

企業が女性のみに対して、足を痛める可能性の高いヒールやパンプスの着用を義務付けることをめぐり、石川さんは「これは女性差別であり、パワハラです」と指摘する。
厚労省に要望書を提出した後、省内で開いた会見で石川さんは、こう語った。
「パワハラの指針案に、服装についての言及がないまま、年明けに正式に発表されてしまうのは納得がいかないと思い、改めて要望書を出しました」
「企業からヒールやパンプスを指定され、足が痛めながら働いている女性がいる。労働者のことを思うならば、パワハラ指針案に入れるべきではないでしょうか。指針に盛り込まれれば、企業としても、『これはしてはいけないこと』というのが明確にわかります」

この運動の発端も、石川さんが働いていた葬儀業者に、業務中の服装規定としてヒールの高さに規定があり、石川さんも足を痛めながら仕事をしていたという経験だった。
石川さんは1月、仕事中にヒールで足を痛めたという経験と共に「いつか女性が仕事でヒールやパンプスを履かなきゃいけないという風習をなくしたい」とツイート。すると賛同の声が多く集まった。
2月に始めたオンライン署名も反響を呼んで、6月には集まった1万8千筆の署名を厚労省に提出。現在は、署名は3万1617筆に上っている。
「#KuToo」は、#MeTooのハッシュタグをまね、ヒール着用を強要され「苦痛」という思いと「靴」を掛け合わせてできた言葉。ハッシュタグとしてTwitterで使われてきた。

会見には、石川さんの他に、職場でのヒール着用指示を経験したことのある女性も参加、それぞれの経験を語った。
先月まで外資系金融機関に勤務していた女性(52)は、これまで勤めた複数の職場で、ヒールやパンプスの着用を義務付けられてきた。
ある会社では、「女性はスカート、ヒールは3cm以上」などと決められており、勤務時間の他にも片道1時間半の通勤で、辛い思いをしたという。女性は語る。
「ある日、足の裏に激痛が走り歩けなくなって病院にいきました。すると、足の真ん中にたこができ、神経を圧迫して足に激痛が走っていたのです。その後、ヒールのない靴を履いても同じような症状が出るようになりました」

石川さんは「実際にヒールが痛くて仕事を辞めた人や、辞めた後も足の痛みに苦しんでいる人がいます」と話す。
大学生が就職活動をする際にも、黒いリクルートスーツに、ヒールがある黒い革製のパンプスを着用することが多い。
実際に、人材業界の就活マナーのウェブサイトや、大学の就職課でも、ヒールのあるパンプス着用をマナーとして推奨していることから、「無理をしてヒールを履かなくていい」ということを、人材業界や教育機関で発信してほしいと呼びかけた。

靴だけでない、女性に課せられる化粧やメガネの規定
職場で女性に求められている服装・外見の規定は、靴だけではない。
ヒールやパンプスと共に、スカートの場合はストッキング着用も規定されたり、メガネを禁止してコンタクトレンズを着用することや、化粧をすることが求められる職場も少なくないのだ。
会見では、アルバイト先で化粧を強制された名倉マミさん(41)が自身の経験を話した。
名倉さんはうどん屋でアルバイトをしていた際、「女性従業員はノーメイク禁止」だと言われたという。化粧をしたくない旨を伝えると、上司には「じゃあここでは働けないってことですね」と言われた。
車の中に連れ込まれ、上司に「自分の周りの女性は、肌が弱い人でも、肌をボロボロにしてまでちゃんと化粧している」と怒鳴られたこともあったという。
ホテル勤務時代に、パンプス着用を勤務先に指示された経験がある山田亜希子さん(46)は、こう指摘する。
「これまでも、女性には選挙権がなかったり、定年の年齢が違ったりしたけど、その度に女性たちが運動を起こして変化を起こしてきた」
今回の靴・服装規定などに関しても、「法律に入ったりして、変わっていくまで、働きかけを続けていきたいと思います」と話した。