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「LGBTの方は入居お断り」同意書にあった一文。その部屋の契約をやめた当事者が動画で伝えたこと

沖縄在住のタスクさん。アパートの契約時、同意書には「LGBTの方は原則お断りしています」の一文が。「性自認、性的指向などで他者を判断せず、一人の人として見てほしい」と語ります。

「理想の物件で『やっと見つかった!物件探しはもう終わり。ここに住むぞ』と思いました。担当の方から同意書を受け取り内容に目を通しました。その同意書には『LGBTの方は原則お断り』との内容が記載されていました」ーー。

沖縄県に住むタスクさんが2020年12月、新しい部屋を探すなかで経験したことを7分弱の動画にまとめてInstagramにアップした内容が、反響を呼んでいる。

不動産会社に渡された同意書を見て、タスクさんは入居しようと思っていた物件の契約を止めた。「LGBT」「外国人」「精神疾患のある方」などの入居を断る、差別としか考えられない内容だったからだ。

タスクさんは沖縄から日々、ブログやTikTok、Instagramで発信をしている。部屋探しでの経験に関してInstagramに載せた動画は47万回以上再生された。

動画を見た人から「こんな事実があることに衝撃を受けた」「私たちの世代から偏見や差別をなくしていきたい」など、国内外から400以上のコメントも寄せられた。

同性カップルで同居しているというユーザーからは「引っ越しの時に同じような経験をしました」という声もあった。

タスクさんはBuzzFeed Newsに対し、「本当に衝撃を受けています」「まずは、こんなことが現実に起こっていると知ってほしい」と話す。

「混乱し、怒りがこみ上げてきた」

タスクさんは半年ほどアパートを探していた。なかなか良い物件が見つからず、やっと理想的な物件にめぐり合ったという。

実際にそのアパートの内覧をした時に、入居を心に決めた。

しかし、不動産会社の担当者から契約に向けて受け取った同意書には、LGBTの方は原則お断りだと書かれていた。

その一文を見て「混乱し、怒りがこみ上げてきた」(タスクさん)。担当者に理由を聞くと、こう返事があったという。

「このアパートに住んでいる方々のことを考え、そうしています。男同士で手を繋いでアパートの周りを歩いていたりすると、住人が怖がってしまうかもしれません」

担当者の説明に「驚き、何も言葉が出なかった」という。

同意書には、入居を希望する場合には署名する欄があり、「入居後に下記事項に反する事実が判明した場合は解約解除となりますのでご了承ください」とも記載されていた。

「買い物は投票」「支持したくない」契約せずに帰宅

「大学生の頃に家族や友人にもカミングアウトした」と話すタスクさんは、同意書が自己申告制であっても同意書にサインせず、帰宅した。

「LGBTの当事者であることを伝えなければ、収入などの審査が通れば入居の契約はできます。でもそれは、本当の自分を隠すことになると思ったんです」

「カミングアウトして、自分に正直に生きてきた自分を誇らしく思うし、自分を大切にして生きたいため、入居の手続きはしませんでした。買い物は『投票』です。お金を払うということで、その会社をサポート(支持)することになります。このような会社には、お金を払いたくないと思いました」

タスクさんは「一人でも多くの人に知ってほしい」と動画では英語で話し、日本語の字幕をつけている。

動画を作るにあたり、「怒りや批判だけでは何も変わらない。まずは事実を知ってほしい」という思いから、起こったことは述べつつも、ポジティブな内容にするよう心がけたという。

条件に「外国人」「精神疾患のある方」「タトゥーの入った方」お断り

この不動産会社の同意書には、「LGBTの方は原則お断りしています」のほか、「外国人の方」「精神疾患や健康上に問題のある方」「刺青やタトゥーの入った方」などに対しても「原則お断りしています」との但し書きがある。

タスクさんが入居を検討していた物件は、外国人も多く住む地域にあった。

タスクさんは「宗教や肌の色、国籍、性自認、性的指向などで他者を判断するのではなく、一人の人として見てほしい」とし、こう話す。

「私は沖縄で生まれ育ちましたが、多様性にあふれていて本当に良い場所です。カミングアウトしてからも、これまで差別を受けたことありませんでした。色んな人を歓迎する土地であってほしいです」

