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タトゥーを入れてもMRIを受けられる? 専門家の見解は【医療とタトゥー】

MRI安全管理の第一人者の宮地利明さん(金沢大学教授・日本磁気共鳴医学会理事)、日本診療放射線技師会を取材しました。

タトゥーについてはこれまで、著名人がタトゥーを入れていることを公表したことや、彫り師が医師法違反の罪に問われた裁判で逆転無罪になったことなどが、大きな話題になってきました。

皮膚に傷をつけ、色を入れる手法が主になるタトゥー。そこで、BuzzFeed Japan Medicalでは、医療の観点からタトゥーについての情報を検証していきます。

今回はSNSなどで議論になっていた「タトゥーを入れるとMRI検査を受けられない」というのは本当か、について、MRI安全管理の第一人者の宮地利明さん(金沢大学教授・日本磁気共鳴医学会理事)、日本診療放射線技師会を取材しました。

「原理的にはIH調理器と同じ」

なぜ、このようなことが言われるようになったのでしょうか。そもそも、MRIはCTのように、人の体などの内部の構造を映し出す検査機器。CTと異なるのは、放射線ではなく磁場と電波を使って画像を得るため、検査を受ける人の体への負担が少ないことです。

宮地さんによれば、タトゥーを入れた人にMRI検査をするとき、特に問題になるのは「MRIで使用する高周波が、酸化鉄などを含んだタトゥー顔料に及ぼす、誘導加熱の作用」。

少し難しく感じますが、これは「原理的にはIH調理器と同じ」(宮地さん)。IH調理器にかけたフライパンが熱されるように、MRIによって、タトゥーの顔料に含まれる酸化鉄などの成分が、熱を帯びてしまうのです。

「火傷の事例がいくつかあり、特に濃い顔料のタトゥーは注意が必要とされています。またタトゥーの図柄(例えばループ状)によってはアンテナのように高周波電力を吸収しやすくなるため、一層注意が必要です」

ただし、「すべてのタトゥーにおいて火傷を生じるわけではなく、頻度はむしろ低い」と宮地さんはいいます。

「絶対に受けられなくなる」わけではない

では、タトゥーを入れていても、MRI検査を受けられるのでしょうか。それとも、受けられないのでしょうか。

宮地さんは「リスクとベネフィットの観点、すなわちMRIによって得られる恩恵とタトゥーによる火傷などの危険性を天秤にかけて、MRI検査の是非を判断することになります」と説明します。

つまり、タトゥーを入れたらMRI検査を絶対に受けられなくなる、というわけではありません。

タトゥーを入れた患者さんに対してMRI検査をする場合は、患者さんそれぞれについてのリスク(危険性)とベネフィット(利益)を説明して、同意を得る必要があるそうです。そして検査時は「患者の容体を絶えず確認し、異常時にただちに対処できるようにしなければなりません」(宮地さん)。

「前述したように、頻度が低いことから、特にアートメイクのタトゥーに関してはMRI検査時に禁忌にすべきではないという報告もあります」

「また、撮影条件の調整や低磁場装置の使用などの手段で、タトゥーの火傷の可能性を低くすることはできます」

ただし「依然としてMRIの安全性には不確定な部分がある」ことも事実であるそうです。

「ある米国の白書の中で冷湿布やアイスパックによってタトゥーなどの火傷の防止になるという見解がある一方で、これを批判した意見もあり、各種機関の報告や論文によってMRI安全管理の基準や見解は異なっています」

「タトゥーによって火傷などの報告がいくつかある以上、安全であるとは言い切れません。その一方で必ず人体に悪影響を及ぼす訳でもなく、やはり個別のケースについて判断されるということになるでしょう」

判断は「一律なものではありません」

検査を担当する診療放射線技師が所属する日本診療放射線技師会も、MRI検査を実施する場合は「主治医が患者様にタトゥーがある場合に考えられる検査のリスクとともに、検査を行うことのメリットを説明し、同意を得た上で、主治医の指示の下、施行されることが一般的です」といいます。

「この判断は、医師や歯科医師が個々の患者様の状況や疾患、場合によっては経済的状況に応じて行うもので、一律なものではありません」(同会の見解)

また、やけどのリスクになる酸化鉄についても、「そもそも、酸化鉄が含まれていても、必ず火傷が発生するとは限りません」とし、さらに「患者様のタトゥーについて、酸化鉄が使用されているかどうかは、医療機関側では判断できないことも多い」そうです。

だからこそ、「検査を行うメリットと火傷などによるリスクを十分検討の上、最終的には、医師が患者様に説明しながら、検査を“行う・行わない”を決める」としました。

「命の危険があるケースなどでは、検査実施による利益が十分リスクを上回ると判断される」こともある一方で「他の検査で代替可能な方法がある場合、最終的には医師が患者様にも説明しながら、実施の可否を選択することとなります」とのことで、やはり個別のケースについて判断されることがわかりました。