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風疹患者の大幅増加、妊婦に「歯がゆいが、自衛を求めるしかない」現状 赤ちゃんを守るためにできること

「過去の流行のときと同じことを繰り返している」と専門家。

首都圏で患者数が大幅に増加している風疹(三日ばしか)について、国立感染症研究所は「既に、首都圏を中心に国内流行が発生し始めている可能性が高いと考えられる」とコメントした。

日本産婦人科医会も「2013年の大流行の前兆に類似した状況」として、8月17日に声明を発表している。

この声明では「20週までの妊婦さん」に強く注意を促した。現在の患者は30〜50代の男性が中心だが、妊婦は赤ちゃんを守るために、さらに気をつけなければならないという。

妊婦が風疹に感染することによる赤ちゃんへの影響、そして妊婦はどのように感染を予防すればいいのかについて、BuzzFeed Japan Medicalは日本産婦人科医会副会長で国立病院機構横浜医療センター院長の平原史樹さんに話を聞いた。

「誰が感染しているのかわからない」

風疹は「発熱」などの風邪のような症状、 「耳の後ろ、後頭部などのリンパ節の腫れ」「全身の淡い赤色の発疹」「眼の充血」などの症状が出る、ウイルスを原因とする病気。

感染は、くしゃみや咳、唾液のしぶきなどの飛沫、接触によって起きる。潜伏期間は14〜21日で、発疹の出る1週間前から症状が消えるまでの期間、感染力を持ち、症状の出そろう時期が周囲への感染のピークとなる。

また、症状を伴わない「不顕性感染」という状態も15〜30%みられ、このときも感染力がある。

つまり、「風疹が流行してしまうと、誰が感染しているのかわからない」(平原さん)状態になる。

平原さんはこの状態を「妊婦さんにとって脅威になる存在が、それとわからない形で紛れ込んでいる」と表現する。

なぜ、妊婦にとって脅威になるのか。それは、妊婦が風疹に感染することによって、ウイルスが赤ちゃんにも感染し、「先天性風疹症候群」という病気になることがあるからだ。

「お母さんにとっては自分のお子さんがすべて」

妊娠20週ごろまでの妊婦が風疹ウイルスに感染すると、赤ちゃんにも感染し、先天性風疹症候群として、難聴や心疾患、白内障などの障害を持って生まれてくることがある。

そのため、妊娠20週ごろまでの妊婦は「風疹にかからない」こと、「風疹患者に接しない」ことに注意が必要になる。

日本では2012年、2013年に風疹が大流行し、それぞれ2386人、1万4344人の患者が報告された。関連して先天性風疹症候群になった赤ちゃんは45例、報告されている。

「流行によって患者数の増減はありますが、お母さんにとっては自分のお子さんがすべてです。もし、先天性風疹症候群を発症してしまったら、一生そのことと向き合わなければいけない」

その上で、平原さんが「私たちにとっては1人でも出たら“負け”なんです」と強く訴えることには、理由がある。風疹はワクチンで予防できる病気だからだ。

風疹はワクチンで予防できるが……。

風疹はワクチンを二回接種していれば、ほぼかかることはないとされる。一方、日本ではワクチンの接種をまったく受けていないか、一回しか受けていない人がいる。

「1979(昭和54)年4月1日までに生まれた男性(39歳以上)」「1962(昭和37)年4月1日までに生まれた女性(56歳以上)」は、ワクチンの接種を受けていない。

また、「1990(平成2)年4月1日までに生まれた男女(28歳以上)」は、ワクチンの接種を一回しか受けていないため、これでは不十分だ。

ワクチンの不徹底世代は、感染を拡大させないためにも、二回のワクチン接種をする必要がある。

しかし、このような啓蒙は「2012・2013年の大流行のときも、古くは2004年に流行したときから、ずっと繰り返されてきたこと」。しかし、「結局、接種しない人は接種しません」(平原さん)。

「歯がゆいが、これではもう、妊婦さんに自衛を求めるしかありません。今回の声明で妊婦さんへの言及を多くしたのは、このような事情があります」

「風疹にかからない」ために

妊娠中の女性はワクチンをうつことができない。ワクチンが赤ちゃんに影響を与えることを防ぐためだ。女性がワクチン接種を徹底していない状態で妊娠した場合、風疹が流行したら、どうするべきなのか。

対策はまず「風疹へのかかりやすさを確認する」こと、そして、もしかかりやすければ「風疹患者に近づかない」ことが重要だと平原さんは指摘する。

自身が風疹にかかりやすいかどうかは、風疹に対する「抗体価」と呼ばれる値を調べることでわかる。

過去に風疹にかかっておらず、ワクチン接種が不十分な場合、この値が低いか、陰性になる。抗体価が低いか陰性の場合、その人は風疹にかかりやすいといえる。

平原さんによれば、妊婦はかかりつけの産科に受診する過程で、風疹の抗体価の検査を受けることが多い。しかし、結果がでるまでの間に、風疹の影響を受けやすい妊娠初期が過ぎてしまう場合もあるという。

風疹抗体検査は、複数の自治体で、成人女性やその夫・パートナーなどを対象とした費用助成事業がある。ワクチンの接種歴に不安があれば、各市区町村保健担当部署に問い合わせをして、利用することができる。

妊婦の抗体価が低いか陰性であれば、特に妊娠初期は、風疹患者に近づかないことが必要になる。

「リスクを把握するために、住居や職場などの周囲で風疹の感染が発生していないか、各地域の保健所に問い合わせてみてください」

「周囲で患者の発生があれば、人混みを避け、不要不急の外出をできるだけ控えるなど、できるだけ風疹患者に近づかないようにするしかないでしょう」

「それぞれの立場で対策が必要」

もちろん、妊婦だけの問題ではない。妊婦の家族や職場の人も、ワクチンの接種歴を確認し、二回接種を受けておらず、風疹にかかったこともなければ、「速やかにワクチンの接種をしてください」と平原さん。

また、そもそも、ワクチン接種が不十分な人がいることが流行の要因になっている以上、「社会全体として、ワクチンの接種率を上げていかなければならない」とする。

今回の声明でも、流行の中心になっている、風疹への抵抗力が弱い30〜50代の男性に、強く接種をすすめている。平原さんも「この機会に接種を」と呼びかける。

しかし、このような呼びかけだけでは「過去の流行と同じことを繰り返すことになる」(平原さん)。国にも公費補助などを求めた経緯があるが、実現していない。そこで平原さんが注目するのが、会社の健康管理者や責任者の役割だ。

「働き盛りの人に“会社を休んでワクチンをうって”と言っても、聞いてもらえないでしょう。職場に妊婦さんがいれば健康管理者や責任者はわかるはずなので、公休扱いにするなどして、社員にワクチン接種を徹底していただきたいです」

風疹ワクチンの接種に補助を出す企業もある。産婦人科医会では風疹予防に積極的な企業を表彰するなどの活動をしており、平原さんは「ぜひ、社会として赤ちゃんを守ることに、協力を」と訴える。

そして、現在は妊娠していない女性には「“あのときにワクチンをうっていれば”という後悔をしてほしくない」として、次のように述べる。

「なんとなく“大丈夫”とは思わず、ぜひ妊娠前に、ワクチンを接種してほしい。産婦人科医として、そう強く願っています」