Updated on 2020年7月28日. Posted on 2020年7月23日

    「彼女は耳が聞こえません。この歌を一緒に聞いてプロポーズします」ファンからの言葉。音がない世界にも音楽を届ける、2人の思い

    手話を取り入れたダンスや歌を届ける「HANDSIGN」が語る、音楽に込めた思い。聴覚障害がある人たちのストーリーを曲やミュージックビデオにする理由とは。

    耳が聞こえない人たちにとって、「音楽」とはどういうものなのか、考えたことがあるでしょうかーー。

    音がない世界にも、手話とダンスなどのパフォーマンスで「音楽」を届けているアーティストがいる。

    ボーカル&手話パフォーマー「HANDSIGN」が、手話を取り入れたダンスと歌で、聞こえる人にも、聞こえない人にも届く音楽を作り続ける理由とは。

    メンバーのTATSUさんとSHINGOさんに話を聞いた。

    HANDSIGN

    HANDSIGNのSHINGOさん(左)とTATSUさん

    2005年に結成し、2018年9月にメジャーデビューしたHANDSIGN。

    幼馴染のTATSUさんとSHINGOさんは、15年間にわたり、手話とダンス、歌で、「聞こえる人にも、聞こえない人にも」音楽を届けてきた。

    手話を取り入れたダンスや音楽を始めたのは、TATSUさんが聴覚障害を持つ女性が主人公の、テレビドラマを見たことがきっかけだ。

    ドラマで興味を持ち、「手話を取り入れたダンス」というスタイルを作り上げてきたHANDSIGNだが、自身は聴者で、聴覚障害がある人が家族などにいたわけでもなかった。

    それでも手話を取り入れたダンスを踊り続け、15年にわたり続けてきたのには、聴覚障害があるファンや、HANDSIGNの音楽をきっかけに手話に興味を持ったファンたちの存在があった。

    Sumireko Tomita / BuzzFeed

    インタビューに応じるHANDSIGNのTATSUさん(左)とSHINGOさん

    「聞こえる人と、聞こえない人の『架け橋』に」

    HANDSIGNのライブでは、聴覚障害がある人も、聴者の人も観客席にいる。

    歌詞を手話で表すだけでなく、MCやトークなども手話付きでし、ステージと客席、HANDSIGNと観客の間でも、手話で会話が交わされる。

    ゼロから手話を学び、歌詞を手話で表現してきた2人は、時には、観客に手話で助けられることもあるという。

    「僕がMCで手話を間違えた時や、固有名詞などの手話がパッと出てこない時に、(客席の)前にいるお客さんが助けてくれたりもします。間違えているよ!こうだよ!って、聞こえないつっこみがありますね」

    「歌詞は、聞こえない人は特に、聞こえる人も、(歌詞の手話を)知っている人はみんな、ライブ中も手話で一緒にやってくれます」(SHINGOさん)

    HANDSIGNは、手話を取り入れたダンスや音楽を届けることで「聞こえる人と、聞こえない人の架け橋に」という思いで活動を続けてきたという。

    HANDSIGN

    2人が「架け橋」になることについて、SHINGOさんはこう語る。

    「ライブでも、ファンの中で、分からなかった部分を手話通訳しているなど、あたたかい場面も見られたりします。そういうことが、自然に『架け橋』につながっていたらいいのかなと思います」

    「シンプルに音楽で楽しくなってもらって、元気が出た、トークおもしろかった、っていう風に思ってもらって、結果それが繋がっていけばいいなと思います。そこに『聞こえる、聞こえない』『障害がある、ない』関係なく人が集まって、自然に調和が生まれていたりもする」

    「音楽が好きになった」"聞こえない"ファンからの言葉

    TATSUさんは、「手話とダンスで音楽を届けることによって、聞こえない人に『音楽が好きになった』と言われたこともありました」と話す。

    HANDSIGN

    聴者の母親と聴覚障害がある娘という親子からは、こんなエピソードも寄せられたという。

    「あるライブに親子で行った時、聞こえないから何も分からなくてショックだった。だからその後、一緒にライブに行くことはなかった。けど、HANDSIGNのライブで初めて、親子でライブを楽しむことができた」

    中学校でライブをした時に、HANDSIGNのパフォーマンスを見て手話に興味を持ったという人からは、高校で手話サークルに入り、その後、手話の仕事に就いたという報告も受けたという。

    HANDSIGN

    学校公演の様子

    「そのような、聞こえる人たち、聞こえない人たちからの嬉しい言葉を頂き、もっと手話で音楽を届けたいなと思います。僕たちにしかできないことが、やっとできていると思います」

