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非喫煙者が「禁煙だけど新型たばこはOK」のカフェに行って、考えたこと

「好かれる」「選ばれる」ということ。

このどんぶりーー正式名称は“DONBURI”ーーを提供しているのは、原宿と渋谷の間にあるカフェ『RETHINK CAFE SHIBUYA』。

電源、Wi-Fi、一人席あり。コピー機や付せんも無料で使うことができて、ミーティングスペースまである。

最高じゃん、私もそう思った。一つ、気になることを除いては。ここは、日本たばこ産業(JT)が展開する新型たばこ『Ploom TECH』(プルームテック)のPRスペースなのだ。

1Fの入り口からすぐのところには、プルームテックやその関連商品が並べられ、2Fの作業スペースには、プルームテックの販売スペースがある。

おいしいごはんと便利な作業スペース……と、セットになって提供される新型たばこに接する機会。店内は禁煙としながらも、プルームテックは使用可だ。

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プルームテックについて、JTはBuzzFeed Japan Medicalの取材に「周囲の方々への健康に対して、実質的に影響を与えるものではない」と回答。

一方、プルームテックを含む新型たばこについて、日本呼吸器学会は2017年10月に「健康に悪影響がもたらされる」「受動吸引による健康被害が生じる」という見解を発表している。

RETHINK CAFE SHIBUYAをプロデュースしたのは、スープストックトーキョーなどを展開する株式会社スマイルズ。同社のクリエイティブ本部長の野崎亙氏は、同店を「選択肢」と表現する。

安全性について、不明点の多い新型たばこ。どのような意図で「選択肢」と表現するのか。それは本当に「選択肢」といえるのか。野崎氏との対話を以下に紹介する。

噛み合わない議論を前提に

ーー私はたばこについては「望まない受動喫煙を防ぐ」ことが重要だと考えています。その意味で、新型たばこの受動吸引が発生する環境には、違和感を持ちました。今日はいろいろと質問させてください。

もちろんです。よろしくお願いします。

ーーまず、『RETHINK CAFE SHIBUYA』が選択肢であるというのは、どういうことでしょうか。

例えば「たばこの煙がない世の中」「たばこ自体がない世の中」「自由に喫煙できる世の中」……非喫煙者や医療関係者、喫煙者、それぞれの立場から理想論を語るのは簡単です。

でも、実際にたばこを吸いたい人がいて、その場所が必要であるという現状を顧みると、結局その理想論というのは実現しないのではないか、と僕は思ってしまうんですよね。

だったらある種の、合理的な選択肢を示すことができないかな、というのが発想のスタートです。

ーー野崎さんのいう「合理的な選択肢」が、プルームテックOKの(吸引できる)カフェという理解でよろしいでしょうか。

そうですね。そもそも、事業形態から説明すると、RETHINK CAFE SHIBUYAの運営主体は別の会社で、弊社はその空間プロデュース、そしてJTさんはそれに協賛をしている、という形です。

JTさんによれば、プルームテックは紙巻たばこと比較すれば健康への害が低減されている可能性がある(リスク低減商品)、ということなので。

ーー紙巻たばこの害が大きいため、紙巻たばこと比較すればどんなものでも害は低減されるため、比較にならないと指摘する専門家もいます。

JTさんの言葉を借りると「プルームテックの健康への害は紙巻たばこと同列に論じられるものではない」ということですが、従来のたばこ研究と同等の科学的根拠を集めるには立証には数十年がかかるということもまた、承知しています。

ーーJTが示す科学的根拠は、JTに有利なものになる可能性があるのでは?

それは当然そうですよね。だからこそ、僕はこの店のような事例をきっかけに、多くの人に関心を持ってもらうことで、いろんな立場の人たちが調査をすればいいだろうし、議論が発展すればいいと思うんです。

そもそも、情報の正しさというのも、難しいと僕は思っています。生活者視点でも、例えば喫煙者からみる情報の正しさと、非喫煙者からみる情報の正しさには、それぞれの立場ゆえのバイアスがかかり、議論は噛み合わないのでは。

だとすると、それを前提にしたアクションが必要です。今は「AかBか」といった極端な選択肢しかない状態ともいえます。みんな、その間で右往左往して、結局、アクションを起こせない。

それよりは、現状や人々の嗜好を前提に、「今までにない新しいたばこ製品」により積極的にたばこの問題にアプローチする方が、いいのではないかと僕は思っています。

ーーアプローチというのは、具体的には?

喫煙可能なお店もあれば、完全禁煙のお店もある。その中に、新しい選択肢として、プルームテック可のお店が加わる。いろんな立場が同じ盤面の上に置かれて、それを生活者が自分で決めて選ぶというのが大事なのではないでしょうか。

ーープルームテックの健康への害については、どう考えますか?

