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「がん」検索者につきまとうネット広告に批判 健康食品を「あきらめないあなたに」

小林製薬は批判のあった広告について「内容の見直しを検討する」と回答。

健康食品のネット広告をめぐる問題で、小林製薬が「アフィリエイト広告」事業を大幅に縮小したと、BuzzFeed Newsは8月25日に報じた。しかし、同社へは別のネット広告事業について、批判の声が上がっていた。

批判の的となっているのは「リスティング広告」と「リターゲティング広告」。その内容は、例えば以下のようなものだ。

小林製薬のリスティング広告の事例

リスティング広告とは、GoogleやYahoo!などの検索エンジンにおいて、ネット利用者がある検索ワードで検索したときに、その結果に連動して表示される広告。検索連動型広告ともいわれる。

リスティング広告は、検索結果を示すページの目立つ場所、上下・右サイドなどに表示される。検索ワードにはネット利用者のニーズ(要望)が強く反映されるため、商品の購買を促すために有効な広告とされる。

ある検索ワードについて、限られた枠数を複数の企業が入札(オークション)方式で獲得する。企業はその広告文に工夫を凝らし、よりクリックされやすくしようとする傾向がある。

小林製薬のリターゲティング広告の事例

リターゲティング広告とは、自社サイトを訪問したネット利用者を追跡(リターゲティング)し、ネット利用者が行く先々のサイトの広告枠に、自社の広告を表示させるシステム。

リターゲティング広告に対応したサイトをネット利用者が訪問すると、そのときのネット利用者の情報を元に、追跡が始まる。

あるサイトを訪問したユーザーのうち、9割は商品の購買や会員登録などの行動をせずにサイトを離れると言われる。

リターゲティング広告は、ユーザーと同じ種類の広告を目にする回数を増やすことで、行動を起こす可能性を高める目的で使われる。

例に挙げた小林製薬のネット広告に、一部の医師らから批判の声が上がっていた。

批判はブログやSNS上で2016年から続いている。広告内容が「がん」を強く意識させるものだったからだ。

例えば、先述のリスティング広告の事例は「がん」関連の検索ワードで検索した際に表示されたもの。よく見ると「がん ばる人へ届けたい」の「がん」と「ばる」の間に半角スペースが入っている。

Googleが認定するトップコントリビューター(一般ユーザーの広告運用をサポートする役割)であり、ネット広告の仕組みに詳しいハイパス株式会社代表の小西一星氏は、BuzzFeed Newsの取材に次のように述べる。

「広告テキストに含める文字列によって、狙った検索語句で広告が表示されやすくすることは可能です。この場合、広告運用担当者に“がん”で表示させたい意図があることは推測できます」

広告枠を争うオークションの成否に関係する要素は複雑だが、「検索語句と広告の文字列の関連性」は低いよりは高いほうが有利になるため、テクニックとしてはよく用いられるそうだ。

例えば、ユーザーが「サプリ 格安」という語句で検索したとき、広告テキストは「サプリ通販」より「格安のサプリ」の方が表示されやすくなる。このようなテクニックが「がん」という単語に対して使われたことになる。

「この件について、広告システムが“がん”という単語を認識していたのか、実際のところはわかりません。しかし、“がん ばる”の間にスペースを入れるのはあまりにも不自然で、“がん”という単語を印象づけたいとしか思えません」

また、先ほどのリターゲティング広告は、「がん」の検索結果に表示された先述のリスティング広告をクリックした後、追跡されたものだ。

「帽子を被った女性」ががん治療時の脱毛を隠していることを思わせることや、「あきらめない」というキャッチコピーからも、こちらもがんを意識しているネット利用者を広告の対象としていることがうかがえる。

一度でもこの商品に関連するサイトを訪問すれば、ネット利用者はこの写真とキャッチコピーに追跡され続けることになる。

この商品は「栄養補助食品」、つまり健康食品だ。これを「がん」と結びつけることに問題は。

一部の例外を除き、いわゆる健康食品には、医薬品であると誤認されるような効果効能を表示・広告することはできない。

個別の広告が医薬品医療機器等法(薬機法・旧薬事法)に抵触するかどうかを判断するのは都道府県の薬務課だ。都は公式サイトで「ガンに効く」や「疲労回復」など、薬機法上問題になり得る表現の事例をまとめている。

都の薬務課担当者は、BuzzFeed Newsの取材に、広告には病名を記載することはできないと回答している。

「医薬品の定義のひとつには“人の疾病の診断・治療もしくは予防に使用される”というものがあります。規制は表現が明示的・暗示的かにかかわらず適用されており、病名は効果効能を暗示するものとされています」

この広告自体には「がん」の単語はない。しかし、テクノロジーの発達により、リスティング広告やリターゲティング広告などの手法を用いれば、栄養補助食品と「がん」を結びつけることができてしまう。

リスティング広告やリターゲティング広告について、厚生労働省の医薬・生活衛生局の監視指導・麻薬対策課の担当者は、判断はあくまで個別の事例に対しておこなわれるとした上で、次のように述べる。

「一部のネット広告にはグレーなものもある。広告内容の書きぶり次第ではありますが、場合によっては不適正事例として指導が入ることはあり得ます」

実際に個別の事例を判断する東京都のサイバー監視担当者は、「新しいネットの広告手法は再現性に乏しく検証が難しい」という。

リターゲティング広告などが好例だが、ネット広告ではさまざまなネット利用者の情報が広告配信に活用されるため、「同じ広告を他の人が見ることができなかったり、同じ人でももう一度見ることができなかったり」することがある。

しかし、都としても問題は把握しており、気になる広告があれば「各都道府県の薬務課に情報提供をしてほしい」(同担当者)とした。

このような現状において、問われるのはメーカー各社の倫理観だ。

見る側は「がん」を意識せざるを得ない広告だが、小林製薬の広報担当者はBuzzFeed Newsの取材に「がん患者のみを対象にした広告ではない」と話す。

同担当者は、広告内容について「弊社と代理店・制作会社が共同で制作したもの」で、「公開にあたっては、すべて社内のチェックを経ている」という。では、どのようなチェックがなされているのか。

担当者の回答は「法律に抵触しないためのルールはあるが、倫理的なルールは明確にはない」「弊社と代理店・制作会社が都度、話し合って決めているのが実情」というものだった。

小林製薬はアフィリエイト広告事業を大幅に縮小している。BuzzFeed Newsの取材に対し、その理由を「意図しない内容が世に出る」リスクを避けるためと説明していた。

一方で、2016年から批判の声が上がるリスティング広告やリターゲティング広告については、継続している。

広告の内容への批判については、「社として把握していない」(担当者)。いくつかの批判を紹介すると、8月23日に追加で回答があった。

「批判のあった広告内容については今後、見直しを検討し、信頼性向上に務めさせていただきます」


【お願い】

BuzzFeed Newsは、医療・健康に関する広告の問題を、引き続き取材します。問題があると思われる広告内容を見つけた方は、Twitter( @amanojerk )またはメール( japan-info@buzzfeed.com )などでご連絡ください。