「そもそもセックスってしなきゃだめ?」「ぶっちゃけ女子も一人でしてるの?」ーー。
この秋、高校生が、性や体についての悩みや疑問と向き合う、ABEMAオリジナルドラマ「17.3 about a sex」が公開されました。
主人公である17歳の女子高校生たちが直面する、性的同意、避妊、生理、セクシュアリティなどのテーマを取り上げ、9つのエピソードをオンラインで配信しています。
なぜ高校生向けに、性に関するドラマを制作したのか、ドラマの企画・プロデューサーを担当した藤野良太さんに話を聞きました。

学校の性教育では教わらない、でも必要な知識
性的同意、避妊、マスタベーション 、生理、妊娠、性感染症、セクシュアリティ、アウティング、痴漢ーー。
ドラマで取り上げられたトピックは、ドラマの制作に携わったABEMAの20代の女性スタッフなど制作陣が集まり、アイディアを出し合って選ばれたもの。
ドラマの制作陣も20代の女性が多く、10代からの意見も聞き、「今の高校生が知りたい、けど学校の性教育や親は詳しく教えてくれない」、そのようなテーマに焦点を当てたといいます。
ドラマのタイトルでもある「17.3」は、ある企業が公表した世界の若者のセックス初体験の平均年齢。
その情報をネットで目にした主人公は、それが同じ年頃であることに驚き、友人にその情報を話すところから、友人同士での性に関する会話が始まります。

学校でも、家でも、ドラマでも詳しく語られていなかった
プロデューサーの藤野さんは、日本の学校での性教育が遅れていたり、家庭内でも親から教えられる習慣があまりなかったりする現状を「性について語られない日本」と表現し、こう指摘します。
「性教育は欧米では5歳から教えられている国もある中で、日本では義務教育でもあまり教えられておらず、先進国の中でもすごく遅れているといいます」
「(家庭内でも)親からは切り出せないし、娘からも話せないという状態で『溝』があり、愛のズレがあります」
ドラマではその「溝を埋めること」を提案し、高校生には性や体について知り、「自ら知識を身につけた上で主体的に選択してほしい」と話します。

藤野さんは、そのような「性について語られていない」様子は、ドラマなどにも表れているといいます。
『セックス・エデュケーション』(2019)や『ハーフ・オブ・イット』(2020)など、最近公開された海外のドラマや映画と、日本の作品を比較し、こう指摘します。
「海外のドラマでは最近は、多様性やジェンダー、セクシュアリティに光をあてて、意味のあるストーリーづけをしているものが多いです」
「または、女性の生き方の中で、セックスもきちんと描かれていて、ダイバーシティにも焦点があてられています」
日本のドラマなどでは、男性の初体験についてコミカルに描いた作品などはこれまでにもあった一方で、女性の初体験や性について焦点を当てた若者向けのドラマはあまり作られてきませんでした。
藤野さんは、「性教育に光をあてて、2020年の今を生きる子たちに大切なことを伝えられるのではないかと思いました」と語ります。
そのような視点から、女子高校生3人が、性や体について、悩み、話し合い、学んでいくというストーリーが生まれました。

「性に関する知識がアップデートされる」ドラマ
藤野さんは、時にはセンシティブな話題も含む、性についてのドラマを作る上で気をつけた2つの点について、こう語ります。
「ドラマなのでエンターテイメントなのですが、見た方の性教育に関する知識がアップデートされるというような情報を、必ず入れ込むようにしました」
付き合いたての高校生のカップルが、一緒に性感染症の検査に行く姿も描かれ、それぞれのエピソードから、学ぶだけでなく「自分にできること」が示されています。
制作にあたっては埼玉医科大学産婦人科の高橋幸子医師が医療監修に入り、ドラマを通して、医学的にも信憑性がある性の情報を届けています。
また、若者の視点を大切にし、10代が知りたいことをドラマ化するために、「リアル17.3代表」としてインフルエンサーのひかりんちょさん、性教育についての発信をする大学生の中島梨乃さんも携わりました。

ドラマでは、10代の妊娠や、女子生徒が妊娠した際に退学になるケースもあるなど、学校側の対応も描かれています。
日本では、人工妊娠中絶手術が受けられるのは妊娠22週未満ですが、そのような情報も盛り込んでいます。
「22週というラインを知らない高校生もいるかもしれない。さりげなくドラマの中で伝えることも大事だと思いました。仮に妊娠し(産む選択をし)た子がいたとしても、養育里親制度や、託児所がついている通信制の学校という2つの選択肢も紹介しました」
「もし半径3メートル以内に悩む友達がいたとしたら、『ドラマでこういうのあったよ』と伝えてあげることもできる。このドラマなら実現できると思いました」

