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著名人ががんを公表する度に起きる騒ぎ がん経験者としてお願いしたいこと

アスリートや著名人も、一人の人間。「同じ立場に置かれたら」を想像してみてほしい

今回、この原稿の依頼をいただいた際に、お受けすべきか悩みました。仮に、白血病であることを公表された競泳選手の池江璃花子さんに関して記すならば、「これからも温かく見守っていただけると嬉しいです」とのご本人のコメントが全てです。

タレントの堀ちえみさんも舌がんであることを公表しました。

池江さんや堀さんの回復を願い「温かく見守ること」が私たちにできることであり、これ以上記すことはありませんし、記すべきでもないでしょう。

Torwai / Getty Images

がん患者が何を望んでいるのか知ってほしい

しかし、「著名人ががんを公表するたびに、同じことが繰り返されているので原稿を書いてほしい」との依頼に、個々のがん患者が何を思い、何を望んでいるのかということについてはお伝えしなければならないかもしれないと考えました。

以下の原稿は、27歳で血液がん(悪性リンパ腫)を発症し、自身の経験をもとにがん患者団体に関わってきた立場から考えたことです。

がんと告げられたら、誰でも受けるショックと気分の波

私ががんに罹患したおよそ20年前と比べるとがん治療は進歩し、より多くのがん患者に治癒が期待できるようになってきました。

Shinsuke Amano

血液がんを発症する3年ほど前。まさか自分が20代でがんを患うとは考えたこともなかった

しかし、20年前とあまり変わらないと感じるのは、がんと新たに告知された際の患者の「心」です。「AYA(Adolescent and Young Adult)世代」とよばれる10代から30代の思春期・若年成人のがん患者を対象とした調査(※1)をご紹介します。

「総合的な思春期・若年成人(AYA)世代のがん対策のあり方に関する研究」

思春期、若年成人のがん患者は様々な悩みを抱えている

「相談したかった悩み」として「診断・治療のこと」「後遺症・合併症のこと」といった治療に関する悩みに加えて、「経済的なこと」「今後の自分の将来のこと」「仕事のこと」「家族の将来のこと」「生き方・死に方」「自分らしさ」「セックスのこと」「恋愛のこと」「結婚のこと」「学業のこと」といった多くの項目が並びます。

世代や環境が異なれば、当然悩みは変わるでしょうし、個人個人で異なる悩みがあるでしょう。がん患者はときに多くの悩みと向き合いながら、様々な意思決定を行い、がん治療を受けていますし、中には適応障害やうつ状態となる方もいます。

これは決して個々のがん患者が「精神的に弱い」とか「前向きに頑張れば解消される」というものでもなく、人が強いストレスに晒されたときに生じる「人として当然の反応」です。

私ががん告知を受けた際には「頭が真っ白」になりました。病名を告げられる前の病院の風景、医師や看護師のしぐさや表情はよく覚えていますが、告げられた後の記憶はあまりありません。

最初の1週間くらいは「何かの間違いではないのか」「悪い夢でもみているのではないか」などとぐるぐる考えていました。次は「なぜ若い自分が」「生活習慣が悪かったのだろうか」「遺伝的な原因があるのだろうか」などとも考えました。

いよいよ「自分はがんであり、治療を受けなければならないのだ」と受け入れるのに1ヶ月くらいかかりましたが、その後も気分の波が数えきれないくらいありました。

「こちら側」と「あちら側」の境界

多くの家族や友人たち、職場の同僚や上司がお見舞いにきてくれました。皆が自分の回復を祈ってくれているのを感じましたし、励まされもしました。多くの人々の支えなくして、今の自分はありません。

しかし、どうしても「こちら側」と「あちら側」の境界を感じずにはいられませんでした。自身は5年生存率50%と告げられて「死を意識せざるを得ないこちら側」にいると感じましたが、同世代の友人たちは「人生に夢や希望があるあちら側」にいるのだ、と感じずにはいられませんでした。

Natasaadzic / Getty Images

「こちら側」と「あちら側」に境界線を感じずにはいられなかった

「頑張りなさい」と家族に言われても、「がんになれば普通は頑張るよ」と思いましたし、「人は皆いずれ死ぬんですよ」と医療者に言われても、「あなたががんになっても同じことを言えるのだろうか」と思いました。

皆の「善意」に囲まれているのに孤独だと感じることもありましたし、そのように思うことしかできない自分が嫌になり、自身を消し去りたいと思うこともありました。

そんなとき、同じ経験をしたがん患者の存在は大きな力になりました。「自分は決して1人ではない」と感じることが出来ましたし、彼ら彼女らが語る言葉の一つ一つが参考となり、今も変わらず私を支える力となっています。

しかし、患者からの言葉に傷つくこともありました。病棟は高齢のがん患者さんが多く、「若いのにがんなんてかわいそう」「若いとがんの進行が早くて大変でしょう」「人生が短くても充実して生きることは出来るのだから、あなたも頑張りなさい」などと声をかけられました。

同じがん患者であっても背景が異なると共感ができなかったり、むしろ傷つけてしまったりする場合もあります。医療者の心無い言葉に傷つくこともあります。がん患者の精神心理的な苦痛に対する理解と支援は未だ不十分です。

「普段通りに」 どのように接すればよいのか問われたら

このような思いを語ると、「ではがん患者に周囲はどのように接すればよいのか」とよく尋ねられます。私は「個々の患者で異なるでしょうし、自分の場合は」と前置きしたうえで「普段通りに接してくれたことだった」と答えます。

