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新型たばこについてわかっていること、わかっていないこと

生活に入り込む「新型たばこ」に、どう向き合うべきか。

「新型たばこ」は「安全」か

よく作業をするカフェの禁煙席に“Ploom TECH only”という張り紙を見つけた。同行の友人(彼女は喫煙者だ)に聞くと、Ploom TECH(プルームテック)は「最近流行り」の「新型たばこ」だという。

「煙が出ないから、禁煙席でも吸えるところがあるんだよ」そう言って彼女はスティック状のプルームテックを「ふかし」た。

たしかに以前、彼女が吸っていた紙巻たばこと比べると、ほとんど煙は出ないように見えるし、人気のIQOS(アイコス)と比べても、臭いは格段に抑えられているように思われる。

しかし、休日の午後、駅近くのそのカフェには、子ども連れの家族の姿も多い。少し離れた席に座る小さな子どもを眺めながら、ふと「新型たばこは安全なのだろうか」と疑問に思った。

日本呼吸器学会は警鐘を鳴らす

そもそも、新型たばことは、従来の紙で巻かれた燃焼式たばことは異なるたばこ製品。「非燃焼・加熱式たばこ」と「電子たばこ」に大別される。

非燃焼・加熱式たばこでは、葉タバコを加熱することにより、ニコチンを含むエアロゾル(*)を生じさせて、それを吸引する。電子たばこでは液体(ニコチンを含むもの、含まないもの)を加熱してエアロゾルを生じさせて、それを吸引する。

*固体または液体の微粒子が気体中に浮遊している状態

ただし、ニコチンを含む液体を加熱するタイプの電子たばこは、日本では医療機器として取り扱われるため、一般には流通していない(個人輸入はできる)。日本で普及し始めているのは、IQOS(アイコス)、Ploom TECH(プルームテック)、glo(グロー)などの非燃焼・加熱式たばこだ。

これらの新型たばこについて、日本呼吸器学会は10月31日に見解を発表。「健康に悪影響がもたらされる」「受動吸引による健康被害が生じる」可能性があることを指摘し、新型たばこが普及しつつあることに対して、警鐘を鳴らした。

同学会は、新型たばこについて誤解があるとし、「煙が出ない、あるいは煙が見えにくいので禁煙のエリアでも吸える」「受動喫煙の危険がない」「従来の燃焼式たばこより健康リスクが少ない」とは言えない、と指摘する。

一方で、この見解の中でも「これらの新型たばこの使用と病気や死亡リスクとの関連性についての科学的証拠が得られるまでには、かなりの時間を要します」とも述べられている。

今、新型たばこについては、何がわかっていて、何がわかっていないのか。まずはそれを整理してみよう。

新型たばこの健康リスクは

同学会は前述の見解の中で、加熱式たばこの主流煙(使用者が吸い込む煙)の中には、従来のたばことほぼ同じレベルのニコチンや、揮発性化合物(アクロレイン、ホルムアルデヒド)などの有害物質が含まれるとする研究結果を紹介している。

また、加熱によりエアロゾルを生じさせるときに、ニコチン以外のリキッド成分が複雑な混合物を経て発がん性物質に変わることも指摘されているという。

このような物質を体内に取り込むことになる以上、「新型たばこ」でも、喫煙者は「健康に悪影響がもたらされる可能性がある」というわけだ。

では、受動喫煙はどうだろう。10月16日に発表された日本禁煙推進医師歯科医師連盟の緊急声明では、「人が吸い込んだ空気の1/3程度は、そのまま吐き出され」ることから、「加熱式たばこから吸い込んだエアロゾルも同様に吐き出され、周囲の空気を汚染する」と指摘。

実際に、室内で加熱式たばこを吸ったときに「同じ室内にいる人が暴露する1ミクロン以下の微小粒子の数」は「紙巻きたばこの1/4」である、とする研究結果を紹介している。

つまり、「煙が出ない、あるいは煙が見えにくいので禁煙のエリアでも吸える」「受動喫煙の危険がない」は誤解で、「受動吸引による健康被害が生じる可能性がある」ということになる。

とはいえ、「可能性がある」というだけでは、説得力に欠けるようにも思われる。少なくとも「従来のたばこよりマシ」と考えている喫煙者には届かないだろう。

新型たばこに害がある可能性があるなら、私たちは何をするべきなのか。BuzzFeed Japan Medicalは、新型たばこについて研究する大阪国際がんセンターがん対策センター疫学統計部副部長の田淵貴大医師に話を聞いた。

紙巻たばこの研究成果とあわせて考えるべき

田淵医師は、新型たばこについて、「有害な物質が含まれ、それを吸い込んでいるわけですから、害があることはほぼ確実です」とする。

しかし、「研究データが不足しているため、どれくらい害があるのかについては、“現段階では詳細不明”という言い方になってしまう」という。

加熱式たばこで現在、世界的なシェアを持つアイコスが、初めて発売されたのは2014年、日本でのこと。2016年末時点で、販売されているのはイタリア、スイス、韓国など10カ国程度だった。

研究もまだ始まったばかりで、数千の疫学的研究によって害があることが強固に証明された紙巻たばことは、情報量では比べ物にならない。

だからこそ、「従来のたばこより健康リスクが少ない」というのは、少なくとも今のところは「根拠がない推測」だという。

ニコチン以外の有害物質の量が、従来のたばこと比較して少ないことは事実でも、そのことにより「有害物質による害が少ない」と結論づけることはできない。

例えば、1日1本程度の喫煙であっても、喫煙者には非喫煙者と比べて、有意に大きい発がんリスクがあると報告されている。喫煙においては、1日の喫煙量は少ない方が害は少ないが、1日の喫煙量よりも何年吸ったかという喫煙期間の影響の方が大きいことがわかっている。

また、受動喫煙で吸い込む煙の量は、喫煙者本人が吸い込む煙の量の100分の1程度。しかし、受動喫煙のある非喫煙者は、受動喫煙のない非喫煙者と比べて、心筋梗塞のリスクが約30%高くなる、という研究結果もある。単純にリスクが100分の1になるわけではないのだ。

また、「加熱式たばこが紙巻たばこの禁煙につながる」という主張についても、研究データの乏しい今のところは、やはり「根拠のない推測」だ。

「たばこよりマシ」とは言えない

田淵医師は「新型たばこを従来の紙巻たばことだけ比べることは適切ではない」と指摘する。

「たばこは毒ですから、たばこと比べれば何でもマシということになってしまいます。だから、世の中にあるたばこ以外の物と比べる視点も重要です。もし化粧品から発がん性のあるホルムアルデヒドが検出されれば、回収になります。しかし、たばこではそうはならない」

田淵医師は、新型たばこについて「わかっていないことが多い」と認めつつ、「それでも、人々の健康を守るという観点を尊重した対策を講じるべきだ」と語る。

「体に悪いものと知らず吸わされ、後からそれが悪いものとわかっても、取り返しがつきません。その最たる例が、従来のたばこです」

「今、紙巻たばこのように体に悪い製品が新しく開発されたとして、認可されないでしょう。しかし、たばこは害があるとわかった時点で、すでに広く社会に普及してしまっていた。そうなってからでは遅いのです」