頭上から落とされた大きな石「下手すると死んでいた」。ホームレス標的にした襲撃相次ぐ。被害者が語った憤りと不安

    都内で発生した路上生活者を標的にした襲撃。被害者の男性が語った憤りとは。

    東京都の墨田・台東両区で昨年、路上生活者に対して約1ヶ月半にわたり、執拗な襲撃や嫌がらせが繰り返される事件があった。

    複数の路上生活者が、雨露をしのぐための小屋にレンガや爆竹、人の頭の大きさほどの石などが投げ込まれたり、火をつけられたりという被害を受けた。

    加害者のうち、男が1人、現行犯で逮捕され罰金刑が確定した。しかし、複数いたとみられる他の加害者らは、今も自由の身だ。

    被害を受けたうちのひとり、鈴木雅之さん(仮名)は、BuzzFeed Newsの取材に、襲撃への憤りと不安を語った。

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    頭上から落ちていた大きな石「死ぬかもしれないと分かっていてやった」

    2022年7月末の未明、鈴木さんが暮らしの拠点にしている小屋で休んでいた際、すごい衝撃とともに、人の頭の大きさほどある石が落ちてきた。

    小屋は壁沿いにつくられていた。加害者は3メートルほど上にある壁の上から石を勢いよく投げつけてきたという。

    石は小屋を破壊し、中で横になっていた鈴木さんの足の近くに落ちた。

    幸い体に直撃はせず、鈴木さんにけがはなかったが、その時の恐怖をこう話す。

    「人がいるところに向かって重さがある石を投げて頭に当たったら、死ぬかもしれないと分かるはず。死ぬかもと分かっていて、やっているんですね。普通はそんなこと、できないはずです」

    「普通は犬や猫でも、殺せと言われても殺せるものじゃない。少しずれていて当たりどころが悪かったら下手すると死んでいたかもしれない」

    段ボールやブルーシートなどで出来ていた小屋はつぶれ、雨露をしのぐことはできなくなった。

    路上生活の仲間たちに手伝ってもらい、また襲撃があっても耐えられるよう固い板を使って小屋を修復したという。

    複数の関係者によると、これは2022年7〜9月、1カ月半にわたって執拗に続いた20回以上の襲撃や嫌がらせの一つにすぎない。

    襲撃の大半は、標的とされた路上で生活する人たちが就寝している夜中や未明を狙って起きた。

    鈴木さんの小屋がある場所は、日中だけでなく日没後も人通りがある。人通りが全くなくなる深夜から未明の時間帯を見計らい、計画的に襲撃していたとみられる。

    支援団体によると、鈴木さんが寝泊まりしている場所周辺の墨田・台東両区では、10人ほどの路上生活者が被害に遭った。

    多い時は連日のように襲撃が続き、小屋にはレンガ、酒瓶、爆竹などが投げられ、エアガンが撃ち込まれた。

    小屋に放火されたうえ、加害者に投げ飛ばされた人もいた。

    「最初は自分たちだけかなと思っていたら、周辺に住んでいる野宿者が、液体をかけられたり、自転車に嫌がらせをされたりと、色々な被害を受けていたことがわかったんです」

    「ニュースで襲撃について聞いたことはあったけど、中高生などの若者が夏休みや冬休みに突発的に襲撃することが多かったように思う」

    「でも今回は、特定の地域にいる路上生活者を狙って1カ月半も続いた。こんなに長く続く襲撃は、聞いたことがない」

    東京都福祉保健局が2021年11月に行った都内の路上生活者の実態調査(回答者数320人)では、通行人などからの暴力や嫌がらせを訴える声が上がった。

    路上生活の中で困っていることとして、40人が「ホームレス以外の人にいやがらせを受けて困っている」と答えた。

    また、都などに相談したいことについても、19人が「通行人からの暴力」を挙げていた。

    「野宿者を排除したいという強い気持ち感じた」「組織的な追い出し」

    襲撃が続いていた時期には、襲撃を防止し安全を確保するために、被害者や支援者らが交代で、夜中に見張りをしていた。

    その際、加害者は複数のグループだったことが確認されている。

    「仲間とともに望遠鏡でこちらの動きを見張ったり、頭部に付けたインカムでやり取りをしながら犯行に及んでいました。計画的な行動だと思います」

    鈴木さんは、複数人の加害者による一連の襲撃を「組織的に野宿者を追い出そうとする嫌がらせのようだった」と話す。

    「今回、被害が相次いだ墨田区、台東区では、前から野宿者が多くいました。私の小屋がある場所も、以前はずらっと多くの小屋があったんです」

    「でも、2012年にスカイツリーができて、観光客もぐっと増えました。野宿者がいることはマイナスイメージ、悪いイメージだと感じるんでしょうね。襲撃からは、この周辺から野宿者を排除したいという強い気持ちを感じました」

