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通行人は見て見ぬふり。日本で起きているヘイトのリアル、知っていますか?

外国にルーツを持つ大学生らが、差別に反対する団体を立ち上げました。

職場・学校での嫌がらせやいじめ、不動産での外国人お断り、路上での暴言・暴力ーー。

日本では、外国にルーツを持つ人々への差別が日常的に起こっているが、差別を取り締まる法律はなく、相談窓口も少ない。被害者が泣き寝入りをして、「なかったこと」になっているのが現状だ。

そのような差別を「なかったことにしないために」。外国にルーツを持つ当事者の若者たちが団体を立ち上げ、差別の実態を「見える化」する取り組みを始めようとしている。

団体を作った、学生メンバーに話を聞いた。

11月に出来たばかりの学生団体「Moving Beyond Hate」では、日本で起こっている、外国にルーツを持つ人々に対する差別の「声」を拾い、SNSなどを通して可視化することで、問題提起や対策へと繋げていくことを目指す。

代表を務める東京大学1年生の長谷川トミーさん(19)は、「日本では差別の実態が見えずに埋もれてしまっている状態だと思います。差別はおかしいことなんだと感じてもらえるように、発信をしていきたいです」と話す。

「当事者が、差別にNOと言える社会を作りたい」、そんな思いを持つ学生が集まった。メンバーは首都圏を中心とした複数の大学の学生や院生だ。

日本へ来て驚いた「差別の現状」

イギリス人の父親、日本人の母親を持つ長谷川さんは、7歳から高校卒業までイギリスで育った。

今夏、大学入学のために日本へ移住したが、そこで驚いたのは、外国にルーツをもつ人々への差別が、法律で禁止されず、学校や路上で起こっている現状だった。

来日した翌月、都内の路上で在日コリアンや中国人、移民に対するヘイトスピーチに遭遇した。イギリスに住んでいる時もネット上で見たことはあったという日本のヘイトスピーチ。

「ネットで見たときは、一部の人がやっていることだという感覚で見ていたんですが、本当に路上で目撃したときは衝撃を受けました」

「ヘイトスピーチだけでなく、日本での差別は、韓国や中国にルーツを持つ人に向けられることが多く、大学の友人でもそのようなルーツを持つ人がよく差別を経験しています」

また、政治家がSNSやブログで差別発言をしていることにも驚いたという。

日本では、ヘイトスピーチや反差別デモなどが行われる時は、差別に反対する人々が「カウンター」といって、差別をやめるようにと声をあげる。しかし通行人は知らぬ顔を通して通り過ぎることが多い。

「イギリスなら、極右の活動家が路上で差別発言をしたら、通りすがりの人も『ちょっと待て』『その発言はダメだ』と止めることが多いのですが、日本ではそのような第三者介入もあまりないように思います」

長谷川さんは「NOと言わないことは差別を見過ごしていることになります」と話す。学校や職場での差別発言なども、その場にいる人が注意し、止めることが大切だと指摘する。

高校生の時、突然、顔面を殴られた

同団体のメンバーには、海外からの留学生や、日本で生まれ育った様々な国のルーツを持つ学生もいる。

在日コリアンの父親と日本人の母親を持つ、大学院生の女性は、生まれ育った日本で自身が受けて来た差別の経験をふまえ、この団体に参加した。

女性は「マイノリティー自身が、差別にNOと言いやすい状況を作っていけないといけない」と話す。

女性は都内の公立小学校に通っていたが、苗字のことを同級生にからかわれたり、歴史の授業で韓国が出てくると笑われたりという経験をしてきた。

高校の時には、知人の男子生徒に顔面を殴られたこともあったという。女性は当時の状況をこう話す。

「本当に突然でした。ちょうど世間でもヘイトスピーチなどが問題になっている時期で。相手は殴ったときに笑っていたのを覚えています」

その当時は何が起きたかも分からず、何もできなかったという女性。しかし今は「差別に対し、おかしいことはおかしいと、きちんと言っていきたい」と話す。

海外ルーツ、ジェンダーの複合差別の問題も

女性は、海外にルーツを持つという他に、女性に対する差別、または障害、先住民族なども関連した「複合差別」の問題も指摘する。

「海外にルーツを持つ人も、属性の他に、女性であるということで二重に差別を受ける人もいます。そのような事実についても団体で発信していければと思います」

実際、各国でレイシズムとセクシズムの複合差別の研究が報告されており、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)でも「海外にルーツを持つ女性や少女は、差別や暴力の被害者になる傾向があり、対策が必要」との報告書を発表している。

現在、女性は大学院で、政治家によるヘイトスピーチについての研究をしている。女性は「海外では、差別問題だけでなく環境問題でも若者が中心となって声をあげている。日本で差別問題に取り組む学生団体は少ないですが、他団体とも連携して一つの大きな力になればと思います」と話した。

「ハーフ」という言葉。「半分」ではなく「2倍」

団体のメンバーには、両親が違う国の出身の学生も多い。日本では「ハーフ」という言葉が使われることが多いが、英語では「半分」という意味を持つその名称を、避ける動きも出ている。

団体でも、両親の両方の国のルーツを持つという意味を込め「ダブル」という言葉を使う。

長谷川さんもイギリスに住んでいたころは、日本にルーツがある生徒が通う補習校で、「ハーフ」という呼び名を使ったり、呼ばれたりしていた。

「日本語ではハーフという呼び方が一般的なので、仕方ないと思い使っていました。本当は英語では、Half Japanese, Half Britishというように使いますが、日本語では『ハーフ』だけが残ってしまって定着したんですね」

しかしある日、長谷川さんは父親に「君は『ハーフ』で『半分』ではなく、『ダブル』で『2倍』の可能性と文化を持っているんだ」と言われ、「ハーフ」という言葉を避けるようになった。

「半分ではなく、2つの国のルーツを持っているから2倍。父がそう言ってくれたことでそのように考えられるようになりました」

「ハーフって言わないと分かってもらえない時はハーフという言葉を使いますが、通常はダブルという言葉を使うようにしています」

日本ではメディアでも「ハーフ風モテメイク」「ハーフの◯◯さん」などの表現も今だに残っている。長谷川さんは「ハーフ」という言葉の意味、使い方に疑問を投げかける。

「五輪前に今一度、国内の差別について考えて」

代表の長谷川さんは、このタイミングで学生団体を始めた理由を「やはりオリンピックを開催するというタイミングがあった。外国人も多く来日するオリンピックを前に、今一度、差別について考えるべきです」と話す。

SNSなどでの発信は、日本語だけでなく、海外のユーザーを視野に入れて英語で投稿していく。

「私が育ったイギリスではボリス首相、アメリカではトランプ大統領などが差別的発言をしており、世界で差別問題は起こっています。日本での問題も海外と共有し、解決に向けてまずは現状を知ってもらえればと思います」

差別取り締まる法律ない現実

日本では、差別を取り締まる法がない。2016年に成立した「ヘイトスピーチ対策法」があるものの、理念法であるために罰則規定はないのだ。

現在、神奈川県川崎市が、ヘイトスピーチを繰り返した人物に刑事罰を科す条例案の年内成立を目指している。条例案では、ヘイトスピーチを繰り返した人物に対して50万円以下の罰金を科す刑事罰を定めている。差別に刑罰を科すのは、国内では初めてとなる。

オリンピック開催の他にも、現在日本に住む外国人の数は過去最高になっており、最新の統計では、約263万人が在留している。

報道では、技能実習生への暴言・暴力、自殺なども問題となる中、長谷川さんは「被害に遭っていても、声をあげられない人もいる。声をあげられる人が代わりにあげていきたい」と話した。