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「行きつけはラーメン二郎」ラーメン界のレジェンドに話を聞いたら、意外な答えばかりだった

「なにもこだわってない」って、どういうこと?

千葉県松戸に本店を構える「中華そば とみ田」は、早朝から長蛇の列を作る超人気店。ラーメンファンの間では伝説的な名店です。

業界最高の権威と言われる「TRYラーメン大賞」を4年連続受賞し、「殿堂入り」の歴史を作ったことでも知られています。

注文から5分ほどで出てきたのは、名物の「濃厚つけ麺」。おすすめの味玉も追加しました。

しっかりと角のある太麺が美しく盛り付けられています。スープがよく絡みそうです。

どろっとした濃厚魚介豚骨スープには、ゆずや魚粉が載っています。こってり感がたまらなく美味しそうです。

さっそく食べてみると、氷水でしめられたストレート麺は歯ごたえがしっかり。ザラッとした舌触りの濃厚なスープがよく絡みます。

魚介のだしが濃厚なこってりスープは雑味さえ感じる強めの味ですが、ゆずの爽やかな香りが鼻に抜け、後味はスッキリ。

見た目は重そうなのに、スルスル食べられちゃいました。めちゃくちゃ旨い!

とろっと半熟の黄身も手を抜いていません。これは絶対に追加するべき!

麺がなくなったら、最後は「スープ割り」でいただくのがおすすめ。出汁をしっかりと味わえる濃厚なスープで、体があたたまります。

あぁあああ、幸せ!


確かにめちゃくちゃ美味しかったのですが、全国・世界のファンたちを熱狂させるほどのつけ麺の秘密は、味だけではなさそうです。BuzzFeed Japanは、店主の富田治さんに話を伺いました。

素材には「こだわっていない」!?

「美味しいラーメンといえば、やっぱり厳選した素材にこだわっているのかな」と直感で思ってしまったのですが、富田さんに尋ねて返ってきたのは「そんなことはない」という意外な答え。

もちろん、日本中を周って気に入った食材を集めている富田さんに、食材のこだわりがないわけがありません。でも「とみ田」の本当の強みは、また違うところにあるようです。

富田さんは、ドキュメンタリー映画「ラーメンヘッズ」で、次のように話します。

「よく“企業秘密”とかやるじゃないですか。見せられないだけなんですよ。大して材料入ってなかったり、大したことしてなかったり。僕の場合は(中略)もう隠すものなんか何もないですよ」

映画の中では厨房の中までカメラが入り、スープの仕込みや麺作りまで、その裏側を余すことなく見せています。

出汁に使用する魚ひとつとっても、日本各地のマイワシ・カタクチイワシ・カツオなどさまざま。それぞれの特徴を活かし、香りや雑味を調整していると話します。

ここまでこだわりを見せたうえで「素材にこだわっていない」というのは、どういうことなのでしょう?

「今まで『とみ田』では、なんにもこだわってない食材でつくってきたんです。鶏も名古屋コーチンとかじゃなくて、普通のブロイラー。

高級食材よりむしろ、普通のラーメン屋さんが使っているものを、とにかく量をたくさん使うことで、濃厚に仕上げているんです」

豚の頭骨が浮かぶ大鍋を丁寧にかき混ぜる富田さんの姿はまるで「魔女」のよう。これでもかというくらい材料でいっぱいなのですが、「混ぜられるならもっと入れたいぐらい」と言います。

「洗練されたラーメンと言うよりはむしろ真逆ですね、意外とクラシックなラーメンだと思っています」


「自分が食べたい味」に正直になると、上品なラーメンではなくなった

さらに驚いたことに、富田さんは「うちのつけ麺は、苦手な人も結構いるんです」と言います。どろっとした濃厚なスープにはあえて雑味を残しており、万人受けする味ではないのだそう。

それでもこの味に辿りついた背景には、自分が食べたい味を素直に追求する姿勢がありました。

煮干しから出る雑味を残すのも、お腹がすいたときにはこういう味が食べたくなるという、富田さんの経験からのこだわりです。

「毎日自分のラーメンを食べていると、色々と気づきがあるんです。『もっとこういうのが食べたいな』って。そこに少しずつ修正を重ねてきた先に、このつけ麺があるんです。

例えば、うちは麺の『すすり心地』にもこだわっています。海外の人にはいつも驚かれるんですが、麺をすするのって、唇で感じるエクスタシーだと思うんです。それを追い求めた結果、ズルズルとしっかりすすれる、長めの麺になりました」

また、富田さんが尊敬する師匠・山岸一雄さんの影響もあるといいます。山岸さんは「つけ麺の生みの親」と呼ばれる、ラーメン界のレジェンド的存在です。

山岸さんがあまり繊細な味を作り込むタイプではなかったというのも、「とみ田」のつけ麺のルーツだと話しました。

結局、自分の好みの味を追い求めた結果「少しガサツで荒々しい、ワイルドなラーメン」が出来上がったと話します。

そんな自身のラーメン観の原点について、富田さんはこんなエピソードを聞かせてくれました。

幼いころ食べてたラーメンと言えば、親父が酔っ払って作るインスタントラーメンでした。こんな大きい鍋で、グッチャグチャになったやつです(笑)

それでも、ラーメンは物心ついたときから身近な食べ物でしたし、安くてお腹いっぱいにしたい時の味方でもありました。

なので僕もお金のない若者のために、ラーメンでお腹いっぱいにしてあげたいと思ってるんです」

賞や評価のためだけでなく、あくまで主観的に美味しくて、満足感のあるラーメンを作る。それが「とみ田」の魅力であり、戦い方なのです。


「安くてお腹いっぱい」は正義。洗練されていないラーメンのうまさとは

休日もラーメン屋めぐりをするという富田さん。様々なジャンルのラーメンを食べ比べて研究する一方で、お気に入りのお店に通うのも大好きだと話します。そんなお気に入りのお店の一つが、「ラーメン二郎」

「味はもちろんですが、『安くてお腹いっぱいになる』って、ラーメンの理にかなった部分があると思うんです。700円くらいで食べきれないほど出てくるじゃないですか。あれはすごいなぁって」

「殿堂入り」の称号を持つラーメン職人が味よりも量の話をしているなんて、ちょっと驚きです。

「あと、二郎は一人の店長が複数の店舗を持てないので、修行を積んだオーナーが常にいる。そういう人との交流も楽しいですね」

話を聞くうちに見えてきた富田さんのこだわりは、ラーメンの味だけではなく、「美味しいラーメンをお腹いっぱい食べる」という体験と、その満足感。

そんな富田さんの哲学が、全国のラーメンファンを惹きつけて止まない魅力なのかもしれません。


10年後の味は、きっと違うはず

もう10年以上、仕事もプライベートもラーメンづくしの富田さん。最後に、ラーメンに飽きることはないのか、聞いてみました。

「飽きないですね。実績を積み上げていくと同時に、未熟さにも気づきますから」

「お店では毎日、僕のベストの味を出しているつもりです。だからこそ5年後、10年後の僕の味覚はわかりませんし、味はどんどん変わっていくんですよね。

その時自分が美味しいと思う味を提供し続けることが、僕が厨房に立つ意義だと思っています」


富田さんに密着し、東京のラーメンカルチャーの奥深さを伝えるドキュメンタリー映画「ラーメンヘッズ」が、1月27日(土)に公開されます。

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