もう一つ、取材や確認作業を重ねて気をつけられた点は、ドラマが「誰かを傷つけない」ということ。
センシティブで、体や心に関わるテーマを掘り下げる内容だからこそ、制作陣らが、それぞれのテーマを深く取材し、様々な角度からのチェック体制を設けて、制作にあたりました。
「コンテンツが出た時に、ドラマが『気づき』になってほしい。でも誰かを傷つけるものであってはならない、ということには気をつけました」(藤野さん)
ドラマの中では、アセクシュアルやバイセクシュアルなどのセクシュアリティにも焦点があてられました。
また、本人の了解を得ずに他者にセクシュアリティについて暴露する、「アウティング」の問題も取り上げています。
「もっと性についてオープンに話せるようになれば」

第1〜3話が9月17日に一挙に公開されると、10代の若者を中心に多く視聴され、初回はABEMAオリジナルドラマで1番の視聴数でした。
Twitterでも、性教育に携わる若いインフルエンサーやクリエイターなどからは高い評価を得て、話題になりました。
しかし、ドラマの対象である10代の若者からのSNSでの反響は大きくはありませんでした。一方でそれは「公開前から予想していたこと」だったといいます。
藤野さんはこの点について、こう語ります。
「『17.3 about a sex』というタイトルのドラマを見ているということを、10代の子たちは言えないんじゃないかと予想していました。実際、そうだったんです」
「しかし、これもミッションだと思うんです。このドラマを通じて、性についてもっとオープンに話せるようになったらいいなとも思っていています。数字では(ドラマは)見られているので、堂々と『めちゃくちゃおもしろい、これ』って、17歳の女子高生たちに語ってもらいたい」
一方で、ドラマがきっかけに、女子高校生がオープンに性の話題や低用量ピルについて話すことができているという声も、制作陣には届きました。
日々の会話の中でも話題にしやすい「ドラマ」という形で性について伝えたことで、そのように10代の中でも「小さくも大切な変化」が生まれつつあるといいます。
「エンターテイメントには社会を変える力がある」

若い世代に、性について伝えるという意義深いドラマである反面、制作の初期段階では、キャスティングやロケーションに苦労したそうです。
藤野さんは「予想外だったのが、ロケ場所の決定」と話します。
「『10代の女の子の性に関するドラマなんて、けしからん』という人もまだまだいます」
「断られ続けて、最初想定していた場所とは全然違う場所で撮影しました」
また、性について直接的に話す内容でもあることからも、俳優のキャスティングに関しても、断られ続けたといいます。
しかし、藤野さんがそこで抱いたのは「逆にここまで断られるなら、やる意味がある」という思い。
20代の俳優を起用することも可能でしたが、「10代に向けて描くなら10代のキャスティングを」と、最終的に10代の俳優でドラマ撮影することを決断しました。
藤野さんがそこまでこだわり続けるのは、「エンターテイメントには、社会を変える力があるから」だといいます。
10代の若者の心に届くよう、キャスティングや内容にこだわり、ドラマが作り上げられました。
「知識をつけて、主体的に生きる」ということ

このドラマでは、学校の性教育では習わないことも多く伝えています。
しかし、実際に10代は様々な情報をインターネットで得ているのが現状。その情報が時には、間違った情報という可能性も多いにあります。
脚本を書いた、山田由梨さんの「初体験で傷つく女の子が多いと思うんです」という言葉と、その理由に、藤野さんはハッとしました。
「(性に関しては)親も学校も教えてくれないし、女子は友達同士でもあまり話さないから、無知のままでいる。けど、男の子はAVなどで情報を得て初体験に臨むんです」(藤野さん)
間違った避妊の仕方や妊娠に関する知識が、女性を傷つけることもあります。
そのようなことが起こらないためにも、10代の女子にも恥ずかしがらず「主体的に」、性に関する情報を得ていく大切さも強調します。
藤野さんはドラマを通して、10代の女子にこう伝えたいと話しました。
「性教育に限らないことですが、『主体的に生きてほしい』ということ」
「主体的に生きるには、知識を持つことも大切。知識をつけた上で、選択することを提案したいです」
