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年を重ねたトランスジェンダーの人生を写真とインタビューでひもとく

「本当の自分に誠実でありたい。人生前半の50年は逸してしまったけれど、後半の50年は自分の人生を生きていきます」

Photo by Jess Dugan

現代のアメリカで、トランスジェンダーというアイデンティティとそのコミュニティについて語る場合、若い世代を中心に取り上げることが多い。では、もっと上の世代のトランスジェンダーやジェンダー非適合の人々についてはどうだろう? かつて苦難の道を歩き、困難を乗り越えてアメリカ社会を生き抜き、その生を輝かせてきた先駆者の声に耳を傾けてみてもいいのではないだろうか?

写真家のジェス・ダガンはそんな人々の声に光を当てようと、「To Survive on This Shore」と題したプロジェクトを立ち上げた。この5年間、ソーシャルワーカーのヴァネッサ・ファブルとともに全米を回り、上の世代のトランスジェンダーとジェンダー非適合の人々に話を聞き、その姿を写真に収め、これまであまり語られることのなかったストーリーを伝えようと取り組んできた。今回、写真とインタビューを書籍にまとめて発表したダガンは、BuzzFeed Newsの取材に答え、このプロジェクトはまず何よりも「事実や歴史を知ってほしいという活動家的なミッション」と位置づけている、と語る。

「この企画を立ち上げる前、若い世代のトランスジェンダー数人からこんな声を聞いたんです。上の世代のトランスジェンダー像を目にする機会がなくて、この先の人生がイメージできる地図がない、と。このプロジェクトはそんな彼らのために形にしたいと思いましたし、上の世代のトランスジェンダーが経験してきたことを記録に残し、その意義を確認したいと考えました。上の世代の人々は、今あるこの世界を作ってきた当事者ですから」

Photo by Jess Dugan

ダッチェス・ミラン(69歳) ロサンゼルス

「母はこう言っていました。あなたが死ぬとき、光の前に立ってつぶやくの。私は自分を好きでいる価値があるだけの人間だったのでしょうか?ってね。私は自分が好き。いい?で、私は高らかに言うんです。私は自分が好きです、と。

私は誰のことも傷つけないし、人を不当に扱ったりもしない。できることはみんな、できるだけやってきた。だから自分の内面を見つめて気づいて、その自分と向き合うんです。過ち、欠点、願望、すべて別に構いません。すべては手に入れられません。誰もすべて手に入れる人なんていない。そうでしょう? 

でも持っているものは磨くことができる。そう、磨けるの。目をくらませるくらいに」

私たちがメディアを通じて見聞きするトランスジェンダー関連の話は、多くが何らかの形で暴力や差別に焦点をあてているとダガンは指摘する。「このプロジェクトは、トランスジェンダーとしての多様な生き方、年の重ね方を提示するものにしたいと考えました。そして、今私たちが暮らしている世界にいたるまでの道をならしてきた、先人たちの過去を記録に残したいという気持ちもありました」

「このままでは彼らの話は消えるか忘れられるかしてしまう、という危機感を抱いていたので、記録して残しておきたかったのです」。現在、若い世代のトランスジェンダーに対して国レベルで関心が寄せられているのは非常に大事なことだとした上で、上の世代のライフストーリーにも目を向けておくべきだと言う。

「トランスジェンダーやジェンダー非適合の人々はいつの時代にも存在していた事実を忘れないことが大切だと思います」

Photo by Jess Dugan

グロリア(70歳)シカゴ

「私は高齢者です。70歳まで生きてこられたけれど、そこまで生きられない人は多いんです。70歳なんて到底届かない。ドラッグや性病で死ぬ人が本当に多いし、殺される人もいます。

みんなに聞かれますよ。ママ・グロリア、どうやってここまで生き抜いてきたの、って。私はこう答えます。『家族の愛と神の恵みがあったから生き抜いてきたのよ』。そのおかげでここまでやってこられました。ある程度安定した強さがないといけないし、ある種の品格と、自分自身に何かしらの魅力がないといけません。

私は「クローゼット」だったこと、つまり本当の自分を周囲に隠していたことはありません。私がクローゼットにいるのは服を選ぶときだけ。そのあとは出てきて選んだ服を着るんです」

ダガンとファブルはいつも同じスタイルでインタビューを進めるという。初めにたずねるのが「今、ご自身のアイデンティティをどのように見ていますか。そこへ至るまでに大きな影響力のあったできごと、重要な転機になったできごとは何でしたか」、そして最後にたずねるのが「これからを考えたとき、未来についてや年を重ねることについて、どんな希望あるいは不安がありますか」だそうだ。

書籍『To Survive on This Shore』に収められた写真と文章から一部を紹介する。

Photo by Jess Dugan

ディサンティ(54歳)サンタフェ

「自分のことはストレート男性だと思っていますし、それはずっとわかっていました。一番古い記憶で『僕は女の子じゃない。女の子にはなりたくない』と言っているんです。

人は自分が一人じゃないんだということをわかっておくべきです。私にとってそれが戦いでしたから。

50年間。ずっと一人でした。自分が人と違うのはわかっていたけれど、どう違うのかがずっとわからなかった。自分で何とか対処しようとして、アルコールに走ったんです。意識がなくなるまで飲みました。通常とは違うあの状態が好きだったんです。自分自身でいなくてすむから。周りと同じ普通の人間でいられた。

