• lgbtjapan badge

台湾で「同性婚が否決」はどこまで本当か?

台湾の投票結果から考える日本のLGBT運動のゆくえ

台湾でLGBTに関する5件の国民投票が実施

10月24日、台湾で統一地方選挙が行なわれ、与党・民進党の大敗が伝えられました。同時に台湾では、選挙に合わせて10件、事実上の国民投票にあたる公民投票が実施されました。

AFP=時事

台北で、統一地方選の投票のため長い列をつくる台湾の人々(台湾・台北、2018年11月24日)

台湾では2017年12月に「公民投票法」が改正され、公民投票の発議や成立要件が大幅に緩和。全国投票の場合、直近の正副総統選挙の有権者の1万分の1が発議に賛成するか、同1.5%の署名が集まれば実施できます。

2016年に行なわれた総統選挙の有権者数から推算すると、1879名の賛成で発議、28万筆の署名で公民投票を実施することが可能です。署名は公民投票の主務官庁である中央選挙委員会が構築する電子システムで行なわれ、比較的容易に集められます(電子政府化スゴい)。

こうした要件の緩和もあって今回、10件の公民投票が「乱立」したわけですが、じつに5件がいわゆるLGBTにかかわるものでした。

そのうち同性婚にかんする投票結果について、メディアで「同性婚合法化は住民投票で否決、『アジア初』実現せず」などと報じられ、一部の読者に混乱が生じているようです。「え、台湾で同性婚ができると聞いていたけど、不可になったの?」と。

今日はこの同性婚についての投票結果について考えてみたいと思います。

LGBTに関して何が俎上に載せられたか?

LGBTにかんする投票はつぎの5件です(台湾外務省のニュースサイト「TAIWAN TODAY 」より。訳語を一部修正)。

  • 民法が規定する婚姻要件が一男一女の結合に限定されるべきであることに同意するか否か。
  • 義務教育の段階(中学および小学校)で、教育省および各レベルの学校が児童・生徒に対して「ジェンダー平等教育法施行細則が定めるLGBT教育を実施すべきではないことに同意するか否か。
  • 民法の婚姻に関する規定以外の方法で、同性カップルが永続的共同生活を営む権利を保障することに同意するか否か。
  • 民法の婚姻に関する規定が同性カップルによる婚姻関係を保障することに同意するか否か。
  • 「性別平等教育法」が義務教育の各段階でジェンダーの平等に関する教育を実施するよう明記し、かつその内容が感情教育、性教育、LGBT教育などに関する課程を盛り込むべきだとすることに同意するか否か。


はじめの3つは、LGBT施策に反対する人びとによって申請されたもので、あとの2つは、それに対抗するために、あとからLGBT団体らによって呼びかけられ、申請されたものです。

同性婚は動かないが、民法ではなく別法を選択することに

こうした投票が発議された前提として、台湾では2017年5月24日、司法院(最高裁判所)の15名からなる大法官会議によってつぎのような決定が出されました。

  • 民法(第4編親族の第2章婚姻)は、性別を同じくする両名については、共同生活を営む目的のために、親密性と排他性ある永続的な結合関係を成立させていない。それは中華民国憲法第22条が保障する人民の結婚の自由、および第7条が保障する人民の平等権の趣旨に反している。
  • 関係機関はこの解釈公布の日から2年以内に、この解釈の趣旨に従って(民法など)関係法を改正するか新法を制定するべし。どちらを選択するかは立法機関の裁量に委ねる。
  • 2年以内に法令が制定されない場合は、同性の2人も、民法の婚姻規定に従って証人2名が署名した書面を持参すれば、自治体窓口等で婚姻を受理しなければならない。

鈴木賢・明治大学教授の訳より作成)


つまり台湾の最高裁は同性の婚姻が認められていないことを憲法違反とし、2年以内に民法改正か新法制定による是正を立法機関に命じたというわけです。これは最高裁の決定であり、覆すことはできません。