皆が自分のことを「がん患者」という目線で見るようになり、周囲との繋がりも失われてしまうかもしれないという不安の中で、がんになる前と変わらずに接してくれた友人たちの存在は、「自分には戻るべき場所があるのだ」「そこに戻るために頑張りたい」との力を与えてくれました。

「働く世代のがん経験者が、自分たちだからこそできることを模索し、形にしていくソーシャルデザインプロジェクト」として活動する「ダカラコソクリエイト」では、がん経験者がかけてもらって「嬉しかった言葉」「支えられた言葉」をLINEスタンプにしています(※2)。

ダカラコソクリエイト

「話きくで」「待ってるで」などがん経験者がかけてもらって嬉しかった言葉をスタンプにしている

ダカラコソクリエイト

「がんばりすぎやで」「頼ってくれてええんやでっ」などが支えられた言葉

それぞれの言葉にはエピソードがあり、それをそのまま使うことはできないかもしれません。

しかし、共通しているのは「患者を助けたいという自分の善意や価値観を患者に押し付けないこと」ではないかと思います。

代替医療、宗教、押し付けはやめて

「押し付け」という点では、「この病院を受診すべき」「この治療を受けるべき」という提案や、科学的根拠が明らかでない代替療法などを勧められる場合もあります。

Shinsuke Amano

2年前にも再発を疑い、開腹手術をして検査するために入院をした。周りが普段通りに接してくれることが一番ありがたかった

患者の回復を願ってのことでしょうし、私も経験がありますが、相手の「善意」がわかるだけに断るのがとても難しく、率直に言って非常に困ります。個々の患者で病態や治療は異なりますし、治療の妨げとなり命に関わる場合もあります。

私が治療中に同じ病室のがん患者さんが宗教の勧誘をされていましたが、断ると「このがんですぐに死ぬことになりますね、残念です」と言って帰っていきました(その患者さんは変わらずお元気です)。

このような「押し付け」に直面するのは、患者の家族も同様です。私が治療中に一番堪えた言葉は、「こんな身体に産んでしまって、ごめんなさい」という母の言葉でした。

私ががんに罹患したのは、母が悪いわけでも誰が悪いわけでもないのですが、根拠のない押し付けや呪いに、がん患者だけでなく家族も苦しめられることがあります。「家族は第2の患者」という言葉があるように、家族の精神的な苦痛は患者と同等もしくはそれ以上であるとの研究結果もあります。

アスリートや著名人も一人の人間

私は2回の再発を経て、当時の私の場合、5年生存率は10~20%程度であるとされました。将来への見通しが立たず、強い治療を受けながらベッドの上でぐったりしているときに、なんとなくつけたテレビの画面に、アスリートが力強く走る姿が映っていました。

Lzf / Getty Images

私たちはアスリートや著名人が戦う姿に励まされるが、彼らも一人の人間であることを忘れてはならない

ベッドの上で、涙が止まらなくなりました。理由は今でもよくわかりませんが、自身の姿を走り続けるアスリートに重ね合わせていたのかもしれません。自分も前を向いて頑張ろうと、強く思いました。

私のように、アスリートの姿に励まされる人はたくさんいるでしょうし、著名人が自身のがんを公開してがんに立ち向かう姿から力を得る人もたくさんいるでしょう。

しかし、彼ら彼女らはアスリートや著名人であると同時に、1人の人間でもあります。アスリートや著名人に対する私たちの期待は、私たちの勝手な期待でしかなく、守られなければならないのは、1人の人間としての本人の希望です。

著名人ががんを公開するたびに過熱した報道が繰り返され、興味本位の内容や憶測が飛び交い、ときに「壮絶」や「前向き」「悲痛」など様々な「修飾語」が患者や家族に押し付けられてきました。

皆さんが18歳の時を想像してほしいのです。何となく体調が思わしくなく、病院を受診したら白血病であると診断され、医師から病態や治療について説明を受けて、直ちに入院治療に入らざるを得ない状況に置かれたら――。あなたなら、どのような気持ちになるでしょうか。

皆さん自身や皆さんの大切な人ががんと診断され、メディアで個人の病状について論評されたら、どのような気持ちになるでしょうか。

私たちは病に直面した著名人の皆さんを、1人の人間として心から応援したいと思います。そして同時に、報道される著名人以外にも、今この瞬間にがんや様々な病と向き合っている人々のことも、同じく応援してください。

過熱した報道を目にして傷つけられている患者や家族がいることも、ぜひ知っていただきたいと願います。

(※1)
厚生労働科学研究費補助金がん対策推進総合事業「総合的な思春期・若年成人(AYA)世代のがん対策のあり方に関する研究」平成28年度総括・分担研究報告書(研究代表者・堀部敬三)

(※2)がん経験を新しい価値に変えて社会に活かす「ダカラコソクリエイト」

LINEスタンプ「癒し忍法ニャ助とパ次郎」

【天野慎介(あまの・しんすけ)】一般社団法人全国がん患者団体連合会理事長

2000年、27歳のときに悪性リンパ腫と診断され、化学療法、放射線療法、自家末梢血細胞移植を受ける。2回の再発を経験し、再発時の治療による間質性肺炎や進行性網膜外層壊死などの合併症を経験。自身の経験をもとに悪性リンパ腫の患者団体「グループ・ネクサス・ジャパン」の活動などに関わる。

現在、一般社団法人全国がん患者団体連合会理事長、一般社団法人神奈川県がん患者団体連合会理事長の他に、厚生労働省「厚生科学審議会がん登録部会」「先進医療技術審査部会」「今後のがん研究のあり方に関する有識者会議」「小児がん拠点病院の指定に関する検討会」委員などを務める。