
日本の漫画っぽいけど、どこかアメコミっぽい雰囲気もあるセーラームーンのイラスト。
このイラストを描いたのは、大阪生まれ・カナダ育ちのアミ・トンプソンさんだ。現在、ウォルト・ディズニー・スタジオでアニメーターとして働いている。
「セーラームーンがとにかく大好きで、子供のときからセーラームーンばっかり見ていました」
そんなアミさんが東京を訪れたタイミングで、話をきいた。
高校生の時、スタジオジブリが教えてくれたこと
高校はカナダのアートスクールに通っていたアミさん。進路について考えたときに、幼い頃から大好きだったアニメの世界に興味を持ったという。
「その頃は『どんな業界なのかな』とか『スタジオ見学してみたいな』とかいろいろ考えていたんですが、憧れだったスタジオジブリにポートフォリオを送ってみたんです。

運良く、短い研修みたいな感じで、アニメーションについて教えてもらえる機会をもらえました」
「スタジオに初めて入って自分の席に座ったときに、(宮崎)駿監督がいきなりぱっと現れたんです。それが最初の出会いだったんですが、ほんとにびっくりしました!
スタジオにはアニメーションテーブルっていうのがあるんですけど、駿監督が『ライトはこうなっているよ、紙と鉛筆はここにあるよ』って一通り説明して『じゃあ、楽しんで描いてね』って。本当に優しい方でした」
高校生にして経験したスタジオジブリでの研修は、アニメの世界について何も知らなかった彼女にとって大きな刺激になったそうだ。
「『ハウルの動く城』の作画監督をされていた稲村武志さんがついてくださって、動画の書き方とか、色々学びました。
10 years ago today, my amazing mentor Takeshi Inamura @altamontagna170 still inspires me. He made me into who I am today! Thank you for everything!
その時ジブリでは『崖の上のポニョ』を制作していたので、勉強のためにポニョを描かせてもらったりもしました」
彼女は以前応えたインタビューの中で、稲村監督との会話が忘れられないと話していた。
アミさんが「崖の上のポニョ」に登場する宗介の動画を書いている時、何気なく描き込んだ前髪の線を見た稲村さんが「どうしてそこに線を描いたの?」と訊いた。
「なんでそんなことを言うのか解らなかったんだけど、彼が言ったのは、すべての線には意味があるということでした」
ただ線を描くだけでなく、一つ一つの線がなぜそこに描かれるべきなのか、理解し・説明できなければいけないということだった。
「今でも絵を描く時はいつも、その言葉を思い出します」
ジブリで刺激を受けたアミさんは、アニメーションの名門であるシェリダン大学に進学し、マイクロソフトやディズニーでのインターンを経験した。東京でアニメーターとして働いたあと、ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオに移った。

アメリカと日本、両方のアニメーション制作現場を見てきたアミさん。日本で得た知識や経験は、彼女の強みになっているようだ。
「デザインに日本の要素を入れたりすることもあります。例えば『シュガー・ラッシュ:オンライン』でデザインしたキャラクター・シャンクは、この形になるまでにいろんなバージョンがあったんです。そのなかに例えば忍者のシャンクがいたりとか。
あと、インターネットの世界のデザインには、東京の忙しい街のイメージがインスピレーションになりました」

一方で、2国のアニメーション制作の本質は同じだとも感じている。
「表現のスタイルは違いますが、日本でもアメリカでも、求めているものはみんな一緒だと思います。できるだけいいものを描きたい、いい作品を作りたいって」
描き続けたら、夢がかなった
現在公開中の「シュガー・ラッシュ:オンライン」で、アミさんはキャラクターデザインのアートディレクションを務めた。
ゲームの世界のキャラクター達が冒険を繰り広げる「シュガー・ラッシュ」の続編で、ピクサーらしく、大人も子供もわくわくする物語だ。
実は今回の作品は彼女にとって、とても思い入れのある作品なのだという。

2012年、学生としてディズニーでインターンをしていた時、スタジオでは前作「シュガー・ラッシュ」を制作中だった。
「その時は2Dアニメーターとしてのインターンだったんですが、会議に潜り込んでいたら監督がお話されていて。いつかこの監督さんとお仕事したいなと思っていたら、今回本当に仕事がきたんです。夢がかなった瞬間でした!」
「夢がかなった」と聞くと、どうしてもその秘訣を知りたくなる。
アニメーターとして、順風満帆なキャリアを歩んできたように見えるアミさん。どのように高いモチベーションを持って夢を叶えたのか、聞いてみた。
「あまり賢いことは言えないんですけど、私は子供の頃から絵を描くことが大好きなので、常に『絵を描きたい、描きたい!』って思っているんですよね。
あとはやっぱり、私の周りのアーティストの作品や、映画鑑賞とかTVゲームとか、常にいろんなものを見ていると、もっともっと描きたいっていう気持ちになります」
あまりに素直な答えに、少し戸惑ってしまった。本当に好きなことでも、大きな夢が叶うまで続けるのは、簡単ではないはずだから。
「手が止まっちゃうこともあります。そういう時は外出ですね。それからもう、好きなものを食べまくります。食べて食べてお腹いっぱいになったら、また描きたくなってきますから」
彼女はそう言って、清々しく笑った。

インタビュー中は終始、描くのが好きで、楽しくてたまらないというアミさんの静かな情熱が伝わってきた。
「好きなことは仕事にしないほうが良い」なんてアドバイスを聞いたことがある。あれはきっと嘘だと思った。