「私は自分のことを男性とも女性だとも思っていません。そんなわたしは、『誰でもトイレ』のように、どんな人でもウェルカムな(歓迎されている)場所があるというだけで安心感を得られます。このように、不動産も、みんなを温かく受け入れるような環境になってほしいと思います」

LGBTの入居希望者「入居してほしくない」オーナー20%超

実は、「LGBTだから」とジェンダーやセクシュアリティを理由に、部屋探しの際に契約を断られるケースは、タスクさんだけではない。

リクルート住まいカンパニーが2018年、LGBTを自認している全国の20〜59歳を対象に実施した調査(有効回答362人)によると、セクシュアリティが原因で差別・偏見、困難を経験した人が「賃貸住宅探し」で28.7%、「住宅購入」で31.1%いた。

また、2018年に同社が実施した「不動産オーナーのLGBTに対する意識調査」でも、LGBTの人々に対する差別意識や入居拒否の実態などが浮き彫りになった。

この調査では、30〜69歳の全国の不動産オーナー(有効回答1024人)を対象に、LGBTの入居希望者への対応などを聞いている。

実際に「支払能力などに問題がなかったが、その属性・特徴などを理由に入居を拒否した」として、男性同士の同性カップルの入居を過去に断った経験がある回答者が8.3%おり、女性同士のカップルでは5.7%だった。

今後のLGBTの入居希望者への対応意向を聞いた質問へも、「入居してほしくない」と答えた回答者は、どの項目でも20%を超えた。(男性同士のカップル入居希望者で27.4%、女性同士のカップルで25.9%、トランスジェンダーで20.3%、同性愛者男性の単身入居で22.8%、同性愛者女性で20.4%)

「特に気にせず入居を許可する」と答えたオーナーは、同性愛者単身・同性カップル・トランスジェンダー全ての項目で50%未満だった。

LGBTへの差別禁止の法律が「必要」

政策や法制度を中心としたLGBTに関する情報発信などの活動をする一般社団法人「fair」代表の松岡宗嗣さんは取材に対し、早急な法整備と周知の徹底の必要性を強調した。

松岡さん自身も、現在同居している同性パートナーと部屋探しをした際、入居を検討していた物件の管理会社に何件も断られた経験がある。こうした差別は、珍しくないのが実情だという。

まず「LGBTだから」という理由で住宅への契約を断ることは「合理的な理由が見当たらず、偏見や差別の意識が根底にある」と指摘した。

その上で、ジェンダーやセクシュアリティなどを理由に不動産の契約を断るような「差別を禁止する法律」が必要だと話す。

「性的指向や性自認を理由とした差別をしてはいけないというルールが日本には今ないので、まずは法律が必要です。法律があればオーナーに(差別をしてはいけないと)周知する根拠にもなりますし、具体的にそのような差別が起きたときも、例えば民事訴訟の根拠にすることもできます」

現在、日本では性的マイノリティに対する差別を禁止する「LGBT平等法」の制定を求める国際署名キャンペーン「Equality Act Japan」が立ち上がっている。

1万筆以上が集まり、制定を望む声が高まっているこの法律では、学校や職場や様々な生活の場面で、性的指向・性自認を理由とした差別的な取り扱いを禁止することを求める。

また、そのような差別を未然に防止するための研修、相談窓口の設置や支援体制の整備などを柱にしている。

松岡さんは「法律で差別禁止を明記し、LGBTもそうでない人も平等に扱うための土台を作った上で、実態としても差別禁止を徹底していく必要があります」と話した。

東京都の「人権尊重条例」などのような、自治体の条例なども重要だが、法律や条例があるだけでは現場での差別はなくならない。法整備をした上で「実際に運用面で変わっていくように、不動産会社や大家に対しても周知・啓発を進めていく必要があります」と語った。


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