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「死んだ鹿の胃袋からあまりに大量の…」悲劇を繰り返さないために何ができる?

奈良公園にいる鹿の胃の中にたまったプラスチックごみ。観光客が捨てたプラごみを食べて、死んでしまう鹿たちがいます。奈良の鹿愛護会の獣医師に話を聞きました。

奈良県の観光名所、奈良公園には、多くの鹿が生息しています。

公園近隣には住宅もあり、住民と「共存」する鹿たち。しかし、公園を訪れる観光客たちの心無い行動が、鹿たちに影響を及ぼしています。

「プラスチックごみ」を食べてしまい、健康被害を受けたり、命を落としたりする鹿たちがいること、知っていますか?

観光客が禁止されている食べ物を与えたり、プラごみをポイ捨てしたりすることが鹿に及ぼしている影響、そして、必要とされる対策とは。

BuzzFeed Newsは、一般財団法人「奈良の鹿愛護会」の丸子理恵獣医師、そして奈良公園内や付近でゴミ拾いをする地域のボランティアの男性に、話を聞きました。

解剖した鹿の胃の中から次々に出て来る「プラごみ」

2019年3月、鹿の胃の中から出てきた「ある物」をめぐるツイートが話題を呼びました。

突然ですが、これは何だと思いますか?これは死亡したシカの胃(第一胃)からでてきたビニール袋の塊です。重さは3.2キロもありました。 続きはスタッフブログ「奈良公園にゴミを捨てないで!」をご覧ください>> https://t.co/MlRLWbuiN5 #奈良の鹿愛護会 #donotlitter #naradeer

@nara_aigokai

投稿された写真は、死亡した鹿の胃の中から出てきた、重さ3.2キログラムの「ビニール袋の塊」です。

「ごみを捨てないで」ーー。観光客に対してはポスターや看板などで、そう呼び続けられていますが、現在も、死亡し解剖された鹿の胃の中からは大量のプラごみが次々と発見されています。

同会の保護施設「鹿苑」で日々、鹿の治療などにあたる獣医師の丸子さんは、2020年4月から11月までの期間に、原因不明で死亡した鹿5頭を解剖しました。

すると5頭中3頭の胃の中に、大量のプラごみが入っていたのです。

丸子獣医師は、「ポイ捨てされたりしたプラごみを鹿が食べてしまい、噛んで胃の中で縄のようになってしまう。そうするとそれを吐き出すことも、便にすることもできず、そのまま胃の中に残ってしまいます」と話します。

胃の中に溜まったプラごみ、どのような影響が

丸子さんが解剖した鹿のうち1頭の胃からは、3.2キログラムのプラごみが発見されました。

「胃の中にプラごみが詰まり、胃に蓋をしてしまっている状態でした。食べ物が流れない状態です。そこにガスが大量発生し、パンパンに溜まってしまいます。それが肺を圧迫して息が止まります」(丸子さん)

弱っている状態で発見されて保護施設に運ばれ、今年11月1日に死亡した他の高齢の鹿の胃からも、2.5キロのプラごみが見つかりました。

「治療したら一時は回復しましたが、翌日に亡くなりました。解剖したらプラごみが大量に出てきました。高齢で衰弱していましたが、それだけプラごみを食べていたことが衰弱に関係していたとみられます」

「鹿せんべい以外与えないで」「ポイ捨てしないで」

なぜ、鹿がプラごみを食べてしまう悲劇が終わらないのでしょうか。

それは、観光客がポイ捨てをやめなかったり、鹿せんべい以外の人が食べる食べ物などを鹿に与えてしまうからだといいます。

丸子さんはこう指摘します。

「鹿は草食で、餌として観光客が与えて良いのは鹿せんべいのみです。他は禁止されています。しかし残念なことに、人が食べるパンやお菓子などを与える人がいます」

「そのようなものを与えると、その匂いを覚え、同じような匂いがするお菓子の包装、それが入っていたレジ袋も、食べられるものだと勘違いしてしまうのです」

結果、鹿はポイ捨てされたプラごみを食べ物と間違って食べてしまうのです。

また、道にポイ捨てされている以外でも、買い物をした後にビニール袋を持って歩いていると、鹿がビニール袋の音などで「食べ物が入っているのではないか」と思い、取りにくることもあるといいます。

食べ物やお菓子の包装、ビニール袋…プラごみの数々

公園内の美化、そして鹿がプラごみを誤って食べてしまうのを防ぐために、奈良公園内や付近では、複数の市民の団体や個人が、ボランティアでごみ拾いをしています。

個人で定期的にごみ拾いをしているという男性は、BuzzFeed Newsに対し「本当にごみをポイ捨てしていく人が多い。拾っても拾っても、毎回袋いっぱいにごみが集まります」と話しました。

現在は、新型コロナウイルスの感染拡大で海外からの観光客が来なくなり、観光客数自体も減っています。それでも、道には多くのごみが捨てられていました。

この日、男性が奈良公園内や付近で拾ったごみには紙類や缶の他に、コンビニで購入したと思われる、おにぎりやお菓子のプラスチックの包装やトレイ、ポケットティッシュの外側の包装などがありました。

男性は「弁当のトレイや食後のごみをそのままビニール袋に入れ、ドライブ中に車の窓から捨てていったり、ベンチなどにポイ捨てしていったりする人もいる」と話しました。

それを鹿が食べてしまい、胃の中に溜まっていってしまうのです。

なかなか届かない、観光客への呼びかけ

奈良公園付近には、奈良県が「ゴミ等はお持ち帰りください」と4言語で記載された看板なども設置していますが、なかなかごみ問題はなくなりません。

県だけでなく、民間のグループもポスターを作成し、多言語表記することで海外からの観光客への呼びかけも積極的にしています。

獣医師の丸子さんも、観光客に呼びかけが届かないことについて、こう話します。

「まずこのような問題が起こっていると知ってほしい。日本だけでなく、海外メディアの取材などにも積極的に応じるようにしています」

バスターミナルで「プラごみの展示」も

少しでも観光客にこの問題を知ってもらおうと、鹿の胃の中から出て来た「プラスチックごみの展示」もされています。

実際に解剖して胃の中から出てきたビニール袋が、観光客が多く集まる奈良公園バスターミナルの建物内にパネルで展示されています。

奈良公園だけでなく、他の場所でも同じことが…

プラごみを食べて苦しみ、死に至った鹿をみてきた丸子さんは、「このような問題は奈良公園の問題だけではない」と指摘します。

「ここだけではなく、海などでも同じことが起きていますよね。人が作って、(海などに)不用意に捨てたものが、野生動物に影響を及ぼしています」

「このような問題をみんなが知っていかないと、鹿だけではなく、その他の魚などの動物への被害はなくなりません」

丸子さんは、こう話します。

「自分がごみをポイ捨てしないのは当たり前。そして、もし道にごみが落ちているのをみたら、一つでも拾ってほしいです」


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