    「音楽と手話、ダンス、歌というエンターテイメントから、手話に興味を持ってもらえると『楽しいもの』であり、一つの言語として受け入れてもらえると思います。それがやはり、僕たちが音楽を作る理由、手話で音楽を伝える理由かなと思います」(TATSUさん)

    聴覚障害がある人の「ストーリーを伝える」こと

    HANDSIGN

    「声手」のミュージックビデオより

    HANDSIGNの楽曲「僕が君の耳になる」や「この手で奏でるありがとう」「声手」では、聴覚障害がある人や、その家族の経験など、実話をもとにしてミュージックビデオ(MV)が作られている。

    モデルとなった人物にインタビューをして、経験や思いを聞いた上で、制作にあたっている。

    手話で音楽を届けてきたHANDSIGNだが、最初から聴覚障害に関する歌やMVを作ったりしていた訳ではないという。それは、「ためらい」があったからだとTATSUさんは語る。

    「以前は『耳が聞こえないこと』に突っ込んだ歌は、タブーなんじゃないかなという思いがありました。言い方は悪いですが『障害をネタにして感動に持っていく』というように受け取られたりするかもしれない思い、なかなか踏み出せなかったところがありました」

    「やはり10年くらい活動して、聞こえない人とも交流してきた上での経験がないと、しっかりとしたメッセージは伝わらないのかと思って、避けていました」

    HANDSIGN

    しかし、2017年、聴覚障害がある彼女への聴者の男性の思いを描いた楽曲「僕が君の耳になる」を発表。MVでは、聴者の男性が手話を学び、聴覚障害がある女性の友人になり、そして恋人となるストーリーを映像化した。

    2人から聞いたエピソードをもとに作られ、YouTube上のMVは830万回以上再生され、話題となった。

    TATSUさんは「『僕が君の耳になる』を作る手前までは、そういう悩みがあったんですけど、この曲で一歩踏み出せた感覚はありました」と語る。

    「そうやって、頑張っていらっしゃる方の実話をもとにして(曲やMVを)作っていくスタイルができました。10年活動を続けてきて、このような(聞こえない人の)実話をもとにした曲が、世の中に一曲くらいあってもいいんじゃないかと思いました」

    HANDSIGN

    「手話」や「障害」に対する目線

    「聴覚障害がある人についての歌を作る」という一歩を踏み出すには、聴覚障害があるファンの存在や後押しもあったとTATSUさんは話す。

    また、曲の批判への覚悟、そして社会の「手話」や「障害」への目線を、少しでも音楽で変えていければという思いがあったという。

    「やはり少し叩かれるのを覚悟していましたし、それくらい気持ちを持ってやっていかないと、手話が広まらないのかなと思いました」

    Sumireko Tomita / BuzzFeed

    TATSUさん

    覚悟の上でリリースした「僕が君の耳になる」の曲、MVへの反響は大きく、動画のコメント欄には、聴覚障害がある当事者、家族、友人、恋人らから様々な声が寄せられた。

    「俺の妻はろう者です。そして俺のプロポーズの言葉も『僕が君の耳になる』。まさか歌があるとは…」

    「付き合っている彼女は耳が聞こえません。この歌を一緒に聞いてプロポーズしようと思います」

    「耳が聞こえなくなって地獄の日々でした。そんな時に、おすすめにこの歌が出てきました。(中略)こうやって理解してくれたり側にいてくれる人はいるんだって思うし、実際自分の周りの友達は寄り添ってくれるって思うと、もう少しがんばって生きようと思います」

    この曲がきっかけで、「聞こえない人の役にたちたい」と思い、実際に手話を習ったりと行動に移した人の声もHANDSIGNに多く届けられたという。

    「『僕が君の耳になる』を見ていなかったら手話に興味を持たなかったと言ってくれる人がたくさんいるので、音楽そして作品の力を感じました」(TATSUさん)

    HANDSIGN

    難聴者、中途失聴者など様々な人のストーリーを

    以前は聴覚障害がある人について歌にすることに、ためらいがあったというHANDSIGNの2人。しかし今は「(ためらいは)全くなくて、もっと作っていきたい」という思いだ。

    「もっと作れば、もっと手話に興味を持つ人が増えるし、『聞こえない人にはこう接したらいいんだ』『こう思っていたのは違うんだ』という、気づきになれば」

    また、一言に聴覚障害者といっても、ろう者、難聴者、中途失聴者などもいるため、今後は、様々な立場の人の「目線」や「声」を拾っていきたいと話す。

    「難聴者や、片耳だけ聞こえなくなって不安な人、中途失聴の人…もっと深く知っていきたいです。『こういう人たちは、こんなことで悩んでいる』ということをもっと音楽や作品で発信できたらいいのかなと思います。皆さんから意見をもらっても、僕らも曲を作っていきたいです」(TATSUさん)

