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「年間3千人近くの命が失われている現状、看過できない」HPVワクチンの積極的勧奨の再開、厚労相らに申し入れ

HPVワクチンの積極的勧奨の再開を求め、厚生労働大臣に要望書が提出されました。積極的接種勧奨の再開を求めるオンライン署名、5万5千筆も手渡されました。

子宮頸がんや肛門がんの原因となるHPV(ヒトパピローマウイルス)への感染を防ぐ「HPVワクチン」の積極的接種勧奨再開を求め、8月30日、田村厚生労働大臣と加藤内閣官房長官に要望書が提出された。

要望書を提出したのは、自民党の「HPVワクチンの積極的勧奨再開を目指す議員連盟」(会長=細田博之・衆議院議員)。

申し入れでは、医師らが中心となって集めた、積極的接種勧奨の再開を求めるオンライン署名、5万5千筆も共に提出された。

議連事務局長の自見はなこ・参議院議員は申し入れ後、報道陣に対し「田村大臣からは、大変前向きなご発言と思いを共有して頂いた」「現在までに積み重なったエビデンスがありますので、その議論を再開するという重要性は十分に認識されておられる」と話した。

積極的接種勧奨の再開の時期については、以下のように語った。

「議連としては、やはり高校1年生の女の子たちが(HPVワクチンを)打ち終わろうとすれば、10月までに(1回目を)打たないといけないということから、ぜひとも10月までにはメッセージを出して再開してほしいということは強く申し上げておりますし、(大臣も)ご認識はされております」

「その上で、加藤官房長官は『厚労大臣マターだ』ということであります。田村大臣としてもその問題認識を共有した上で、いくつかの手順の問題もあるので、物理的にそれをはめこんでいった時に、どれくらいの時間がかかるかといえば、なかなか10月という時期を明言することは難しい状況。とはいえ、自分の言葉できちんと明日、閣議後記者会見でお話ししたいということでした」

菅首相と加藤内閣官房長官、田村厚生労働大臣に宛てられた要望書では「年間1万人以上の女性が子宮頸がんに罹患し、3000人近くの命が失われている現状は看過できず、1日も早いHPVワクチンの積極的接種勧奨再開が望まれる」と指摘。

以下の5項目を求めた。

1・HPVワクチンの積極的勧奨を10月より前に再開することとし、それにあたり必要な措置を速やかに講じること

2・9価ワクチンを速やかに定期接種に加えること

3・積極的勧奨差し控えによる情報不足のため定期接種の機会を失い、任意接種を希望する者についても、定期接種と同様に費用負担なく受けられる措置を講ずること

4・ワクチンの予防効果とワクチン接種後の有害事象に関する医学的に正確な情報提供に努めると共に、ワクチン接種後の有害事象に対しては、自治体と連携しつつ適切な相談・診療体制の構築など不安に寄り添った丁寧な対応ができるようにすること

5・HPV 感染症は性感染症であるため、性教育については、医療の専門人材の活用も視野に入れた上で、妊娠や出産や避妊について必要な知識を年齢に応じた適切な形で行うことについて厚生労働省と文部科学省が連携して十分な検討を総合的に行うこと

議連会長の細田議員は報道陣に対し、積極的接種勧奨再開についてこう述べた。

「HPVワクチンは外国の会社が製造していますが、全然打たないから廃棄処分になってどんどん無駄になる。日本向けに製造するのを考え直しますというところまで行っています」

「日本としては厚労大臣が中心となって、しっかり(HPVワクチンを)打たないと、若い女性たちの命に関わる、あるいは出産に関わる、人口問題にも関係するんだという深刻な現状認識を持って、このワクチンの接種を開始してほしい」

田村厚労相は8月27日の閣議後記者会見で、記者から積極的勧奨再開の議論のスケジュールを問われ、以下のように答えた

「HPVワクチンは私が前回の大臣の時にマスコミの報道等でもいろいろございまして、積極勧奨(をどうするか)を審議会に諮りましたら、いったん積極勧奨を止めるということで、今に至っております」

「一方で、世界的に見てもHPVワクチンというのは広くうたれ、我々、WHOからもHPVワクチンを積極勧奨しないことに対していろいろとご意見をいただいている状況であります」

「そういうところを鑑みながら、専門家の方々のご議論をいただいた上でどうしていくかということは決めていくという話になろうと思いますが、今10月からというような話はあるわけではございません」

「これ以上、問題を先延ばしにすることは許されません」

申し入れでは、産婦人科医や小児科医などがつくる「みんパピ!みんなで知ろうHPVプロジェクト」が中心となり集めたオンライン署名も提出された。

署名では「HPVワクチンの勧奨中止により、一学年あたり4500人以上の女性が『防げたはずのがん』に罹ることがわかっています。これ以上、問題を先延ばしにすることは許されません」と呼びかけた。

「みんパピ!」は、HPVワクチンに関する最新の正確な情報を伝えようと、産婦人科医や小児科医たちが2020年夏に立ち上げた啓発プロジェクト。ウェブサイトやSNS発信や学校向け啓発ポスター作成などで、HPVワクチンについてわかりやすく伝えている。

申し入れには、みんパピ代表理事で産婦人科医の稲葉可奈子さんも立ち会い、署名を提出した。

稲葉さんは申し入れ後、報道陣に対し、こう話した。

「HPVワクチンの安全性については、日本を含む世界中からのエビデンスで確認がされていますので、もちろん改めての厚労省での議論は経てにはなりますが、科学的には安心しておすすめできるワクチンということは確認されています」

「安全性が確認されているワクチンについては、国民の健康のために国が責任を持って、積極的に勧奨していただきたいということを(大臣に)話しました」

背景は…

HPVワクチンは、2013年4月から小学校6年生から高校1年生までは公費でうてる「定期接種」となった。

しかし、接種後に体調不良を訴える声が相次ぎ、それをマスコミが「副反応」や「薬害」としてセンセーショナルに報じたこともあり、同年6月に国が積極的勧奨を差し控えるよう通知した。

安全性への不安が広がり、日本の接種率は70%から1%未満に激減したが、HPVワクチンについては、国内外で安全性、有効性を証明する研究が積み重ねられてきている。

国が積極的勧奨を差し控えるようになってから、個別に対象者にお知らせが送られなくなった。そのため、無料接種の対象者であることを知らず、接種のチャンスを逃す人も増えていた。

そのような人をできるだけなくすため、厚労省は、2020年10月、自治体に個別にお知らせを送るよう通知し、2021年7月28日時点で対象者に情報提供した自治体は61.6%に上った。

国から個別へのお知らせが届かず、無料接種のチャンスを逃した女性たちに再チャンスを与える「キャッチアップ接種」を求める声も強まっている。

医療者有志と女子大学生で活動する団体は今年3月、キャッチアップ接種を求めるオンライン署名を行い、約3万筆の署名が田村厚労相に提出された。