• lgbtjapan badge
  • medicaljp badge

性的マイノリティにとってストレスフルな病院は、いつ変わるのか

キャンベル先生が問いかけた「性的少数者がふつうに、『ここにいる』と言える社会」を実現するために

先日、日本文学研究者のロバート・キャンベル先生が、自身のセクシュアリティも表明したうえで、日本の性的マイノリティの状況について問題提起をしたブログの文章が、大きな反響を呼びました。私もゲイとして感動をもって読んだ一人です。

Marijaradovic / Getty Images

その文章への私なりの応答、そして文章がまきおこした「賛否両論」の様子については、またいつかしたためてみたいと思っていますが、文章のなかで先生は、

  • 日本では倒れても杖となるべき同性パートナーを病室に呼べず、老いては介護に関わらせることすらできず、先立たれれば相続はおろか、血縁者の反対にあえば葬儀にも出させてもらえないという現実を見聞きした。
  • 自分が数年前に入院したとき、主治医らは私の同性の伴侶にも自然体で接してくれたが、それはたまたまの幸運で、だれもがそうとは限らない。私の死後に日本人である彼が残された場合の不安もある。
  • 日本が、性的少数者がふつうに、「ここにいる」と言える社会になってほしい。


といったことを述べています。

私はしばらくまえに、まさに病室での「だれもがそうとは限らない」といった過酷な経験を聞いたところでした。

それゆえに、「性的マイノリティには触れず・語らずの対応で日本は十分だ(「過剰な」対応など必要ない)」という政治家、杉田水脈氏の主張や、当事者も含めて杉田氏を支持し、むしろ先生の文章に反発する声も多かったこと(「また外国人による文化侵略だ」との声さえ見かけた)に首をかしげたものでした。

今回読者のみなさんとその経験談をシェアし、「国レベルでのLGBT差別解消法もパートナーシップ法も、ましてや同性婚もまかりならぬ日本では」(キャンベル先生のブログより)どんな現実が起こりうるのか、一つの事実を知っていただければと思う次第です。

保証人はだれ? お友だちじゃねえ......

大橋京子さん(仮名)、36歳。23区内に10年来、女性パートナーとともに暮らすレズビアン女性です。企画営業の仕事をバリバリこなす京子さんは、昨年秋、激務と過労、しかしヘルプも得られない孤立のなかで、重いうつ病に悩んでいました。なかなか効かない薬に対し、医師は処方を変更。

「ところが、その薬の副作用で私は錯乱状態に陥り、自宅で倒れてしまったんです」

同居のパートナーが発見して救急車を要請。近所の総合病院へ搬送し、応急措置がとられました。

「救急車には彼女も一緒に乗れましたし、病院でも対応はよく、パートナーということで彼女は私と面会もできたし、医師の説明も聞けたんです」

しかし、うまくいったのはここまで。

彼女は救命後、しばらく大事をとって入院することになりました。かかっていた精神科クリニックは連携する病院がなく、都内の精神科の病院リストをくれただけで、京子さんは自分で病院を探し始めます。

しかし、年末に向けどの病院も満床状態。やっと見つかったのが、隣区のある個人病院でした。「それが恐ろしく時代錯誤な病院で……」と、京子さんは語ります。

Christianchan / Getty Images

同性のパートナーへの説明を拒む医療者もいまだにいる

「院長が主治医になってくれたのですが、初診の説明のとき、『保証人はだれ? 精神科だからだれでも保証人になったり面会にきていいわけじゃない。事前登録した人だけです』、の一点張り。『私は同性愛者で、パートナーが対応します』とハッキリ言っても、『ほかに誰かいないの? お友だちじゃあねえ。家族は呼べないの?』と何度も何度も言われました」

精神病院の入院棟ということで、「家族」にこだわるのかもしれません。しかし、現に目の前の患者が自分はレズビアンであり、このパートナーが家族だと言っても頑として耳を傾けず、「お友だち」と言い続けるのはどうしたことでしょう。同性カップルということに、認識や理解はないのでしょうか?

