遺族が大変なだけの葬式やめませんか 「自宅葬」復活にかける思い

    古くて新しい、お葬式のかたち

    「ちゃんと泣ける葬儀、やりませんか?」

    一風変わった葬儀会社がある。遺族が大変なだけの葬式はやめて、もっと自由な。たとえば仕出しはカップラーメンでもいいから、ゆっくり故人を偲ぶお葬式。

    そんな新しい葬儀の形はないかと模索しているのが「鎌倉自宅葬儀社」だ。残された遺族があまり気を遣うことなく、とことん泣けるように。

    場所は「自宅」がいいそうだ。鎌倉自宅葬儀社代表の馬場翔一郎さんに葬儀の新潮流を聞いた。

    きっかけは、おじいさんの死

    馬場さんは13年間、フリーランスで葬儀ビジネスを経験してきた異色の人。長く葬儀に携わってきた馬場さんの価値観を揺さぶったのは、祖父の死だった。

    「業界に入って10年くらい経って、初めて親族の死に携わったんです。それまでは第三者が亡くなることは理解できるんですけど、親戚が亡くなったことがないので、遺族の気持ちがわからなかったんです」

    初めての喪主側での葬儀は式場で慌ただしく進められ、戸惑いもあったという。

    「葬儀を取り仕切ってわかったのは、遺族もしっかりお別れをしたいんだけど、寺やお客さんなどいろいろな方面に気を使うし、それどころじゃないんですね。僕も悲しんでいる暇はなく、これが喪主の気持ちなんだとやっと理解できたんです。これは結構きついなと」

    遺族が泣ける「自宅葬」というかたち

    結局、「ちゃんと泣けずじまい」のまま式が終わってしまったという。葬儀が終わって落ち着いて1週間ほど経ったころ、祖母たちと話をしている時に初めて、突然、涙がでてきた。

    「泣けるって、死を理解するというか、気持ちの整理がつくことなんです。気持ちいいじゃないですか。式の最中に涙を流せる葬儀をつくることができたら、それはすごい葬儀社だと思ったんです」

    泣くことによって心を癒やすことを「グリーフ・ケア」と呼ぶ。興味をもった馬場さんは、感動的な詩や映像作品などで意識的に涙を流しストレス解消を図る「涙活」(るいかつ)に参加するようになる。

    「最初は絶対に泣くものかと思った。でもある動画を見せられたんです。歌手・Kさんの歌で、MVにでてくるおじいさんが祖父そっくりでした。一気に泣いてしまった。つい自分に重ねてしまって…」

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    Sony Music / Via youtube.com

    涙活で上映されたKさんのMV。

    遺族がちゃんと泣ける葬儀。それはある種テンプレート化された式場の葬儀では実現できないのではないか。そう考えた馬場さんは「自宅葬」をオーダーメイドで提供するビジネスを思いつく。

    葬式はゆっくりでいい。もっと自由でいい。

    馬場さんが提案する自宅葬の特徴の1つが、約1週間という葬儀のスケジュールの長さだ。式場で行う一般的な葬儀は、葬儀社や会場の都合もあり、多くの場合4日程度ですべての行程を終わらせるという。

    一方、馬場さんは遺族から葬儀の依頼があった場合、まず「今日は何もしないでください」と伝えるそうだ。

    「何もしないで、一旦考えを整理してもらう。亡くなったことを理解し、冷静になる時間がないと、何が何だかわからない心理状態でお金の話をしなければいけなくなる」

    ゆっくりヒアリングすることで、葬儀を思い出深いものにするための演出ができるという。例えば過去には、好きだった童謡をピアノで演奏しながら出棺したり、通夜の最中にサプライズで故人へのバースデーケーキを用意したこともあった。

    馬場さんの願いは、葬儀にかけるお金の金額ではなく、意味のある使い方を考えてもらうことだという。

    「鎌倉自宅葬儀社がターゲットとして考えていたのは、ベンツに乗る人よりも、プリウスに乗る人。かっこよさや見栄よりも、性能を重視する人。極端な話、仕出しはカップラーメンでもいいんです。故人を偲ぶものであればなんでも」

    葬式はあくまでも遺族のためのものという原則が、馬場さんの考え方の根底にある。

    自宅葬は選択肢の1つ。6畳一間でもできるシンプルな家族葬のイメージを広めていきたいと馬場さんは語った。

    「葬式は要らない」というのは寂しい

    もともと日本の葬儀は自宅葬が当たり前だった。1980年代以降、都心部では住宅問題や地域との連携の難しさから自宅葬が廃れ、代わりに式場での豪華な葬儀が一般的になった。

    そこから徐々に「高額な葬儀は無駄」という風潮が進み、葬式は要らないという発想のもと、とことんシンプルな「直葬」というトレンドが生まれた。これは葬儀をしない「火葬のみ」のスタイル。2014年の鎌倉新書の調査では、関東圏における直葬の割合は20%を超えているという。

    しかし馬場さんは、行き過ぎた簡略化には賛同しない。

    「金銭的な理由は別として、葬式は無意味なものだから燃やすだけでいいよっていう感覚は、やっぱりわびしい。亡くなった方を偲ぶことができないと、弔いきれずに後悔すると思うんです」