職場で女性スタッフがパンプス・ヒールを履くことを指示されることについて、#KuTooのハッシュタグで反対を表明する動きが広まっている。署名活動は2日現在までに、3万筆に上っている。
日本で女性の比率が高い職場の代表格は、航空会社の客室乗務員や地上職だ。
BuzzFeed Newsのこれまでの取材では地上職や客室乗務員の女性から「立ち仕事なのにヒールのあるパンプスで足が痛い」などと改善を求める声が出た。
そこで、BuzzFeed Newsは主要な航空会社6社に、客室乗務員など女性スタッフに対する靴の規定の有無や、その理由を問い合わせた。
6社はいずれも「身だしなみ」や「統一美」などを理由に、女性スタッフへのパンプス着用を求めている、と回答した。

以下の6社の広報担当部署にメールで質問を送り、回答を得た。
・日本航空(以下、JAL)
・全日本空輸(同、ANA)
・Peach Aviation(同、ピーチ)
・AIRDO(同、エアドゥ)
・ジェットスター・ジャパン(同、ジェットスター)
・スカイマーク
【質問】客室乗務員・地上職など女性スタッフへのパンプス・ハイヒールの指定をしていますか?
6社全社が「指示している」と回答した。以下が各社の規定の内容だ。
JAL:客室乗務員はヒールの高さを3〜4cm、色は黒。グランドスタッフはヒールの高さを3〜6cm、色は黒と制服規定、STYLE BOOKにて定めている。
ANA:無地の黒色でヒールの高さ・幅は3〜5cmと身だしなみに関わるガイドラインで定めている。
ピーチ:ヒールは高さ3〜5cm(横幅1.5cm以上)グレーもしくは黒の革(ヒールと靴が同一)と定めている。
エアドゥ:制服アイテムの一部として貸与し、貸与品は黒のパンプス、ヒール高さは、航空旅客スタッフは4cmか5cm(本人選択可)、客室乗務員は3.5cmのもの、ヒール幅は3cm程度のもの。
ジェットスター:ジェットスターグループ共通の規定に沿ってガイドラインを定めている。ヒールの高さが4〜6cm、ヒールの接地面の幅は2〜4cm。フライト中はヒールの高さが2cm程度の靴の着用も可としている。
スカイマーク:高さ4cm未満(幅3cm)、黒、プレーンパンプスと指示している。
【質問】地上職は立ち仕事で空港内を走ることもあり、客室乗務員は保安要員でもあります。ヒールがない靴に比べて不安定であるヒール・パンプスを指定される理由を教えてください。
JAL:JALグループ全体で統一美を損なうことのないよう制服着用基準を定めています。当社が定める制服の着用基準を見たすことで、統一美・清潔感で以ってお客さまに接することがサービス・おもてなしの一環と考えており、靴も制服の一部であると認識しています。
ANA:ANAグループ全体で統一されたANAブランドを効果的にアピールし、一体感を高めることを目的とし、制服の着用基準を定めております。靴もデザインの一部であると認識しております。
ピーチ:Peachのブランドを表現するひとつの手段として、制服の着用を定めています。靴も制服の一部であるとし、規定を設けております。
エアドゥ:制服アイテムの一部として、安全性または機能性などを社内で十分検討・確認したうえで貸与しています。
ジェットスター:お客様を地上・機上でお迎えしサービスを提供するにあたり、制服にマッチする靴の着用は身だしなみを整え、安心してジェットスターグループをご利用いただけることにつながると考えております。
スカイマーク:ヒール幅3cmと安定している。ヒールが高すぎるのは機内作業に不向きであるが、ある程度の高さは、制服としての正装にふさわしい。
動きやすい靴へ変更の動きも
新たな動きも出ている。
2020年の就航を目指すJAL傘下のLCC「ZIPAIR Tokyo(ジップエア・トーキョー)」は4月11日、新しい制服を発表した。
動きやすさや安全性を重視し、客室乗務員や地上職員、操縦士のいずれもスニーカーを着用することになったことが、SNSなどで話題となった。

ジップエアの広報担当者は、BuzzFeed Newsの取材に対し、その理由を、こう述べた。
「自分らしく仕事のパフォーマンスが最大化されるような工夫を盛り込んだ結果として、耐久性に優れ、動きやすく、疲労を軽減させる効果を見込んでスニーカーを採用しました」
航空6社に対し、ZIPAIRのスニーカー導入や#KuTooの動きについても聞いた。
【質問】ZIPAIR Tokyoでのスニーカー導入やKuTooなどの動きを受けて、今後靴の規定を変えられるご予定、ご検討はされていますでしょうか。
JAL:社会からの要請や職場の声を踏まえ、制服改定時に関わらず、常に様々な検討を行なっています。
ANA:社会からの要請や従業員のニーズ等も踏まえながら、今後、見直すべきか含めて検討していきたい。
ピーチ:社会や従業員からの意見を参考にしながら、今後、柔軟に判断していきたい。
エアドゥ:現在のところ、特に靴に関する規定変更の予定はございませんが、これまでも貸与品が合わない場合は、個別に手配したパンプスを使用してもらうなど柔軟な対応を継続しております。
ジェットスター:より良い職場環境実現のために、今後様々な選択肢を検討してまいります。
スカイマーク:検討の予定はございません。

