名古屋入管に収容され、3月に死亡したスリランカ人女性、ウィシュマ・サンダマリさん(33)の遺族が9月21日、死因究明などの目的を果たせないまま、スリランカに帰国することを明らかにした。
ウィシュマさんの妹・ワヨミさんらは、5月に名古屋市内で執り行われた葬儀に合わせて来日。死亡の真相解明を目指し、入管に働きかけ続けてきた。
出入国在留管理庁は8月に最終報告書を発表したが、死因などは明らかになっておらず、ワヨミさんにとっても精神的負担が大きく、日本に居続けることが難しくなったという。
帰国を前に開いた会見でワヨミさんは、「姉にあったようなことが今後、誰にも起きないような入管の制度を作ってほしい」と訴えかけた。

「真実を解明するまでは、あきらめない」
ワヨミさんは会見で「あきらめて帰国するわけではない」とした上で、このように心情を語った。
「入管のひどい対応で、精神的に非常に疲れています。これまでの入管側の対応は不誠実なことばかりだったと感じます。入管は、姉の死の責任逃れをしているようで怒りを感じます」
「真実を解明するまでは、絶対にあきらめません。できることは全力をあげてやっていきますし、これからも来日する必要があれば来日します」

遺族は入管に対し、ウィシュマさんが死亡直前まで収容されていた部屋の監視カメラ映像の公開を求め続けてきた。
入管は当初、保安上の問題などを理由に開示しない方針だったが、一転して8月、2週間分の映像を2時間に編集した短縮版のみを、遺族に限って公開した。
遺族は法務省で映像を視聴したが、その内容に衝撃を受けて体調を崩し、途中で中断した。
遺族は映像視聴後、「人間の扱いではありませんでした」「姉を助けることができたのに。映像で姉は犬のような扱い方をされていました」と報道陣に語っていた。
「助けて」と繰り返す姉。繰り返し思い出すビデオの映像
帰国前の会見でワヨミさんは、こう語った。
「ビデオを見た時の気持ちは、言葉では答えられないくらい苦しいもの。ビデオの内容を毎日、繰り返し思い出してしまいます」
「冷たい床に放置されて、姉は23回も『助けて』と言っているのに、それを職員がバカにしている様子などを思い出します」
遺族によると、映像では、ウィシュマさんが死亡8日前にベッドから落下する様子が映っていた。その時点でウィシュマさんは衰弱して自力で起き上がれず、部屋にあったインターホンで入管施設職員に繰り返し助けを求めていた。
職員は手を引っ張るなどしたがウィシュマさんをベッドに戻さず、2月末の冷たい床にそのままにされたという。
遺族は映像視聴後に精神的ショックから嘔吐するなどし、その後も映像のフラッシュバックや不眠などに苦しんでいた。
今回、ワヨミさんの精神面への影響と、一緒に来日していた夫の仕事の都合などを理由に帰国を決めた。

残りの映像の確認のため、遺族と弁護士は9月10日、法務省を再び訪れたが、弁護士立ち会いのもとでの映像確認が認められなかったため、遺族は映像を視聴しなかった。
ワヨミさんは「弁護士なしでビデオを見ることには精神的な負担があった」「自分たちは日本の法律も知りませんし、弁護士の先生たちが一緒に見てくれないとわからない部分もある」としている。
入管は2時間の短縮版を遺族のみの公開としているが、引き続き、2週間分の映像公開を求めていくという。
映像公開と再発防止に関しては、オンライン署名で7万8千筆が集まっている。
ワヨミさんは「映像が公開されれば、入管の制度の改善にもつながる」と指摘。支援者らに対して「今回、姉の真相を解明するために闘ってくれたように、今後も(改善のため)闘い続けてください」と呼びかけた。
弁護士によると、入管は遺族が帰国するまでに調査報告書のシンハラ語(スリランカの公用語)訳を渡すとしていたが、9月21日時点で渡されておらず、いつ渡すかという予定も言い渡されていない。
帰国後、ワヨミさんはスリランカで報告を待つ母親に監視カメラ映像でみた内容などを説明する。
もう一人の妹のポールニマさんは、引き続き日本に残り、映像公開や真相究明について入管に働きかけていく予定だ。