時事通信

台北のLGBTパレードで、同性婚への支持を訴える参加者(2018年10月27日)

そこで同性婚反対派は、民法の婚姻は一男一女に限るべきで、同性婚は別法で行えという戦略に出たわけです。それに対し推進派は、同性間の婚姻も民法に規定せよという対抗案を発議しました。

結果は、ダブルスコアの大差で、同性婚は別法という選択に。「LGBTフレンドリー」といわれた台湾の民意が、じつは同性婚に抵抗があったということが明らかになり、当事者団体をはじめ多くの人びと(日本も含め)が衝撃を受ける事態となりました。

もう一つのLGBTをめぐる提案である、学校教育でLGBTを取り上げることについても反対票が上回り、同様の状況が伝えられています。

公民投票は、2年以内は同趣旨の再発議ができないとともに、政府はその結果を尊重することが義務付けられています。開催が投開票の翌日にあたった南部・高雄でのLGBTプライドパレードは、沈鬱な雰囲気に包まれたといいます。

ただ、今後どのような別法が制定されるかはまったく未定で、一部には国会での成立を危ぶむ観測もあり、そうなると大法官会議決定により2019年5月以後は自動的に民法で同性婚を受理しなければならず、情勢はなお予断を許しません。

単純に「左派・リベラルの挫折」と言いきれるか?

まずは台湾で、法形式は未定ながら同性間の婚姻が合法化されることは押さえたうえで、公民投票で同性婚やLGBT教育にネガティブな民意が示されたことは、本欄でこれまで論評してきた日本のLGBT運動になんらかの示唆や影響を与えるでしょうか。

本稿では、2つの論点を考えてみたいと思います。

一点目の論点は、「リベラル路線にノー」などと伝えられている台湾の選挙結果でもって、日本のLGBT運動を批判する論法はありやなしや、です。

「LGBTのにわか盛り上がりとリベラル系メディアで調子に乗っていては、届くのは社会の表層だけ。社会に幅広い存在の保守に伝わる言葉で対話を重ねなければ本物の成果はない。台湾の結果がその証左だ」というわけです。

しかし、これには3つの点から考えてみる必要がありそうです。

一つは、LGBT運動はとかく「リベラル左派」と位置づけられがちですが、台湾では、リベラルの一手専売でも最近の急な高まりでもないということです。

大陸中国との違いを際立たせ、1971年の国連追放以後、国際社会で失ったプレゼンスを回復するために、2000年代から国民党も民進党もLGBTの人権運動に注目したという経緯があります。

台湾の政治エリートの多くが欧米留学経験者で、エイズ禍がようやく収束してあらためて盛んになってきた同性愛者やトランスジェンダーの運動に触れていたという背景もあるでしょう。

当事者の側も、87年の戒厳令解除・民主化のなかで、粘り強い運動を続けてきました。

上述の大法官会議の決定は、祁家威(チー・チアウェイ、き・かい)さんの憲法解釈請求に対して出されたものですが、彼はオープンなゲイとして早くも1986年に立法院(国会)に同性婚を請願。

その後、撥ねつけられても撥ねつけられても、国会や法務省へ請願を続け、98年と00年には台北地方裁判所へ提訴しました。

台湾のオンラインニュースサイト「風傳媒」より / Via today.line.me

台湾LGBTコミュニティの至宝、祁家威さん。投票結果にめげず、「ゲイ運動の先駆者 祁家威さん、若い人を励ます:30年来、同性愛に反対する人はだんだん減ってきた。未来はきっともっとよくなる!」

13年には台北市万華区役所へ婚姻届をして不受理になり、これを提訴。最高裁まで争い、敗訴が決まって司法院へ解釈請求をし、ついにこの大法官決定を引き出したという、台湾LGBTコミュニティのレジェンドともいうべき人です。じつに30年の闘い、昨日きょうの話ではありません。

