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高齢化が進むHIV陽性者の現実

支援の体制をどう組むか

高齢のHIV陽性者の登場

HIV(ヒト免疫不全ウイルス、エイズウイルス)感染症が日本で報告されて約30年。この病について、読者はいまどのようなイメージをもたれるでしょうか。

HIV感染症の新規感染者のほとんどは男性で、男性同性間の性行為で感染した人たちです。そして、性行為で感染するという特性上、性的に活発な若い世代が多いのは事実です。

しかし、近年は年齢が高い層の新規感染や発病も見逃せません。

厚生労働省エイズ動向委員会発表によれば、2016年の新規報告件数は、自発的な検査や手術前検査などで感染がわかった人、そして感染に気付かないままエイズ発症の状態に至ってわかった人を合わせて1,448 人。

そのうち男性同性間の性行為による感染が735 人(72.7%)、エイズ発症が241人(55.1%)。全体の67%が男性同性間と申述しています。

ただ、問われてそう答えられない人もおり、実際にはもっと多いと推測されています。

年齢では、感染はたしかに20〜30歳代に集中するものの、60歳代が44人、70歳以上が7人報告され、60歳以上の全体に占める割合は5%。高齢層でも、性行為があるのはいうまでもありません。

しばらくまえ、入館者が窒息死状態で発見されてニュースとなった東京都内の入浴施設は、高齢ゲイの「ハッテン場(性的出会いを目的に集まる場所)」として有名でした。一部高齢ゲイは、ネットの出会いアプリも使いこなしているようです。

発病では60歳代が46 件、70 歳以上が11件報告され、60 歳以上の発病に占める割合は13%でした。エイズ発症に至るまえに検査ができるよう、検査への抵抗感を下げもっと利用しやすいものにする、そしてとかく見過ごされがちな高年齢層へも情報を届ける工夫が必要です。

また、これまでの日本の累積報告数は約2万7000人ですが、新しい治療法(複数薬剤をいっしょに飲む多剤併用療法)が登場した1990年代後半以来、死亡率が格段に減少し、現在まで加齢を重ねながら存命している人が多数います。医療の発達は、患者の高齢化ももたらしているのです。

代表的なエイズ診療拠点病院の一つである都立駒込病院では、約1000人のHIV陽性患者の約4分の1が60歳以上であると聞いたことがあります。

高齢のHIV陽性者の登場。これは現代のHIV問題を考えるうえで、見過ごせないポイントなのです。

介護、透析……いまも続く陽性者への拒否

陽性者が高齢化するなかで、かつて予想していなかったことが見えてきました。

HIV陽性者も、高齢化のなかで糖尿病や高血圧など年相応の病気をします。透析となる人、介護が必要となる人もいます。しかし、地域のクリニックや透析医院、介護施設では、HIV陽性者は現在も受診や入居を拒否される事態が続いています。かつての誤った知識やイメージが、修正されていないためです。

また、陽性者と多くの部分で重なるゲイ・バイ男性には、家族縁に乏しく一人暮らしの人が多いのも事実。セクシュアリティーがネックとなり若い時から離転職や不安定雇用が多いと、老後貧困に陥る面もあります。

アルコール、ギャンブル、薬物、セックス等の依存症、うつや引きこもり等のメンタルの問題を抱えるかたもいます。心筋梗塞やがんなど高齢期一般の病気と異なり、有病者には、明らかな社会的特徴があるといえます。

近年は、長年ウイルスをもつことで認知症になる割合が高いことが報告され(HIV関連認知症、HAND)、一人暮らし・親族と疎遠の現実ともあいまって、いっそう困難な状態が予測されます。

こうした老後の困難については、陽性者自身も心配しています。

国内1000人あまりの陽性者が参加した大型ウェブアンケート「Futures Japan(第1回調査結果)」によれば、回答者の93%が老後への不安を感じており、今後の病状変化はもちろんですが、「生活を手伝ってくれる人の不在」「長期入所施設に入れるのか」「在宅サービスなどを使えるのか」など、孤立、療養・介護の受け入れを心配していました。

また、老後はだれの世話になりたいかで、「パートナー・配偶者」という答えが約半数でしたが(いれば、の話ですが)、「だれも思いつかない」「だれの世話にもなりたくない」という回答もそれぞれ20%強ありました。援助をはじめから諦め、みずから孤立している切ない心理が、感じ取れるようです。

北海道の福祉ネットワーク

私はゲイ当事者として、性的マイノリティーの高齢期をサポートするNPOを、仲間とともに運営しています(特定非営利活動法人パープル・ハンズ、2013年設立)。性的マイノリティーの高齢期の生活困難を解消するうえで、ゲイに多いHIV感染症にまつわる課題は、避けて通れないものと認識してきました。

