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あの日、助けられず「消えた」女性はどこへ…。今も日本のどこかで起きている“リアル”とは

搾取されていた実習先から失踪したベトナム人技能実習生。3人の女性の姿を描いた映画『海辺の彼女たち』が公開されました。藤元明緒監督が語ることとは。

搾取されていた実習先から「失踪」したベトナム人技能実習生。ブローカーに新たな職を斡旋され、向かった先は雪深い港町だった。

不法滞在・違法就労状態に陥りながらも、必死に働き、母国の家族に送金しなければならない事情がーー。

3人の女性の姿を描いた映画『海辺の彼女たち』が、5月1日に公開されました。

フィクション映画でありながら、劣悪な実習先から逃げた技能実習生らへの取材などをもとにつくられたこの作品。これは、日本のどこかで実際に起こっている「リアル」でもあります。

藤元明緒監督に話を聞きました。

『海辺の彼女たち』は日本とベトナムの共同製作映画。技能実習生役3人のオーディションはベトナム現地でおこなわれ、100人以上の中から3人が選ばれました。

技能実習生役を演じた俳優3人は20代半ばで、実際の技能実習生に多い年齢層です。

撮影は青森県外ヶ浜町で、1カ月かけて行われました。

外ヶ浜町で水産加工の仕事に従事するベトナム人技能実習生にも、取材したといいます。

俳優3人は、今回の撮影が初の海外渡航。実際に技能実習生が渡航前にするように、パスポートを取得したり、役作りのために日本語学校に通ったりしたそうです。

脚本、監督、編集を務めた藤元さんは、こう話します。

「初めて日本にいくというのは、渡航前の実習生と近い感情だったかと思います。役作りの一環で3ヶ月、時間が許す限り日本語学校に通ってもらいました」

「初めて来た日本、初めて見る雪…。映画の世界とは違う、現実の世界でも実際に体験して、映画に落とし込んでもらえました」

きっかけは、監督が実際に受け取った実習生からのSOS

本作品では、失踪した技能実習生の「その後の生活」が描かれています。

そのきっかけは、2016年に藤元さんがミャンマー人技能実習生から受け取ったSOSのメッセージでした。

藤元さんは当時、ミャンマー出身の妻と共に、ビザや渡航情報に関するミャンマー人向けのFacebookページを運営していました。

「名古屋の農場で技能実習生として働いていた女性からSOSのメッセージがありました。早朝から夜中まで働いていたけど時間外労働の残業代も払われておらず、ルームシェアをしていた仲間も出て行ってしまって、一人で残っているという女性から『どうしたらいいですか?』と相談がきたんです」

「女性は逃げようか(失踪)どうしようかと悩んでいました。僕たちは然るべきところに連絡して助けを求めたんですが、結局その団体は女性に連絡せず、女性はしびれを切らして、その職場を出てしまいました」

藤元さんはその時初めて、技能実習生が置かれる過酷で不条理な労働環境や、頼れる相談先の少なさなどの問題を目の当たりにしたといいます。

技能実習生制度には、実習生の受け入れやサポートをする監理団体があります。しかし、女性の監理団体は機能しておらず、やがて女性とも連絡がとれなくなってしまいました。

「頼るところがなく、Facebookページを見つけて頼ってくれたのだと思います。助けられず悪いことをしたな、その後どうしているのかな…と考えました」

「そのときの記憶がすごく残っていて、映画でも実習先から逃げいていく場面からスタートし、その後の生活を描いています」

出入国在留管理庁によると、賃金の不払いや実習先から不当な扱いなどを理由に「失踪」した技能実習生の数は2014〜2018年の5年間で計3万人に達しました。

技能実習生の失踪は、大きな問題となっています。

取材を重ねて描いた、失踪した実習生の姿

フィクション映画である一方で、藤元さんやプロデューサーは、現在、日本で起こっている技能実習生をめぐる問題を忠実に描くため、取材を重ねました。

困りごとを抱えたり、劣悪な実習先に耐えられず失踪したりした技能実習生の「駆け込み寺」となっている寺院や団体、労働組合を取材し、問題を深掘りしました。

「(失踪する時に)どういうルートで来たのか、逃げる時にどうするのかということについて聞きました。やはり地方にいくという人が多かったです。逆に地方に行ったあと、東京に戻ってくる人もいました」

失踪した技能実習生は、身分証明書や保険証もなく、体調を崩しても病院で受診できない、といった問題もあります。

取材をした中で、失踪先として多く選ばれていたのが「一次産業が多いところ」でした。

映画でも、人口が少ない小さな港町で、人手不足に困る漁港で違法就労する姿が描かれています。

藤元さんは、この映画は「フィクション映画」とする一方で、実際にこれらは日本社会で起こっている問題でもあると指摘します。

「もし映画にリアリティがなかったら、『映画の中で起きていることなんでしょ』という一言で終わってしまう。それは嫌でした。過剰な演出はせず、ちゃんと彼女たちが存在しているというリアリティにはすごく気をつけてつくりました」

「映画の世界では終わってほしくなくて、映画だけでなく、自分が今立っている世界と地続きなんだという感覚が、この題材ではとても大切なんじゃないかと思っています」

「彼女たちの隣で電車に乗っている」「一緒に病院に行っている」

そんな風に感情移入しながら、映画を観てもらいたいと考えています。

日本における「技能実習生」や「外国人労働者」とは

映画の予告編動画にも、仕事でミスをした実習生が謝っているにも関わらず、職場の日本人男性に「邪魔するんだったらベトナムに帰ってよ!」と強い口調で言われるシーンもあります。

「それを言われると何も言えないですよね。来日した時の借金をどうするのか、という問題もあります。常に(帰国や借金を)天秤にかけられている状態。借金はベトナムで働いていては返せない額です」

実習先と良好な関係を築いている実習生もいる一方で、暴言やハラスメントに悩まされている実習生も少なくありません。

技能実習生は、母国で送り出し機関に渡航費用や手数料などとして多額を支払い、日本にやってきます。

多くの人がそのために借金をつくり、日本での実習期間中も返済と家族への仕送りを続けながら働いている実情があります。

「そこまでしてでも日本で働かないといけない理由と責任感、プレッシャーは、はかり知れないものではないかと思います」

この映画では、失踪後の技能実習生を描いていますが、「失踪できずに我慢している人も多くいるはず」と藤元さんは指摘します。

失踪すれば、在留資格を失います。生活のために働けば、入管法違反で強制退去の対象となります。

失踪はしないが、助けを求めることもできないーー。そうしたジレンマを抱えながら、劣悪な労働環境で苦しんでいる実習生もいます。

「技能実習制度などの言葉を知らなくても、この映画は観られます。彼女たちの生きざまに共感したり、共感できないところがあったり…」

「そこで生まれた『謎』や『疑問』について、これはなんでなんだろう? と調べていただければ。映画鑑賞のさらに先に広がっていくと、僕たちも映画をつくった意義があるのではないかと思います」


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