安倍晋三元首相が奈良市で演説中に銃撃され、死去した衝撃の事件から1日。
奈良県警の鬼塚友章本部長が記者会見で警備状況に問題があったと認め、警察庁などが警備体制の強化を指示するなか、参院選の演説警備は、どうなったのか。
東京・JR有楽町駅前で7月9日夜に行われた、参院選での自民党幹部による都内最後の街頭演説を取材した。
有楽町駅前の広場は、警視庁の警察官とSPらが数メートルおきにスタンバイ。警備陣には緊張が走り、これまでの街頭演説とは異なる雰囲気が生まれていた。

演説は黙祷で開始。「残念でならない」安倍氏への追悼の言葉続く
演説は、安倍氏への黙祷で始まった。
応援演説に駆けつけた議員らも、次々と安倍氏への追悼の言葉を述べた。
元警察庁のキャリア官僚で岡山県警本部長なども歴任した平沢勝栄衆院議員は、警察官らに、こう呼びかけた。
「こんなことが二度と起こらないように、警察の人には、しっかりと警備をお願いしたい。我々は警察に頼るしかないんです」
「安全な国、安心な国をつくることが安倍氏の思いでした。それが私たちの思いでもあります」

安倍氏の側近だった萩生田光一経産相は「かけがえのない私たちのリーダー安倍晋三氏を失うことになりました」とし、こう語った。
「政治は暴力で変えることができません。言論の場所です」
「決してこんな暴力には負けません」
聴衆からは「そうだ!!」との声と拍手が巻き起こった。
近隣商業施設の一部も閉鎖。「背後」の警備固める

安倍氏は7月8日、奈良市の近鉄大和西大寺駅前で応援演説中、背後から歩み寄ってきた男に銃撃を受け、死去した。
この状況を鑑みてか、有楽町での演説では、選挙カーの背後に位置する東京交通会館の一部は閉鎖され、1階、2階部分ともに警察官らが厳重な警備にあたった。

有楽町で敷かれた「見せる警備」体制
有楽町周辺は、買い物や飲食、映画鑑賞などで多くの人々で賑わう街だ。通りがかるのは演説を聴きに来る人だけではない。
それでも、これまでの演説とはレベルが違う警備が敷かれていた。
警察の警護警備体制には、主に私服の警察官を配備し、囲まれていることを聴衆に感じさせない「見せない警備」と、制服警官やSPを数多く配置し、厳しい警備状況を採っていることが分かるようにする「見せる警備」がある。
安倍氏の事件前までは、有権者との距離の近さを訴えることを目指し、厳しい警備体制を見せることに拒否感を示す政治家も珍しくなかった。
一方でこの日の有楽町での警備体制は、明らかに「見せる警備」だった。
選挙カーの背後はコーンで囲われ近づけない状態で、大勢のSPらが目を光らせていた。閣僚や党幹部が来ているとは言え、普段と比べれば異例ともいえる体制だ。

厳重警備も、最後は「グータッチ」と「写真撮影」
候補者らは選挙運動ができる午後8時ぎりぎりまで、必死に聴衆に訴えかけた。
厳重な警備が敷かれた一方で、街頭演説会の終わり頃には、警備強化の必要性と同時に、支持者とは接近を図る必要があるというジレンマを垣間見る一幕もあった。
日本の選挙運動では伝統的に、支持者との「握手」が重視されてきた。親密さと距離感の近さを演出できるからだ。それがコロナ禍では接触を最低限に抑えるために「グータッチ」に代わった。
安倍氏の銃撃事件の翌日でも、候補者らはグータッチに動いた。警察も、それを止めて選挙活動の妨げになる訳にもいかない。
おそらくは裏で現場指揮官が警備要員に矢継ぎ早に指示を出すなか、有権者との「ふれあい」が続いた。
