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日本で待っています。自動車修理屋さんが慣れないタイ語で手紙を書いた理由

来日の日を待っているタイ人の技能実習生に、奈良県の社長が手紙を書きました。社長が技能実習生を迎え入れる思いとは。

「このような状況で日本に行くことをご両親は心配していると思いますが、スタッフみんなベンツ君が日本に来てくれることを、心待ちにしています」ーー。

新型コロナウイルス感染拡大の影響で来日できずにいるタイ人技能実習生・ベンツさんに、奈良県の受け入れ企業の社長が手紙を書きました。

ベンツさんは10月に来日予定でしたが、まだ渡航の見通しが立たない状態なのです。

社長は「少しでも不安な気持ちをぬぐえたら」と、日本語とタイ語で手紙をしたためました。

ベンツさんが10月から働く予定だったのは、奈良県橿原市にある「瀬川オート」。自動車修理や車検などを請け負う会社です。

代表取締役の瀬川英孝さんはBuzzFeed Newsに対し、ベンツくんの来日時期はまだ未定で、年明け以降になる見込みだと話します。

瀬川さんは、来日を心待ちにするベンツさんとその家族に、こう綴りました。

お久しぶりです。元気にしていますか?2月にタイに面接に行った時はコロナ感染者も少なくベンツ君に会うことができました。その後、感染拡大のため予定をしていた10月に日本に来ることが出来なくなって、とても残念に思っています。

チェンライの状況はどうですか?ご家族の皆様もお元気ですか?

1日も早く日本の生活や文化に慣れ、高い技術を習得できるよう指導しますので、ご安心ください。

タイに帰った時には、一人前の整備士として活躍できることを期待していてください。(一部抜粋)

手紙は、日本語とタイ語で書かれました。

タイ語の手紙は一文一文、Google翻訳で訳し、書き写したそうです。

「タイ語は文字も難しく、何回も間違って書き直しました。翻訳もあっているかどうかは分かりませんし、理解できるか心配ですが、気持ちが伝わればと思います」(瀬川さん)

瀬川オートで働く従業員の集合写真も添えられました。手紙は、日本からの贈り物と一緒に送る予定だそうです。

瀬川オートのTwitterアカウントに、「初めてすぎるタイ語に苦戦しましたが、彼と彼の家族に手紙を書きました」と手紙の写真をアップすると、予想もしていなかった様々な声が寄せられたのです。

《こんな丁寧な手紙を受け取ったら、きっと安心する。胸を打たれました》

《技能実習生については悲しくなる報道もときどき見ますが、心優しい会社もあることがうれしいです》

長男と同い年。息子がもう一人できたような思い

ベンツさんは現在、18歳。瀬川さんには、同い年の息子がいます。

瀬川さんは「息子がもう一人できたよう」とし、10代で親元を離れて、遠い日本で働くベンツさんを受け入れる覚悟を、こう語りました。

「見知らぬ日本の、見知らぬ奈良という土地に一人で来て仕事をするというのは、すごいことだと思います。これはただ単に人を採用するだけではなく、ベンツ君の人生も大きく左右してしまう。これは責任重大だと思い、気を引き締めています」

「わが子を日本へ送る親の気持ちを考えると、しっかりと技術を教え立派な整備士に育て上げないと申し訳ないという気持ちでいっぱいです」

瀬川さんは、もしベンツさんの家族と「逆の立場だったら…」と考えると、18歳の息子が言葉も通じない海外で自立して働くことは「なかなか考えられない」と話します。

だからこそ、「不安だろう」という思いで、手紙を書いたのだといいます。

採用を伝えた時の「目の輝き、忘れられない」

瀬川オートで、技能実習生を受け入れるのは初めてです。

最初は人手不足で一緒に働ける人を探し始めた瀬川さん。最近は、「整備士になりたがる日本人が少ない」といいます。

そのような時に、「タイの若者が日本にきて技術を身に付けて母国に帰ってタイの発展のためにがんばっている」と聞き、技能実習生を受け入れることを考え始めました。

新型コロナの感染拡大前にタイ・チェンライで実施した面接や採用を振り返り、瀬川さんはこう語ります。

「面接には40~50人が待っていて、3人ずつ面接をし、通訳の方を通じて、いろんな質問をしました。うちの会社に合うような笑顔の素敵なベンツ君を選びました」

「その通知を担当者が伝えて、自分の前に再度現れた時の目の輝きは忘れる事はできません。すごく喜んでいて、すぐにでも日本に行きたいという感じでした」

採用を伝えた際、「日本で何を食べたい?」と瀬川さんが聞くと、ベンツさんは「日本のラーメンが大好き。日本のいろんなラーメンを食べたい」と返答しました。

瀬川さんはその時のことを覚えていて、手紙にも「日本にも美味しいラーメン屋さんがたくさんあるので、一緒に行けることを楽しみにしています」と綴りました。

瀬川さんは、採用を伝えた時にも、タイ語でメッセージを渡しています。

「別れる際に時間があったので自分の名刺にタイ語で『スタッフ一同楽しみに待っています。安心して来てくださいね』と書いて渡しました。きちんと読めているか分かりませんが…」

「できる限り、精一杯のことをしてあげたい」

技能実習生制度をめぐっては、日本の受け入れ企業での暴力や暴言、給料や残業代の未払いなどを原因とする、実習生の失踪、自殺などの問題も起きています。

コロナ禍では、仕事を失い経済的に困窮したり、住む場所を失ったりした技能実習生も多くいて、帰国もできず、日本での滞在も困難を極めている状況もあります。

実習生の受け入れやサポートの体制など課題も多く残る中、瀬川さんは受け入れをする企業として「自分たちにできる限り、精一杯のことをしてあげたい」と話します。

「日本にいる期間は3年間ですが、1年でも半年でも早く仕事を覚えれるように、マニュアルを作成したりして準備を進めているところです。早く仕事を習得すれば、もっとたくさんのことを学べます」

「この日本での経験は彼の人生を変えてしまうかもしれない。もしかしたら日本で働いて刺激を受けて、タイに帰国した後、実業家になるかもしれません」

ベンツさんはタイで日本語を勉強していますが、面接で会った際には日常会話の基礎レベルだったといいます。

来日までも勉強を続け、それ以降も学びながら仕事も覚えていくことになります。

瀬川さんは「私たちも、ベンツ君と少しでも早くわあかち合えるように、言葉や文字を勉強していきたいと思います」と語ります。

現在は、マニュアルを作るほか、工具入れや道具の置き場所などの日本語に、タイ語を併記する準備などを進めています。

瀬川さんたちにとっても、外国人と働くことは初めてです。

ベンツさんと働くことに対し、こう語りました。

「生活も習慣も全く違うから、どうお互いが合わせていけるかということも大切かもしれません。言葉もあまり通じない中で、お互い初めてのことも多くあり、難しいこともあると思いますが、がんばっていきたいと思います」


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