「親愛なる隣人」――そのニックネームが示すように、スパイダーマンというキャラクターは世界的な人気を博し、映画化は8月11日公開の『スパイダーマン:ホームカミング』で6回目となる。
驚異的な身体能力を駆使し、クモの糸を巧みに操ることで、街の平和を守るスパイダーマン。アメリカの大手マンガ出版社マーベル・コミックから原作が出版されたのは1960年代で、以来50年以上に渡り人々に親しまれている。
今作は『アベンジャーズ』シリーズに代表されるマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)、つまり同一の世界観の中で複数のスーパー・ヒーローが共演する作品群のひとつとして制作されたのが特徴だ。
歴史あるキャラクターのリブート(再演)にあたり、若手俳優のトム・ホランドを主演に迎え、謎のヒーロー・スパイダーマン、そしてその正体である「15 歳のピーター・パーカー」を描き直したのは、気鋭の映画監督ジョン・ワッツ。
そして完成した『ホームカミング』の出来栄えは、これまでの作品と一線を画するものだった。過去作を観た人ならご存知だろうが、スパイダーマンの映画では、暗いストーリー展開も目につく。
例えば、家族の死、恋人の死、友人の死。近しい人が敵の正体だったこともある。自身の大切な人を助けられない、時には自らの手で死に追いやってしまう経験を重ねたピーターは、心に深い傷を負う、といったような。
しかし、今作ではそれが一転。主人公のフレッシュな「ティーン感」やコメディ要素と、原作コミック・過去作へのオマージュ、そして要所要所に登場するMCUのキャラクターたちにより、爽やかな仕上がりになっていた。
ただし、作品のテーマは深く、鑑賞後は「力」と「責任」について考えさせられる。緻密なプロットを作る上で、ワッツ監督が意図したこととは。BuzzFeed Newsは来日したワッツ監督を単独取材した。
なぜワッツ監督はスパイダーマンを「明るく」したのか。軽快なトーンは、制作当初から想定されていたものだった。描きたかったのは「地に足を着けた」ヒーローとヴィラン(悪役)。
――なぜ、監督は新スパイダーマンを「明るく」したのですか?
「大いなる力には、大いなる責任が伴う」というのは、スパイダーマンに一貫したテーマ。原作や過去の作品では、ピーターは戦いの中で大切な人を失い、それにより苦悩する。このテーマを扱う以上、どうしてもそういったダークな部分というのが切り離せない。
でも、今作ではピーターは15歳の高校生。内面はごく普通のティーンエイジャーだ。そこでいきなりあのパワーを手に入れたら、楽しくてたまらないよね(笑)。そういうピーターの素顔を無視するわけにはいかない。だから、軽快なトーンにするということは、当初から想定していたんだ。
――CMなどでも放送されている「戦いの最中にスマホでセルフィーを撮る」シーンも印象的でした。
もしあなたが15歳で、スパイダーマンになったら、どう? 撮っちゃうよね。ピーターは正体を秘密にしているから、本当にInstagramにアップすることはできないけれど(笑)。
あと、ピーターのセルフィーは、ティーンエイジャーとしての「イマドキ感」を演出しているだけでなく、原作では将来フォトグラファーになるという、その片鱗を覗かせてもいるんだ。
――他のスーパー・ヒーローとの共演にも、ニヤリとさせられるシーンが多々ありました。特にMCU作品『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』でかなり後味の悪い結末を迎えたキャプテンが、今回とてもコミカルな役どころでカメオ出演しています。
笑っちゃうよね。あの元ネタは、実はアーノルド・シュワルツェネッガー。アメリカの高校生は学校でああいうビデオを鑑賞させられるものなんだけど、僕の時代はシュワルツェネッガーが登場していた。でも、MCUの世界なら絶対にキャプテンだろうなと思って(笑)。
『シビル・ウォー』の結末は、僕もとてもほろ苦く感じた。だから今回、キャプテンにも登場してもらったんだけど、よく見るとあのスーツは過去のバージョンのもので、あのビデオが撮影されたのが『シビル・ウォー』よりも前であることがわかるはずだよ。
――また、原作や過去作へのオマージュもふんだんに盛り込まれていました。詳細はネタバレになるので言えませんが、終盤の観客をあっと驚かす展開、あれも一種のオマージュでしょうか?
あれね、ビックリした?
――はい、ぜんぜん想像していませんでした。
いいね! いいね!
ネタバレしないという約束でなら、少しだけ話そうか。スパイダーマンの特徴というは「スパイダーマンとしての活躍」と「ピーター・パーカーとしての生活」がクロスオーバーすること。だからどっちもややこしくなる(笑)。それが、ある意味ではスパイダーマンの「お約束」だった。
もちろん、今作でもその「お約束」を踏襲してはいる。だから、過去の作品の展開にも通じる部分があるかもしれない。でも、僕が一番の目標にしていたのは「地に足を着けたヒーロー」「地に足を着けたヴィラン(悪役)」を描くということ。だから、これまでとラストはちょっと違うはずだよ。
――暗くはないけれど、考えさせられました。
そのバランスは気をつけて作り込んだつもりだね。徹底的に暗い展開にすることは、実は簡単。でも、そうはしたくなかった。「自分の行動が、後にどんな影響を与えるのか」「それを目の当たりにしたときに、どう受け止めるのか」ということについて、観た人にポジティブに考えてほしかったから。
――まさに「力」と「責任」、スパイダーマンのテーマですね。劇中のピーターはその狭間で「認められたい」という思いが空回り、失敗ばかりしています。監督はどんな思いで、ピーター、そして彼の周囲の大人たちであるトニー・スタークや保護者のメイおばさんを描きましたか?
自分の理想に現実が追いつかないことというのは、誰にでもあるよね。特にピーターのような少年であればなおさらだ。「もっとできるはず」「こうやりたい」という思い頭の中に渦巻いているのに、力不足であるがゆえに、どうしてもそれができない。でも、その葛藤こそが成長の過程だと、僕は信じている。
そのときに周囲にできるのは、メイおばさんのように、「失敗してもいいんだよ」「きっと上手くいくよ」と見守ってあげること、そして、本当に道を誤りそうになったときには、トニー・スタークのように、厳しい態度で正しい道を示すことなんじゃないかな。