こうした特筆すべき活動のほか、つとに2004年にはジェンダー平等教育法が制定、学校での性的少数者への差別を排除する取り組みが進められ、2003年には台北プライドパレードも開始。今年は13万7千人の参加がありました。

2015年には日本同様、地方自治体での同性パートナー公認制度が始まって大都市につぎつぎ広がっています。

豊富な資金力で仕掛けられたキリスト教右派のキャンペーン

二つには、とはいえ、ダブルスコアの大差で示された民法婚へのアレルギーはなんなのだ? という疑問がわきます。

そこで今回注目されるのが、同性婚反対を訴える宗教右派、とくに米国でトランプ政権の強力な支持者であるキリスト教福音派が行なったキャンペーンです。

宗教右派は2013年に同性婚や性的少数者への反対を唱えて「台湾宗教団体愛護家庭大連盟」(略称:護家盟)を結成、蔡英文総統(FBで同性婚支持を表明)誕生と立法院での政権交代を実現させた2016年の選挙でも活発な反LGBTキャンペーンを展開しました。

台湾宗教団体愛護家庭大連盟

2016年時の反対派のステッカー。「民進党は「同性愛者に結婚の権利がある」と主張しています。民進党が立法院で過半数をとれば、台湾はゲイの島になる。ご一緒に台湾を守りましょう」と。

今回も人びとの変化を恐れる心情を巧みにつき、民法の婚姻の定義を「一男一女」に限定させることに成功しました。

米国ではもともと結婚を一男一女に限定し各州に同性婚を却下する権限を与えた連邦「結婚防衛法」があったところ、それが違憲とされ(2013年)、全州で同性婚の合憲化(2015年)をもたらしました。宗教右派はいわばアメリカの仇を台湾で討ったかっこうです。

そのキャンペーンに注ぎ込まれた圧倒的資金力は、たしかに票のゆくえを左右したのかもしれません。民間宗教(道教)についでキリスト教徒の多い台湾で、こうしたキャンペーンは力をもちましたが(韓国も同様)、統一教会などのキリスト教右派が日本でどこまで影響力を発揮できるか、正直わかりません。

三つには、たしかに「民意」は民法の婚姻を一対の男女に限定し、同性へ門戸を開きませんでしたが、数が上回ればそれが正義なのか、人権にかかわることを多数決で決めていいのか、という点です。そう書くと、いかにも「後出しじゃんけん」と言われるでしょうが、これはもちろん、推進派が勝っていても同様ではあるのです。

民意は議会選挙以外にも住民投票やデモなど多様に示されるべきですが、人びとのこうした一時的・直接的な投票で国論を決める危うさは、英国のEU離脱のときにも言われました。

また、日本人としては、台湾のおなじ公民投票で福島など5県産食品の輸入禁止継続が決まったことを、民意だから従えと言い切ることにはためらいがあるでしょう。

台湾のLGBT運動がいま直面している「挫折」から、日本の運動もさまざま思いを馳せることは大切ですが、台湾には台湾の文脈があり、そう簡単に「そら見たことか」とは言えない面もあります。海外の事例から単純に落胆したり冷笑したりすることなく、冷静に足下を見つめる機会としたいと思います。

民法婚かDP法か、台湾の選択は日本に影響を与えるか?

二つ目の論点。台湾では民法改正ではなく別法、いわゆるドメスティック・パートナー法(DP法)を選択することになりましたが、このことは日本での今後の議論や運動にも影響を与えるでしょうか。

ここで少し整理をすれば、民法婚は、民法や既存の婚姻法を男女のみならず同性間にも適用するものです。近年は、同性婚という特別な結婚があるわけではなく、性別にかかわりなく婚姻ができる、婚姻の平等「MARRIAGE EQUALITY」という言葉が使われ、台湾でも「婚姻平権」と言われます。

一方、DP法は婚姻とはべつの法令で同性2人に病気時の療養看護や財産権にかかわること、そして他方の死亡時における相続権など、婚姻とほぼ同内容の権利を保障するもので、オランダで1997年に制定されたシビル・パートナー法を先駆とします。

