• lgbtjpnews badge
  • lgbtjapan badge

「同性婚がなくても一緒に居られればそれでいい」と、かつて僕も思っていた

結婚に無関心だったゲイ男性が、オーストラリアで同性パートナーと結婚を決めた。パートナーとの危機を経て見えてきた、同性婚の必要性とその「わかりにくさ」とは。

今年2月、同性婚の法整備を求める全国13組の同性カップルが国を相手取って一斉に提訴した。今後、4つの地裁で裁判が本格的に始まる。

結婚の平等を求める裁判は大きなニュースとなり、原告の弁護団が中心となる団体 「Marriage For All Japan」の署名には、3万人を超える賛同が集まった。

一方、法的な婚姻制度がなくても、同性カップルが一緒にいられればそれで良いではないかという当事者の声があったのも事実だ。正吾さん(@mrgayjapanshogo)も、かつてそう考えていた当事者の一人だ。

二人が互いを思う気持ちを持っていればそれでいい。と、思っていた

正吾さんは2017年の終わり、学生時代を過ごし、教員として働いていたオーストラリアから日本に帰国した。東京都内の学校で働くことになり、埼玉の実家に戻ったのだ。同時に、6年間交際していた同性のパートナーとは遠距離恋愛になってしまった。

パートナーのジェフさんは4歳年上のITエンジニアで、オーストラリア・ブリスベンでアプリを通じて出会った。二人で家も購入し、ずっと一緒にいるつもりだった。

正吾さんがオーストラリアを離れてしばらくの間、二人は毎日連絡を取り合っていた。しかし2018年3月、正吾さんに、ある転機が訪れた。

ゲイのミスターコンテスト「MR GAYJAPAN(ミスター・ゲイ・ジャパン)」の初代日本代表に選ばれたのだ。教師としての仕事をしながら、日本代表としての活動をこなす生活が始まる。南アフリカである世界大会の準備で多忙を極めるなか、ジェフさんとの連絡が難しくなっていった。

「元々、日本で1年くらい仕事をして、オーストラリアに帰ろうと思っていたんです。でも、ミスター・ゲイ・ジャパンとしての活動に手応えを感じるようになってしまって。

初代ということもあって、それがどうなるのかか自分でも分からなかったから、彼に『いつ帰ってくるの?』って聞かれても『わからない』としか答えられなかったんです。

そうこうしているうちに、向こうも不安になってくるじゃないですか。結局彼は『正吾は日本にいた方が幸せなんじゃないか』って言い始めて。お互いなかなか正直な気持ちも言わないから、どんどんこじれちゃったんですよね」

6月、オーストラリアへの一時帰国を予定していた前日。ジェフさんから電話で別れを切り出された。渡航はキャンセル。6年間の交際が、突然終わった。

「別れることが決まった後、二人で共有財産として持っていた家を分けるため、互いに弁護士を立てて話をすすめることになりました。

それから、2カ月くらいはめちゃくちゃ荒れてしまって。もう、毎日酒を飲んでは泥酔していましたね。このままだと身体がダメになるなと思いました」

ジェフさんがいないと、自分が自分でいられないと痛感した正吾さん。思い切って電話で気持ちを打ち明けた。お互い頑固で言えなかったが、彼も同じ気持ちだとわかった。

すぐにオーストラリアに飛んで、二人で話し合った。なんとか復縁できた時、初めて結婚について意識したという。

「それまで結婚は全然考えていなくて、法的に繋がりがなくても、二人が互いを思う気持ちを持っていればいいという考え方でした。

だけど、離れ離れになった時に何かしらの法的な繋がりがあれば、責任も発生するし安心感もあるし、ここまで関係がこじれなかったんじゃないかと思ったんです」

関係をつなぎとめるものがないということ

オーストラリアでは同性婚が2017年に合法化されている。まだ正吾さんが現地にいた同年11月に、国民投票が行われた。

正吾さんはオーストラリアの永住権を持っているが、投票権はない。当時は議論の様子を見守る他なかった。国民の61.6%が賛成、38.4%が反対に票を投じた。

当事者の一人として社会の変化を喜びはしたが、ジェフさんも正吾さんも、あくまで他人事として考えていたと振り返る。

「もうずっと一緒に住んでいたし、僕たちはわざわざそういうセレモニー的なことをしなくてもいいんじゃないかって感じでしたね。

それでも関係が良好で、ハッピーな時はいいんです。でも、一度裂け目が入ると、止まらなくなってしまう。そういう時に、公的な証明書が絆創膏みたいに止めてくれるのかもって思いました。ビリビリ破れていく関係を見ながら、自分には止めるものがなにもないと感じました」