新型たばこがどれくらい健康に良いのか悪いのかは、正直わかりません。一方で、吸いたい人が「吸えない」というストレスを感じながら生きるのは辛いし、それはいつでもコントロール、排除できるストレスです。

健康とは何か。長く生きることが健康なのか。あるいは、死ぬまで最高だと思いながら生きることが健康なのか。それを考える機会になれば、社会にとって最高だと僕は思うのです。

ーー喫煙者の方々については、おっしゃるとおり、選択の自由がありますよね。しかし、受動吸引についてはどうでしょうか。

無責任だといわれるかもしれませんが、受動吸引による害があるのかどうかも、私たちにはわかりません。

害があるなら、他の健康に悪いことと比較して、どれくらい体に悪いのか。油ものの食べ過ぎ、お酒の飲み過ぎ、睡眠不足、排気ガス……きりがないですよね。確たることはわからないのではないでしょうか。

それならばむしろ、JTさんの情報があることで、情報に対して懐疑的になったり、その情報を調べた上で自分なりの選択をしたりする方が、重要であるように、僕には思えます。

「選択」は本当にできるのか?

ーー選択をするためには情報が必要です。情報提供は十分でしょうか。

お店の前や店内の各所に“PloomTECH Only”と表示したり、リーフレットを配置したりすることで、情報提供をしています。

ーーそもそも「プルームテック」が何なのか、知らない人も多そうです。

それは、そうかもしれないですね。だからこそ、知ってもらうことが大事では、と。

ーーあくまで、選択の主体は各個人であり、その責任も各個人にあるということですね。しかし、魅力的なクリエイティブにより、特定の選択を誘導しているともいえるのでは?

うーん、それも含めて選択だと、僕は思います。僕たちは決して、これが正しいと主張しているわけではありません。最後はやはり、主体的に選択するしかない。

ーーDONBURI、おいしかったからこそ、モヤモヤしてしまいました。はたして私たちは「選択」できるのか、と。

まさにDONBURIに象徴されていますが、RETHINK CAFE SHIBUYAのテーマは「クリーン&ハングリー」です。これは人間の欲望と「一般的に正しいとされていること」の両方を肯定する、という意味なんですね。

みんな、お肉やお米を食べたいですよね。でも、体に悪いとか、ダイエットによくないとか言われる。野菜を食べた方がいいのはわかるけど、多くの人にとって野菜って積極的に食べたいものじゃなかったりもする。

だから、お肉も食べられるし、お米も食べられるし、野菜も食べられる、おいしいどんぶりを作る。生活者の嗜好を前提として、その中で選択肢を増やしたいということなんです。

倫理だって、健康だって、人間が自分で決めているものだし。正しい、正しくないみたいな議論にはあまり意味がなくて、何が好きか。

たくさんの選択肢の中から好きなものを主体的に選ぶ方が人間らしいし、そうすればもっと心地よい世の中になるんじゃないかな、って。

ーー私はこのお店の打ち出し方が上手だと感じました。同時に、他の立場も、正しさを押しつけるのではなく、より選ばれる打ち出し方を工夫しなければ、目に留まらない、敬遠されてしまうのではないか、とも。

もともと、スマイルズという会社は、正しいからやっているとか、正しくないからやってないとか、そういう価値判断はしていないんですよね。

例えば『Soup Stock Tokyo』では無添加を標榜していますが、これはその方が体にいいから、とかじゃないんです。「あんまり余計なものを入れない方がおいしい」という価値観で無添加にしている。

どんな事業にしても、「こっちの方が好きだから」でやっています。だから右も左もない。たばこについても、考え直さないよりは考え直した方がいいでしょう、という立場ですね。

ーーそれが選ばれるコツということなのかもしれません。

「安全」と「安心」という言葉がありますが、安全だから安心というわけじゃないし、安心だから安全というわけでもないですよね。これが正しいといくら押しつけても安心にはならないんです。

安心してもらうことは、クリエイティブを生み出す上でも、意識するようにしています。

「好かれる」「選ばれる」ということ

たばこ問題については、非喫煙者、喫煙者、医療関係者の中にもさまざまな意見があり、特にネットではそれらを目にする機会も多い。

野崎氏の言うように、生活者としては、多種多様な意見が飛び交う中から「自分なりの選択」をしなければならない。それが議論の現在地だ。

その上で、例えば「医学的に正しい」ということは、それだけでは好かれる、選ばれる理由にはならないことがある。むしろ、それを押しつければ、嫌われる、選ばれない理由になり得るだろう。

情報の伝え方には工夫が必要だ。同時に、そのような工夫には、ありていに言えばお金がかかる。必然的に、たばこ産業のPRが世の中に浸透していく。

私たちの選択は、社会を形づくる。それは本当に、十分な情報を得た上でなされたものだろうか。検討を重ねたものだろうか。

常にそんなことを考えていては、疲れてしまう。しかし、受動喫煙(吸引)など、自分だけの責任では済まない問題については、頭の片隅にでも、置いておいた方がいいのではないかと、私は思うのだ。


Seiichiro Kuchikiに連絡する メールアドレス:seiichiro.kuchiki@buzzfeed.com.

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