HIV陽性者の高齢期に降りかかる課題——介護や透析の受け入れ先の開拓、高齢化・孤立化する患者支援などに、どう取り組めばよいのでしょうか。

北海道では、当地のエイズ診療拠点病院でもある北大病院を中心に「北海道HIV福祉サービスネットワーク」が立ち上げられ、口コミやネットワークで登録を呼びかけるとともに、道庁と連携し、道内1000件弱の社会福祉法人へも登録依頼文が送られました。

結果、昨年末で道内の407か所の福祉事業所(高齢/障がい/その他)への利用申し込みが可能になったといいます(日本エイズ学会誌74号、2017年8月)。

そのうち246件の高齢領域では、訪問系のサービスのほか、入居施設も30件の登録があります。介護保険などの範囲外であるその他領域では、外出援助、話し相手、安否確認、判断能力の低下した人への生活費管理、北国らしく除雪サービスなどもあります。

福祉事業者と病院がネットワークを作り、いざというときにお願いできる体制が組まれ始めているのは心強いかぎりです。先日聞いたところでは、登録は現在605か所に増えたとのこと。

また、登録を断った事業所のいくつかから、「施設長会議で了承を得られなかった」「うちはまだ早いという意見」「HIVは難しいでしょう」など、明らかな誤解による意見も聞かれたとのことで(HIVは感染力が微弱で空気中ですぐ死滅し、通常の感染症対策で対応が可能)、逆にそれが是正されれば受け入れが進む可能性も見てとれます。

ただ、病気への理解とはべつに、家族縁に乏しい人が多いこと、ゲイであることなどへ対応はなされているのでしょうか。

この報告をまとめた北大病院のソーシャルワーカー、富田健一さんに聞いてみました。

「利用者が単身とか親族関係に乏しいことは問題になりません。高齢者でも他の障がいでも、単身・親族関係に乏しいかたはおられ、福祉関係者はそうしたことには慣れています。ただ、ゲイということはあまり現場で語られていないかもしれません」

「介護の現場で『性』について語られないのです。これは異性愛についても同じです。介護職員は身体の介護は習っても『性』を学ぶことはなく、『性』について真面目に語ることが気恥ずかしく、笑い話的に語られてしまうのです」

べつにゲイだと言わなくても、あるいはそのことを知らなくても、介護を受けること・提供することに支障はないでしょう。

ただ、一ゲイ当事者の感想でいえば、こちらもフランクに言い出せない、隠し続ける、あるいは先方も知っているのに避けられている、言えばジョークとして受け流されてしまう、という感じがあったら、それも嫌だなという気がします(介護施設のように長く居住するところだとなおさら)。

法律的には家族と見なされない同性パートナーがいるとか、見かけと身体の性別にギャップがあるトランスジェンダーなどは、伝える必要もあるでしょう。

ましてそこにへんな誤解対応があるなら、私たちの人格を否定されたようで、悲しくなります。

「男性専用のグループホームへの入居にあたり「同性愛のかたは他の入居者と(さかんに)性行為をしてしまうのでは」という心配・誤解を受けたときがありました。男女が暮らす下宿などでやたら女性を襲う人いますか? 同性愛のかたも一緒ですよ、と説明して納得いただけました」

富田さんは、そんなエピソードも明かしてくれました。じつは事業所向けなどへの出前研修で、HIVのことは教えても、性的マイノリティーのことには(ほとんど)触れていないそうです。支援対象の特性としてセクシュアリティーのことをどう盛り込んでいくのか、研修プログラムの見直しを検討中だと、富田さんは教えてくれました。

高齢期のHIV陽性者の理解のために

医療の発達で長期延命できるようになったHIV感染症。同時に、高齢期の介護や福祉、さらには認知症者の権利擁護など法的課題も含め、新たな局面への対応が求められています。私たちパープル・ハンズでも、介護事業者や高齢福祉セクターへ向けての研修や情報提供に取り組んでいます。

活動の一環として、小冊子『高齢期の性的マイノリティ 理解と支援ハンドブック』(パルシステム東京市民活動助成基金助成)を作成。PDFでご覧いただけますし、送料ご負担いただければ冊子をお送りもしています。

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HIVを含む性的マイノリティへの正確で基礎的な情報を知るとともに、介護や福祉利用者の多様な背景を理解する一助としていただければさいわいです。

今年、第31回日本エイズ学会・学術集会が東京都中野区で開催されることに連動し、中野区内の会場でさまざまなNGOやグループがエイズ関連イベントを集中的に実施する「TOKYO AIDS WEEKS 2017」が開催されます。

ここでは、当会も長期療養を前提としたライフプラン講座を出展するほか、私も参加する中野区在住の当事者ネットワーク「中野にじねっと」が、地域医療と陽性者への対応をめぐるワークショップを開催。高齢でゲイのHIV陽性当事者が、透析拒否や在宅復帰までの経験を語ります。

地元の中野区保健所も高齢化を背景としたエイズ対策講演会を開催とのことで、一般的な病気解説に終わるのか、セクシュアリティーにも踏み込んだ話があるのか、注目をしています。

これらはいずれも無料で聴講できますので、ぜひご参加になってみてはいかがでしょう。

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