正吾さんは先月、2019年のミスター・ゲイ・ジャパン最終選考会のスピーチの場で、ジェフさんにプロポーズをした。答えは優しいハグだった。二人はこの夏、オーストラリアで結婚の届け出をする予定だ。

正吾さんとジェフさんが直面した問題や結婚観の変化は、同性カップルに限ったことではなく、多くの異性愛者のカップルも経験することだ。

しかし、「絆創膏」が必要だと感じた時に、同性カップルにはその選択肢がないこともある。

例えば、日本を含むアジアの多くの国では、同性婚が認められていない。

課題は「同性婚反対」ではなく「無関心」

オーストラリアでも、同性婚の合法化は簡単な道のりではなかった。最終的に2017年の国民投票でさえ、反対が70%を超える地域があった。

多民族国家のオーストラリアでは、宗教的理由で同性婚合法化に反対する人も多く、教会が経済的な後ろ盾となって反対キャンペーンをしていた。正吾さんは当時を振り返る。

「当時は賛成キャンペーンと反対キャンペーンの盛り上がりがすごかったです。反対キャンペーンは資金が潤沢で、テレビCMもさかんにやっていました。

子どもの為と謳うものが多かったですね。僕が見た中で一番驚いた、同性婚を認めたら学校でアナルセックスの仕方を教えるようになるという広告でした。

僕は公立の学校で8年間教えてきましたが、そんなカリキュラムは見たことがありませんでしたし、職員室でも話題になっていました。でも信じちゃう人もいるのかもしれませんね」

日本では国レベルの法整備は進んでいないが、地方自治体レベルでは、同性パートナーシップ制度を導入する地域が広がっている。法的効力はないものの、大きなステップとして支持する声は多い。

正吾さんが住む埼玉県にはそうした制度がないが、あれば利用するだろうと話す。

「ただ、そのためにはパートナーも在留資格を持って日本に来なきゃいけないので、国として認めてもらえると将来の選択肢が増え、非常に助かります」

電通ダイバーシティ・ラボが今年1月にまとめた大規模調査「LGBT調査2018」によると、「同性婚」の合法化に賛成する人は、全体の78.4%。婚姻の平等化に追い風が吹いているように思える。では残る課題はなにか。

「個人的に感じている範囲では、日本では同性婚に反対している人はそこまでいないと感じます。むしろ多いのは無関心だと思います。自分に関係がないから、興味がないという人たちですね。だからそういう関心のない人の興味をいかに引くかが日本の課題だと思います」と、正吾さんは言う。

実際、正吾さんもそんな「無関心」な当事者の一人だった。

「日本で同性婚を実現するための活動について、僕もニュースを見てましたが、あまりリアリティを持って自分ごととして考えていなかったです。

例えば今回の訴訟の原告13組にも、きっとそれぞれ結婚が必要な理由があるわけですよね。パートナーが外国籍で家族として在留資格を認めてほしいとか、持病があるだとか。そういうニーズを理解するには、自分がその立場にならないと難しい。僕は今になって、その必要性が痛いほどわかります」

同性婚に際し、異性婚とは違う特別なニーズがあるというケースは少ない。だからこそ、いざという時に不平等が浮き彫りになる。

「結婚しなくても幸せになれる時代」と言われる現代。その前提には、結婚する自由が必要だと、多くの当事者が考えている。


BuzzFeed Japanは東京レインボープライドの公式メディアパートナーとして、2019年4月22日から、セクシュアルマイノリティに焦点をあてたコンテンツを集中的に発信する特集「レインボー・ウィーク」を実施します。

記事や動画コンテンツのほか、オリジナル番組「もくもくニュース」は「もっと日本をカラフルに」をテーマに4月25日(木)午後8時からTwitter上で配信します(配信後はこちらからご視聴いただけます)。また、性のあり方や多様性を取り上げるメディア「Palette」とコラボし、漫画コンテンツも配信します。

4月28日(日)、29日(月・祝)に開催されるプライドフェスティバルでは、プライドパレードのライブ中継なども実施します。