ただ、カップルが共同で養子をとることなど、親になることについては認めないなど、婚姻との違いが見られます。

台湾のDP法選択(法案内容はまだ不明)が日本での同種の議論にどう影響するのかは、そもそも日本で当事者による動きが残念ながらまだ低調なこともあり、いちがいには断言できません。

台湾もそうであったように、民意が民法婚にいきなり同性を含むことに抵抗を示したり、あいかわらず憲法24条との整合性を言ったりするのなら、別にDP法を求めるのも一法かつ近道かもしれません。

保守派の学者や論客も、いまや性的少数者の存在まで否定するわけではなく、「同性愛者などに対する差別や不利益で、社会の側が改善すべきことがあれば取り組むことは否定すべきではない」と、藤岡信勝氏は述べています(『新潮45』10月号)。

それは「婚姻」ではないかもしれないけど、名を捨てて実を取る、損して得する道かもしれない。子への権利が乏しいなら、実子に対する親権はあるのだから、他方パートナーとの共同養育契約などで乗り越える……。

ただ、これについて日本の当事者がどういう選択をするのか議論し合うプラットフォームが、まだまだ成立していないのが現状です。

「『分離すれども平等』論は差別」がすでに欧米の認識だが

ところで、欧米では(というと、また出羽守と言われますが)、どのような議論になっているでしょう。

じつはDP法は、男女の法律婚に対して二流婚姻と見なされるようになり、いまや法律婚に改められつつあります。

フランスのPACS(パックス、民事連帯契約、1999年)も、当初はエイズでパートナーを亡くすゲイカップルの保護を企図して立法されたものの、2013年には同性婚が成立。同性/異性ともに利用できるPACSは、現在では意識的に法律婚を選択しない男女間の利用が9割になるといいます。

なぜ法律婚へ移行したのでしょう。

たしかにDP法は、婚姻と同様の権利を与えてはいます。しかし、同性カップルはDP法へ、異性カップルは民法へ、権利は同じですから、という法制度です。この「分離すれども平等」論でかつて米国で黒人への分離教育や分離対応、すなわち人種差別政策が正当化されてきたことが、容易に連想されます。

1954年、米国で出されたブラウン判決は、「教育施設を人種によって分離させる別学自体が本質的に不平等」としてこれを否定しました。米公民権運動史の画期となった判例です。これをもじれば「同性カップルを分離する別法自体が本質的に不平等」といえるでしょう。

現在、欧米では、同性カップル用に別法を制定することは差別であるとみなされています。スペインは2005年に同性婚を検討するさいに、DP法も検討したものの、同内容なのに二つの制度を設けること自体が差別だとして、はじめから民法婚に踏み切りました。

今回の台湾でのDP法選択は、歴史への逆行なのか、時間はかかってもあえて欧米がたどった道を自分でも歩いてみることにしたのか、それとも欧米的な平等原則とは異なるアジア独特の第三の道なのか(でも、普遍であるべき法に、欧米もアジアもあるのか?)……。

いま、日本の当事者のなかでも、一斉提訴の動きや、むしろDP法を求めてはという声など、ちらほらと動きや分岐が現れてきています。われわれも隣国の動きを片目で睨みつつ、考え、動いていく必要があるかもしれません。

それは非当事者のかたにとっても、日本は平等な結婚を保障する国なのか、するならどういう形でか、を問う局面でもあるのです。

【永易至文(ながやす・しぶん)】NPO法人事務局長、ライター、行政書士

1966年愛媛生まれ。進学・上京を機にゲイコミュニティを知り、90年代に府中青年の家裁判などゲイリベレーションに参加する。出版社勤務をへて2001年にフリー。暮らし・老後をキーワードに季刊『にじ』を創刊。2010年よりライフプランニング研究会、13年NPO法人パープル・ハンズ設立、同年行政書士事務所開設。同性カップルやおひとりさまの法・制度活用による支援に注力。