何かにつけて言われた「あなたたちみたいな人」

「なまじ精神科の先生なら、こうした性的マイノリティのことは知っておいてよ、と正直びっくりしました。ちょっとしたカルチャーショックでしたね。私たち同性愛者を指して、『あなたたちみたいな人』って言うんです。『あなたたちみたいな人はね、精神科で手術はないから特別に許しますけど、外科手術なら相手の人は承諾とかできないのよ』って。なにかにつけ、今回は特別に診てあげているという感じでした。そして、何度パートナーと言っても、お友だちと返されるんです」

院長は創業一族とおぼしき中年の女性で、一見、優しそうでしたが、ワンマンな感じ。それは病院の運営にも感じられ、手続きにあたったケースワーカーも、京子さんが「お金の引き出しなどの代理はパートナーしかいません」と答えると、しばらくどこかへ行き、やっと「じゃあ、認めましょう」ということになったそうです。裏でお伺いを立て、了解をとってきた様子でした。

「もし私が、保証人がいませんとなったら、どうなったんでしょうね。私は医療拒否されたのでしょうか。そのときゾッとしたんですよ。私は病院も入れないのかもしれない。病院がNGとなったらもう生きていけないかもしれない、って。そのときうつも最悪状態で、生きる希望もなにもない、頼れる存在はパートナーだけでしたから」

もし自分が意思表示できない状態でこの病院にいたらどうなっていたんだろう、とも付け加えました。しかし、これはまだ入院1日目のことにすぎなかったのです。

この病院にはなにも伝わってきていないのか

入院中も「いろいろ」あったそうです。

パートナーが面会に来るということはナースステーションにも伝わっていたものの、それが同性のパートナーだということはきれいに抜け落ちていました。

Karinsasaki / Getty Images

ナースもLGBTに対する態度を学んでいないようだった

「ナースが病室に来て、『パートナーさんがお見舞いに来るんですって? 彼は……』と言いかけるので、『いえ、パートナーは女性なんです』と私が言うと、『え?』という顔をされたり。実際、彼女が来たときも、『え、このかた?』という目線で見られたり」

ナースは先代のときからいると思われる年配女性が多く、院内で研修とか教育とか、情報のブラッシュアップがされてなく、そこだけ時間がとまったような気がしたといいます。

「LGBTはもちろん、人権とか患者の権利とかそういう根本的なこともこの病院には伝わってきてないという感じ。でも、こういう病院はけっこう多いんだろうな」ともこぼしました。

もう一つ気になることがあったといいます。

「おなじ病棟に、私の目からはトランスジェンダーっぽい人がいたんですね。病院服は女性はピンクだったんですが、その人だけ緑を着て、自分のことを『オレ』と言っていて」

この病院ではシャワー浴があるものの、先の順番の人が使っているあいだに、つぎの人が隣接する脱衣場で脱いで待つ。上がって拭いているあいだにつぎの人がすぐ入る、というシステムだそう。

「そのトランスっぽい人も、人の目の前で服を脱がされていたんですね。私は『うわー』と思いました」

精神科の病棟は、自傷行為の予防のためか、ベッドごとの間仕切りカーテンがなく、そういうところでの着替えは、性に違和感のある人は(なくてもですが)大変だろうな。そもそも病院がそういう課題を認識しているのかわからないけど、レズビアンに対して「あなたたちみたいな人」と言う病院ですから、トランスの人への意識は遠いものがあるんでしょうね、と語りました。

どう対応してほしかったのか

病院は京子さんに、どう対応してくれればよかったのでしょう。

「うーん、何号室の大橋さんは同性愛者で、同性のパートナーさんがお見舞いに来ますよ、という情報を流したほうがいいのかどうかはわかりません(多くの人はノーサンキューでしょうが)。でも、見舞客についての申し送りなどは一般的にあることで、それが異性だろうが同性だろうが、顔色一つ変えることなく、眉一つ動かすことなく、あたりまえにできるぐらいに慣れておいてよ、ここは病院なんだから、とは思いますね」