    Sumireko Tomita/ BuzzFeed

    言葉と手話、外国語の狭間で

    手話を取り入れたダンスや音楽を作る中で、SHINGOさんは作詞の際に、手話を念頭に置くことの「難しさ」もあると語る。

    「歌を作っていく中で、手話をチョイスしていくのが難しい時もあります。比喩表現などを手話に翻訳するときに、うまく翻訳できない時もあります」

    「HANDSIGNの(存在の)意義じゃないですけど、音楽=(イコール)手話・ダンス・歌なので、どうしても手話に訳すことがまず頭にあります。『ただ歌を作る』という感覚ではないかもしれません」

    また、日本語の言語と手話の間だけでなく、外国語で楽曲を歌う時にも翻訳の難しさに直面したという。「僕が君の耳になる」のMVなどには海外からの反響も多く、英語版と韓国語版も作った。

    「韓国語版と英語版を作り、実際に韓国語や英語で歌ったりもしているんですが、翻訳の専門の方に『僕が君の耳になる』という文は英語には訳せないと言われ、少しニュアンスの違う意味のタイトルになったこともありました」

    手話と言語、外国語間の翻訳に難しさを感じる一方で、同じ手話や言語を使わない相手にも「通じた」経験もあった。

    HANDSIGNはこれまでに、海外支援プロジェクトとして東南アジアのカンボジアとフィリピンを訪れ、ろう学校や特別支援学校、孤児院などで手話ダンス教室を実施してきた。

    HANDSIGN

    カンボジアで手話ダンスを教えるTATSUさん

    「フィリピンの聞こえない子に日本の手話で話しかけた時は、意外と通じたりもしました」(TATSUさん)

    フィリピンの孤児院でダンス教室をやった時には、その経験を経て、生徒の女の子に「将来はダンスの先生になりたい」と言われたこともあったという。

    言葉が通じない中でもダンスでコミュニケーションを取り、将来の夢を語ってくれたことに対し、TATSUさんは「すごく嬉しかった。夢を追ってがんばってほしいと思いました」と話す。

    コロナ禍での音楽。ダンスによる繋がり

    新型コロナウイルスの感染拡大で、HANDSIGNの活動も大きな影響を受けている。予定していた音楽祭や15周年記念イベントなども中止となってしまった。

    また、東京オリンピック・パラリンピックに向けパラスポーツを応援する東京都のプロジェクト「TEAM BEYOND」のメンバーとしても活動してきたが、五輪も延期となった。

    そんな中でも、「おうち時間」や、医療従事者らに感謝を伝える歌、または手話の振り付け動画をYouTubeで発信したりしてきた。

    無観客でのYouTubeライブなども行った。TATASUさんはこう語る。

    「当たり前の日常がどれだけ幸せだったのかというのを気付かされましたし、また、音楽がすごいなって思ったのは、人に会わなくても動画とかを通して届きます。音楽を通し、聞こえない人も聞こえる人も元気になってくれたので、コロナの時期、改めて音楽の力を感じました」

    SHINGOさんは、ライブなどが出来ない状況となって、こう感じたという。

    「いつも近くにいた応援してくださっているファンの皆さまが、突然遠くにいってしまったという寂しさもありましたが、SNSでコメントとかをくれて、励ましてくれる姿に愛を感じました。徐々にですけど、またきっと会える日がくるので、頂いた気持ちをこれから音楽にして、返していきたいなと思っています」

    4月からはHANDSIGNが監修する手話ダンスワークショップする予定だったが、コロナで延期となり、感染防止対策をしながら7月に始めた。

    中には、聴覚障害がある受講生も複数いるという。

    「コロナの時期なので間隔を保って、人数も縮小して実施するのですが、一緒にダンスをしたり、手話を覚えることによって、聞こえる人と聞こえない人の『会話』が生まれたらと思います。手話はソーシャルディスタンスを保ちながら、声を出さずに会話ができるので素晴らしいです」(TATSUさん)

    HANDSIGN

    7月17日に開催された手話ダンス教室の様子

    地域によってはコロナもなかなか収束を見せない中で、SNSを介した動画などを通して、活動を続けていく。

    今年の9月でメジャーデビュー2周年を迎える2人。今後の展望については、こう語った。

    「聴覚に障害がある方、ハンデを抱えていても頑張っている人を知ってもらえる歌を届けていきたい。そして、2人が考える思いやメッセージを込めた歌を作っていければと思います」(SHINGOさん)

    「地元が神奈川県なので、横浜アリーナで聞こえる人も聴覚に障害がある人も集まったワンマンライブができればと思います。横浜アリーナには1万人くらい入るので、もし実現したら、それは世の中に少しでも手話が広まった証拠でもあるかなと思うので。そして、紅白歌合戦も目標にしていきたいです」(TATSUさん)


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