緊急事態発生時にヒール着用は適切か
国土交通省は緊急事態発生時に非常脱出をする際、「ハイヒールを脱いで脱出」するように呼びかけている。理由は飛行機から緊急時に出される、滑り台のような脱出シュートにヒール部分で穴が開いたりする可能性があるからという。
非常時に保安要員として旅客の脱出案内や安全確保を行う客室乗務員がヒールを着用することについて各航空会社に意見を求めたところ「非常時に脱ぐことを求められるのはハイヒールであり、脱出に影響のない靴を指定している」「保安上問題がないものを指定している」との解答だった。
では、「ハイヒール」というのは、どういう靴のことなのだろうか。
日本靴連盟(東京都千代田区)と全日本革靴工業協同組合連合会(東京都台東区)はいずれも、「かかとのヒール部分が7cm以上の婦人靴」をハイヒールと定義している。ヒールとパンプスの関係は、以下の通りだ。
ヒール:靴のかかと部分を指し、かかと部分があるパンプスをそう呼ぶことも。
パンプス:靴の種類。ヒールの高さに関わらず、一般的に足の甲の部分が空いていて、基本的にストラップなどがついていない婦人靴。
航空各社は、自社のスタッフに指定する靴のヒールの高さが7cm未満ということもあり、緊急時にも「問題はない」と判断しているとみられる。

国土交通省「議論になったことはあった」
国土交通省航空局の航空事業安全室に話を聞いた。
担当者によると、客室乗務員がヒールのある靴で業務にあたったり、非常時に対応したりすることについては、これまでも省内で議論されたことがあったという。
担当者は「客室乗務員の安全も大切ですが、あくまで旅客の安全確保が優先ですので、旅客にはハイヒールを脱いで脱出することを周知するようにと各航空会社には伝えております」と話した。
ヒールがある靴での緊急時の対応は「適切でない」という声があることについては「ご指摘の点はその通りだと思います」とした上で、「サービス要因と保安要因という2つの側面で適切に対応するように、各航空会社様にご判断して頂きたい」とした。
「パンプスとスカートで非常時、的確に動けるのか」
大手日系航空会社で客室乗務員をしていた20代女性は、非常事態発生時の訓練を受けたときは「つなぎの作業服にスニーカーという動きやすい服装だった」と振り返り、BuzzFeed Newsにこう話す。
「もし実際に非常事態が発生すれば、制服のスカートにパンプスで的確に動けるのかな、と安全性の面で疑問に思っていました」

女性はまた、長時間フライトでパンプスを履いて勤務すると、足がむくみ辛かったと言う。
「ニューヨークまでのフライトは13時間に及びます。 フライト中の休憩時間にパンプスを脱ぐと、足がパンパンにむくんでいるので、休憩が終わっても靴に足が入らず、無理やり履いて仕事に戻っていました」
同僚には、外反母趾に苦しむ人もいた。その人も規定に従いパンプスを着用していたが、普通に売っているパンプスが履けないため、オーダーメイドしていたという。
以前、BuzzFeed Newsの取材に「空港でチェックインカウンターから搭乗口まで一日中走り回って1日10キロをヒールで歩き、足や背中が痛んだ」と話していた元地上職の20代女性は、航空各社の回答について、こう話す。
「航空会社は安全第一ですが、社員の安全や健康も考えて、最も働きやすい環境になるようにできていますか、と尋ねたいです」
94%が客室乗務員のヒール「必要かつ相当でない」

根本匠・厚生労働大臣は6月5日、衆院厚労委員会の質疑で、女性にヒールを履くよう義務付ける職場があることについて問われ「社会通念に照らして業務上必要かつ相当な範囲」と述べ、容認する考えを示していた。
BuzzFeed Newsは「女性にヒールを履くことを強制することが『社会通念に照らして業務上必要かつ相当な範囲』な職業は何か」、それぞれに投票できる記事を出した。
客室乗務員(キャビンアテンダント)に関しては、回答者の94%が「ヒールの強制は必要かつ相当な範囲でない」と答えていた。
職場でのヒール強制に反対する署名を始めた石川優実さんはBuzzFeed Newsの取材に対し、「パンプスの形はそもそも、ヒールが低い高いに関係なく安定していないので立ち仕事にはきついです。ヒールを強制することによる労働者の健康について、企業には今一度考え直してほしいです」と話した。
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