    「ただ、私たちにも生存権というものがある。ゴミを散らかしたりもしないし、通行人や周りの住人ともめることもなく、迷惑はかけていない……」

    まだ捕まっていない他の加害者。就寝に「不安」も

    9月中旬、小屋に爆竹が投げ込まれた際、支援者や警察が付近で見張りをしていて、加害者の男が1人、現行犯逮捕された。

    男は略式起訴され、器物損壊罪で罰金30万円となった。

    相次ぐ被害から支援団体と被害者らが警察に相談し、その日は警察官も現場で張り込みをしていたため現行犯での逮捕に至ったが、複数いるとみられている他の加害者らは、いまも逮捕されていない。

    被害者の中には、また襲撃があるかもしれず「不安だ」と話す人もいる。

    二次被害を防ぐため、被害者や支援者らは、被害があった場所の詳細は公にしていない。

    「誰しもが野宿者になる可能性がある」

    鈴木さんはこれまで10年ほど路上で暮らしてきた。

    「皆それぞれの理由や背景があって、路上で生活をしている」と話す。

    以前はバリバリと仕事をしていたものの、様々なきっかけで失業し、家や家族を失った人もいる。

    厚労省が2021年11月に行った「ホームレスの実態に関する全国調査」によると、野宿生活になった理由として最も多かったのが「仕事が減った」(15.4%)。ついで「倒産や失業」(14.4%)だった。

    また「人間関係がうまくいかなくて仕事を辞めた」(11.9%)や「病気・けがや高齢で仕事ができなくなった」(9.0%)などの回答も多かった。

    失業や病気、高齢化など、だれの身にも起きうることがきっかけで、多くの人が路上での生活に至ったことが分かる。

    調査に回答した野宿者の平均年齢は63.6歳。回答者のうち「70歳以上」が34.4%、「65〜69歳」が20.0%、「60〜64歳」が15.6%と、高齢者が70%を占めている。

    野宿をしている期間で、最も多かったのは「10年以上」(40%)で、次に「5年〜10年未満」(19.1%)が多く、野宿生活が長期化している人が多いことがわかっている。

    以前の同調査と比較しても、10年以上野宿をする人の割合が2003年は回答者の6.7%、2007年では15.6%で、長年にわたり野宿をしている人の割合は増加している。

    逆に野宿歴が3年未満の回答者は、コロナ禍の影響が生活を直撃。「仕事が減った」(36.4%)や「倒産・失業」(18.2%)のほかに、「アパート等の家賃が払えなくなった」(8.0%)、「ホテル代、ドヤ代等が払えなくなった」(6.8%)などと、野宿に至った理由を上げていた人もいた。

    今の社会・経済状況下では、働きたくても仕事を見つけることも容易ではない。

    鈴木さんも空き缶収集などの仕事をして食費を稼ぎ、日々をしのいでいる。

    多くの仲間の姿を見てきた鈴木さんは「生活保護を受けたとしても、様々なハードルや問題があって、生活を立て直すのはなかなか難しい実情があるんですよ」と話す。

    厚労省の調査では、32.7%が生活保護を利用し、一度は野宿生活を抜け出していたが、その後、野宿に戻っていた。

    生活保護を受けない理由としては、「制度を利用したくない」が最多で49.3%だった。

    また、回答者の48.9%がアルミ缶・段ボールなどの廃品回収や建設日雇などの仕事をして食費などを稼いでいたが、現在働いておらず求職活動もしていない人はその理由に「疾病、障害、病弱、高齢で働けないから」(30.1%)や「住居がないと採用されないと思うから」(13.5%)などを上げていた。

    今回の襲撃の被害者も、路上で長年暮らしてきた高齢者が大半だった。高齢になるほど、日雇いなどの仕事を見つけることは難しくなる。

    弱い立場にある路上生活者を標的にした襲撃。

    一方で、地縁・血縁などが失われて人を支え合う機能が衰えているうえ、支援活動も各国と比べて必ずしも活発とは言えない日本社会に、「滑り止め」の機能は乏しい。

    一度滑り落ちるとそこから這い上がることが難しくなっていることは、すでに多くの人々が感じていることでもある。

    鈴木さんは「誰しもが野宿者になる可能性があるんですけどね……」とつぶやいた。