無料提供するサービスをつくったのか?
オイテル(OiTr)の専務取締役COO・飯﨑俊彦さんに話を聞いた。
「トイレットペーパー同様にトイレに生理用品が常備される社会」に
プロジェクトが本格的に開始したのは2020年の春。
「トイレットペーパーは常備されているのに、なぜ生理用品は常備されていないのでしょうか?」と書かれた記事を読み、飯﨑さんはこう考えた。
「生理の問題は、女性だけの問題ではなく、社会全体の問題であることを認識しました」
「無料で提供するには原資を稼がないといけない。そこで広告をつけようと考えました」
ディスペンサーのスクリーン画面には常時、契約した企業などの広告が流れる。施設側は電気代を負担するだけで済む。オイテルが目指すのは「トイレットペーパー同様に生理用品が常備される社会」。
そこには、「ジェンダーギャップという不均衡の是正に寄与したい」という思いがあるという。
「女性だけの問題」ではない。社会全体で取り組むこと
個人差はあるものの、生理中は腹痛・頭痛などの体調不良、月経前症候群(PMS)など身体的な負荷が生じる。さらに生理用品を買うための経済的な負担もある。
女性の生理が38~40年くらいあるなかで、生理用品代で約50万円かかり、通院や薬代をいれると70万円以上になると言われている。
飯﨑さんは、生理用品にかかる税金についても改善されるべきだと考えている。
日本ではほかの商品と同様、生理用品にも10%の税金がかかる。「軽減税率対象の8%に引き下げて」と求めるオンライン署名には、7万筆以上が集まった。
イギリスは今年から生理用品への課税を停止。同様の動きは各国に広がっている。
「当事者の女性たちも、あまり違和感も持たずに払ってきた。あくまで『生理は女性だけの問題だから』と考えてきたからだと思います」
「生理用品への課税は性差別として捉えられてもおかしくありません。なぜ、生理のある人だけが、生理用品の消費税を払わなければならないのか?しかも、生理がある40年もの長い間。これは十分な社会問題といえるのではないでしょうか」
また、経済的に困窮し、生理用品を買う費用が捻出できないなど「生理の貧困」も問題化している。
「手持ちのナプキンがないときに利用できて助かった」「すごくいい」利用者の声
実現までには困難もあった。
「実証テストの場所を探して営業をかけていた時は、前例のないサービスだけに、なかなか相手にしてもらえませんでした」
何社も掛け合う中で、三井ショッピングパークを運営する三井不動産との話が進み、「ららぽーと富士見」での実証テストにこぎつけた。
「最初に話を聞いてくれた若い男性の方が、私たちの理念に賛同してくださり、社内でかけあってくれて実証テストが決まりました」
客層も年齢層も幅広い大型商業施設でのテスト。ディスペンサー5台をトイレの個室に設置し、4週間で1400枚のナプキンが使われた。
利用者アンケートでは、83%が今後も「利用したい」、17%が「機会があれば利用したい」と回答。利用を希望する人が100%という結果になった。
自由記入欄には、こんな声が寄せられた。
「生理周期が定まらず、突然生理がきて手持ちのナプキンがなくて困っていたときに、たまたま利用できて助かりました」
「このサービスがあれば、(生理の時に)少しでも気が楽になる女性が増えてとてもいいと思います」
「まさにこのようなサービスを求めていました。すごくいいと思います」
ナプキン配布は専用アプリで管理され、1回の利用につき提供されるのは1枚。2時間経つと再び利用が可能になり、次のナプキンを受け取れる仕組みだ。約1カ月で7枚使用できる。
オイテルが設置されている場所は、専用アプリやオイテルのウェブサイトで確認できる。
オイテルは来夏までに約3000台を設置することを目指している。
「必要とするすべての人に生理用品が行き届く社会」を実現するため、将来的にはアプリなしで利用できる方法も模索していくという。