「病気で来る人には、外国由来の人もいれば、同性パートナーのいる人もいる。男女別室がうまく当てはまらないこともある。でも、せめていま社会で認識され始めた多様性の課題については当然に知って、慣れていてほしい。プロでいてほしいと思いましたね」

「院長先生は、『きょうもお友だち来たの?』で最後まで通しました。それって本当に失礼ですよね。そんなことを何度もされて、『この人って、私が頼ってはいけない人だ』と脳が考えてしまいましたが、ものすごくストレス。病気のときってだれかに頼りたい、すがりたいわけだから。本当に、ホスピタリティのないホスピタルでした」

Shibun Nagayasu for BuzzFeed

インタビューに答える大橋京子さん。指にはパートナーと交換した指輪が光る

本人の意思を尊重、それ以上の詮索はない病院

入院期間の2週間のうちに自分の誕生日が来る。ここで誕生日を迎えるのはどうしてもイヤ……。10日目にして京子さんは、医者の制止を振り切って退院しました。

いま彼女は、都立のある精神病院へ外来で通院しています。

「いやあ、システマティックですばらしい。ストレスがなにもないんです。ある書類をあとで彼女に届けてもらいます、と担当医に言うと、『そのかたとのご関係は? パートナー? はい、わかりました」な感じだし、セクシュアリティの話はしましたが、それに対して使ってくれる言葉も的確で耳にさわるようなことは一切ない。先生から受付の人まで、まったく問題なしでした」

その受付の人とも、「お支払いはどなたが?」「代理でうちのパートナーが来ます」「パートナーさんは同居してるかたですか?」「ええ、同性のものです」「はいわかりました」で、なんの問題もなし。本人の意思が確認されていればそれを尊重してくれ、それ以上の無用な詮索はなにもなかったといいます。

「もう、前いた病院と比べて月とスッポン、いえ、『虹とスッポン』ぐらい違います!」

その言葉に、私も思わず大笑いしてしまいました。

「ここの外来に移るとき、私がまだ本調子じゃなかったので、最初に予約を入れてくれたのは彼女でしたが、彼女が『自分はパートナーで、恋人で』と言って、受付の人はなにも問題なく了解してくれたそうです。個人個人、心中では同性愛や性的マイノリティにオピニオンのあるかたもいるかもしれないけど、ひとたび職務のうえでは、きちんと平等に対応する、それがすばらしいなと」

京子さんがはじめに遭遇したような病院対応が存在する一方、LGBTフレンドリーという言葉もしばしば聞かれるようになりました。

しかし、LGBTフレンドリーは、性的マイノリティ当事者へなにか特別な配慮や措置をすることでもないでしょう。どんな場でも、本人の自己決定を尊重し、平等・公正に対応することに尽きます。

それこそ、冒頭にふれたブログでキャンベル先生がいう、「安心して『いるよ』と言える社会」であり、先生は自分も暮らす日本がそうなってほしいと、当たり前のことを、でも言葉静かに述べられただけだ、と私は受け止めたのです。

病は、だれもが遭遇します。医療の場が、心身を病める人にプロの治療と癒し、キュアとケアを平等に提供し、すべての利用者にとってストレスフリーな場になること、その日の一日も早く来ることを願ってやみません。

Shibun Nagayasu for BuzzFeed

筆者たちが運営するNPO法人パープル・ハンズでは、緊急連絡先カードを配布したり、講座やパンフレットで医療における自己決定や患者の権利について紹介している。問い合わせは略歴にある下記リンクへ

【永易 至文(ながやす・しぶん)】NPO法人事務局長、ライター、行政書士

1966年、愛媛県生まれ。1980年代後半よりゲイコミュニティーの活動に参加。ライター/編集者。行政書士NPO法人パープル・ハンズ事務局長。当事者の生活実感に即したゲイ/性的マイノリティーの暮らしや老後の法的・実践的サポートをライフワークとする。