でも今は自分の人生を生きるのを心から楽しんでいます。もっと音楽をやりたい。妻と、孫と、家族との時間を過ごしたい。本当の自分に誠実でありたい。人生前半の50年は逸してしまったけれど、後半の50年は自分の人生を生きていきます」

Photo by Jess Dugan

スカイ(64歳)カリフォルニア州パームスプリングス

「自分にとって最大の不安は、パートナーのいる人なら誰でも一番の不安、相手が先に逝ってしまうことでしょうか。それから、われわれのコミュニティ向けの介護ホームや長期療養型施設が不足するのではと感じています。

今、何かあってホームに入る必要が生じても、居心地よく過ごせる場所を見つけるのは大変でしょう。これからの20年で何かが変わってくれるのではと期待しています。できればそう遠くないうちに」

Photo by Jess Dugan

ディディ・ンゴズィ(55歳)アトランタ

「自分がなぜ周りとは違っているのかを真にわかるようになったのは、世界に向けて自分の心を表現していたからです。

神様がどう感じたかはわかりませんが、私は神を信じていて、深く根ざした精神世界の背景があって、つねに聖霊と話をしています。

ニューヨークのロウアー・ウエストサイドで性を売っていた私をホワイトハウスで表彰されるまでにしてくれたのも聖霊のおかげです」

Photo by Jess Dugan

ボビー(83歳)デトロイト

「だいたい人は白か黒のどちらかという前提で話をするでしょう?性転換する前と後で。でも私にとっては発展なんですよ。どちらの生にも誇りを持っています。どちらの自分にも誇りを持っている。わかるでしょうか。

こうして発展していけるというのはすばらしいと思っています。感謝しています。男性器があってぱっと女性になれるかというとそうではありません。すべてが順序立てて組み立てられて、結びついてできるんです。それだけの時間がかかるし、学ぶことの多い経験であり、あらゆる要素が含まれているんです」

Photo by Jess Dugan

エイダン(52歳)ワシントン州ベリアン

「大変なのはすべてをさらけ出して受け止めてもらおうとすることで、それは当然、自分が何者なのかを他者が判断するからです。私があちこち行っても、誰も気にとめて見たりしません。住んでいる家は通りの行き止まりにあるんですが、近所の人たちは私の過去を知りません。

私のパートナーは大人になって以来、自分を基本的にレズビアンととらえて生きていますが、私たち二人が自分たちのコミュニティと考えている世界でも、目に見えてその枠にあてはまるようには見えません。レズビアンのコミュニティだけでなく、もっと広い意味でのクィアコミュニティでもそうです。

私が性転換してからもう20年以上になりますから。時間の経過とともにますます男性らしく見えるようになっています。年も重ねました。もう若造じゃありませんが、心は今でもそうですよ」

Photo by Jess Dugan

ジャスティン・ヴィヴィアン(54歳)ニューヨーク

「自分のことはトランスジェンダーのノンバイナリー(女性と男性のどちらか一つには分類されないジェンダー)だととらえています。トランスジェンダーだというのはずっとわかっていて、女性側だというのもわかっていました。ジェンダーのスペクトルでいうと、かなり女性寄りです。

エストロゲン――私は『女性ビタミン』と呼んでいますが――の投与を始めたのは遅くて、40代後半になってからです。始めた理由の一つが、それが身体上、医療上、トランスジェンダーであることの履歴にもなるから。

LGBTが高齢になって、病気になったり心の健康が衰えたりして自分の意志をきちんと発信できなくなったとき、面倒をみてくれる人の憶測で、自分の意志でなくてもクローゼットに戻ってしまう、つまり本当の自分を隠すことになってしまうケースが本当に多いんです。

私が恐れていたのは、何らかの形で本当の自分でいることを奪われて、年のいった男性たちがあふれる場所に押し込められることでした。年のいった男性にはどうしてもなりたくありません。それは私じゃありませんから」

Photo by Jess Dugan

ハンク(76歳)、サム(67歳)アーカンソー州リトルロック

「昔はそうでしたが、私みたいな人は大勢いて、一般の人たちは私たちに『結婚していない親戚のおばさん』や『ファンシーボーイ(いわゆる男性的なタイプではなく、ファッションや身だしなみに凝る男性)』でいてほしかったわけです。そうすれば誰もさらに異議を唱えたりしませんでした。

父は言ってましたよ、この子は一生結婚しないんだろう、って。もし今そう言われたら、ああ、父は周りにうちの子はゲイだって言ってるんだな、とわかりますよ。当時は私もその言葉を知らなかったんです」(ハンク)

「ハンクと一緒になって44年になります。この人とはミシガン州で出会いました。それまでの人生で会った誰とも違っていて、この先の人生でずっと一緒にいるんだろうなと感じました。結びつきがすぐにできていたんです。その先もずっと続く結びつきが。今の二人の感じは、最初のときから変わっていません」(サム)


この記事は英語から翻訳・編集しました。翻訳:石垣賀子 / 編集:BuzzFeed Japan

Sarah Karlan is a deputy editor for BuzzFeed News and is based in San Francisco.

Contact Sarah Karlan at sarah.karlan@buzzfeed.com.

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